綺鴉羅は思ったよりドスケベ
俺は、夢を、見ていた。
何故そう思ったのかはわからない。
でも、俺は夢の中で、この世のものとは到底思えない柔らかさのものに包まれ、眠っていた。
柔らかい。
何と言えばいいだろうか。
ヨ○ボー?
水風船?
どれも違う気がする。
そう例えるなら
高速道路を時速100キロで爆走している最中に窓から手を出した時の風の感触に似ている。
「……え?」
俺の意識が、夢から現実へ戻ってきた。
とたん、脂汗が吹き出る。
そっと目を開ける。
目の前が、大きな2つ山で埋まっていた。
目線をそっと上へ。
そこにあったのは、美しい寝顔。
綺鴉羅が、俺の部屋の布団で、俺の顔を抱きしめながら眠っていたのだ。
なんで???
ほんとになんで???
セクハラだとか、未成年淫行だとか、様々な事柄が頭の中を駆け巡る。
ここで叫ばれたらマズイ。
奈央からの軽蔑の眼差しが耐えられん。
──お、落ち着け
こいつが起きる前に、そして奈央が来る前にそっと抜け出せば……
「……ん」
そんなことができるわけもなく、目を覚ました綺鴉羅とバッチリ目があった。
わーお、綺麗な瞳。
サファイアみたい。
「……」
「いや、どうか落ち着いてほしい」
ここで叫ばれたら、俺は終わる。
切実な言葉だった。
だが、綺鴉羅はこんな状態を見ても、思ったより落ち着いていた。
「気にしなくていい。私が昨日の夜、お前の布団に潜り込んだんだ」
「そっかー良かったー……は?」
なんて言った今コイツ。
そう突っ込むのも束の間
「いい匂いだ……」
「ちょ! うぶぉ!」
俺の頭を自分の胸に、抱きしめてきた。
「ん……れ、零、くすぐったいぞ。胸の中で喋るのはやめてくれ」
「ぶもがぁ!! やめるのはお前だ!! 何してんだ淫乱おん……まがぁ」
俺を黙らせるように、コイツはまた俺の顔を2つのお山に押し込んだ。
「この間、『お返しをするなら自分で考えろ』と、零は言っただろう」
「むぐぁ……言った」
「これが、その答えだ」
「そっか、じゃあ俺のせいだな───とはならねえよこの変態カラスがぁ!!!」
俺は唾を飛ばす勢いでガチ説教をかました。
「なんで恩返しが身体なんだ!? どこで覚えたそんなこと! 許しませんよお父さん! そんなはしたない女の子に育てた覚えはもがぁ」
「いいじゃないか。お前が私の身体をよく見ているのは知っている」
「ぼばぁ!!? い、いや何言ってんの? み、見てねえし……! ほ、ほんと、なに? は? ばーか!」
「照れなくていい。だから、布団に潜り込んだ。本当はいろいろお礼をする予定だったんだが……お前の匂いを嗅いでるうちに安心してきてしまって……つい寝てしまったんだ」
「いや意味わからんわ!! お前がこんなことしていると絵面的にアウトなんだって! 児童福祉法って知ってるか!?」
「知らない」
そりゃそうだ!!
「ええい問答無用だコラァ!!」
「……!」
なりふり構ってられん。
俺はありったけの力を込めて、綺鴉羅の体からやっとの思いで抜け出した。
すぐさま起き上がって綺鴉羅から距離をとる。
「お、思ったより力が強いんだな……」
「へっ! 大人を舐めるなよ! もうこんなことすんじゃねえぞ! おら出てけ!!」
俺は綺鴉羅の手を取って立たせ、引っ張って部屋の外まで連れて行こうとした。
「ま、待ってくれ! 零!」
「いーや待たんね! なんなら俺の身の潔白のためにも、奈央に説教でもしてもらうわ!」
「そうしていい! でも、あともう少しだけ頼む!」
綺鴉羅が俺の手を引っ張る力が、少し強張ったのを感じた。
その様子を見て、俺は綺鴉羅を引っ張るのをやめて、振り返る。
綺鴉羅は胸に手をやって、寂しげな顔で俺を見つめた。
「こんなこと、頼むなんて良くないというのはわかってる。でも、頼むから、もう少しだけ、隣で寝て欲しい……」
その瞳は、本当に困っていた。
ふざけてやったのではないとわかるほど。
「……なんで?」
俺がそう聞くと、綺鴉羅は少し、俯いて言った。
「寂しいんだ……どうしようもなく」
「……」
なんで、襲ってきといてこんな寂しそうな顔をするのかね……
綺鴉羅が俺以上の孤独と、寂しさを感じているということはわかるが……
「恩返しと言ったが、私も、お前と一緒に寝ていたいんだ。お前の匂いに包まれると、安心するから……」
「くっ……」
こんな顔をされると許したくなっちゃうじゃねえか。
美人ってお得。
「……わかったよ」
俺が観念したようにそう告げると、綺鴉羅は顔を上げた。
「いいのか……?」
「しょうがねぇよ。こうしてれば、寂しさが紛れるんだろ?」
こんな顔してる女に対して性欲も湧かねえわ。
「ありがとう。じゃあ早速」
「へ?」
そこからの綺鴉羅は早かった。
俺の顔を再び自分の胸に抱き寄せて、再び布団へとダイブした。
「ぶぁぶ!」
あー前言撤回。
やばいってコイツ。
「おい、どうして暴れてるんだ? そばにいてくれるんだろう?」
「もがっ! ちげえよ! せめて添い寝とかだって! こんなダイレクト密着があるか!」
「だが……こうすれば温もりを感じられる」
「だとしてもだろ!? 俺男なの! くっつくと色々問題あんのわかるだろうが!!」
「しかし……嬉しいのだろう? 反応しているぞ」
「ちょ! ほんとやめてぇ? こ、これはアレだから! 朝になるとなっちゃう奴だから!」
落ち着け、コイツは鴉コイツは鴉……今は超絶美人でも幻術が解けたら顔は鴉の妖怪。あ、でも良い匂い柔らかーい。
そんな押し問答をやっている中
ガラッ
襖が開いた音がした。




