俺と綺鴉羅は笑い合う
市役所前。
奈央は綺鴉羅の刀の書類を書いて出しに行ってくれた。
俺と綺鴉羅は市役所前で待っている。
綺鴉羅は、大切そうに刀を抱きしめていた。
「ほらよ、ソフトクリーム買ってきたぞ」
市役所前の店で売っていたソフトクリームを、綺鴉羅に手渡す。
チョコバナナ味だ。
「あ、ありがとう……」
「なんだ? 好きじゃなかったか? 俺の苺味と交換するか?」
「う、嬉しいぞ? もちろん……でも……」
受け取ったソフトクリームを見つめて、少し、綺鴉羅は目を伏せた。
「こんなに、いろんなものを貰っているのに……私は、お前たちに何を返せばいいんだ?」
なんだ、そんなことで悩んでいたのか。
「返そうとなんて、しなくていいんだよ。俺たちが勝手にやってる事だ」
「しかし……私は、貰ってばかりだ」
「……ま、そんなに何か恩を返そうとしてるなら、またこの間の飯作りみたいに自分で考えな。楽しみにしてっからよ」
「私が……考えて……」
「それに、刀だのソフトクリームだの買ったのは、別の目的もあるからな」
「……別の目的?」
「こうして外に出ていろんなものに触れりゃ、もしかしたら、ふと記憶を思い出すかもしれねぇだろ?」
「記憶……」
俺の言葉に、綺鴉羅は少し固まった。
「そうだな……」
そう言った彼女の表情は、まだ少し暗かった。
俺たちは無言で、ソフトクリームを食べる。
甘ったるい味が広がって、少し、胸焼けがしそうだった。
ソフトクリームを半分ほど食べ進んだ頃。
「なぁ、零」
沈黙を破ったのは、綺鴉羅だった。
「お前は、私の記憶が、戻って欲しいのか?」
「そりゃ……戻るに越したことはねえんじゃねえか?」
「どうして?」
どうしてって……そんなの……
「お前は、本当は『独りぼっち』じゃないかもしれないだろ」
そう、俺と綺鴉羅は、状況が異なる。
「もしかしたらお前にも、家族とか友人とか……大切な奴が、いたかもしれねえ。それを忘れたままなのは……寂しいだろ。お前も」
「……それも、そうだな」
俺の答えを聞いて、綺鴉羅は納得したように頷いた。
「だけど……私は、『今』が楽しい」
綺鴉羅は、それでも、俺の言葉を否定した。
「零と、奈央と、一緒にいれて、私は、幸せだと思う」
「綺鴉羅……」
「だから、私は別に、記憶が戻らなくても良い」
「……だが、それじゃ、お前が寂しいだろ」
この世界で、1人は、寂しい。
それは、俺も、奈央も、よく知っている。
「寂しくない」
でも、綺鴉羅は胸を張って言った。
「家族は、ここにいるからな」
「……」
なんだよもーコイツ。
胸が締め付けられそうなことを言ってんじゃないよ。
俺と見た目の歳はほぼ変わらないくせに……
「零? どうした? 胸を押さえて……」
「なんでもねぇよ……! ソフトクリーム食え! 溶けるぞ!」
「おっと、そうだな」
俺たちは半分溶けていたソフトクリームを急いで平らげる。
残すところ、コーンが一口だけだった。
「美味かったか?」
「ああ、美味しかった。でも……」
綺鴉羅は最後のコーンを口に放り込んで、こう言った。
「お前たちから貰った、あのうどんが、一番美味かったな」
「俺も綺鴉羅の卵焼きの方が好きだな」
そう言い合った俺たちは顔を見合わせる。
「ぷ、く」
「あははは!」
そうして、笑い合った。
奈央が市役所から戻ってくるまで、その笑い声は続いた。




