綺鴉羅は刀に興味がある
ある日の午前中
「3人で──お出かけを、しませんか?」
俺たちがのんびりとオセロ大会に興じていると、奈央が突然そんなことを言い出した。
そのことを聞いた綺鴉羅の目が、キラキラと輝いた。
「……! 私も、外に出ていいのか?」
「はい──奈央さんの怪我も、だいぶ治ってきましたし、リハビリも兼ねて如何でしょうか」
「あぁ……! 行きたい! いい加減身体が鈍っていたところだ!」
綺鴉羅はずっと家の中で療養していたのだ。
テンションが上がっているようだ。
「どうでしょうか──零様」
「別にいいが、どこに行くかだな」
綺鴉羅からしたらせっかくの久しぶりの外だ。
綺鴉羅の行きたい場所がいいか。
「綺鴉羅は行きたいところはあるか? 楽しいところとか、美味しい食べ物があるところとか」
「そうだな……」
綺鴉羅は少し考える。そして
「じゃあ……」
「凄い……! いろんなものが売っているぞ! 零、奈央!」
俺たちは、結局ここに来た。
幽冥町、商店街。
そこに売っている食い物や雑貨を見て、綺鴉羅は目を輝かせる。
「き、綺鴉羅さん──本当にここで良いのですか?」
「テーマパークとか、もっと面白いところでもいいんだぜ?」
俺たちがそう聞いた。
正直言って、ここはただの町だ。
若者が遊ぶには、面白味なんてない。
「いや、ここがいい」
綺鴉羅は、迷わずに言った。
「お前たちが、暮らしている町、だからな」
「「……」」
なんだこいつ。
可愛いじゃねえか。
「綺鴉羅さん、手を繋ぎましょうか──逸れたらいけませんから」
「欲しいものがあったら言えよ? なんでも買ってやるから」
「……? あ、あぁ」
俺たちは商店街を散策する。
すると、俺が外に出られるようになってから、顔馴染みになった商店街の奴らにも声をかけられる。
「おお、零の旦那に奈央ちゃんじゃねえか」
「その子がこの間から聞いてた烏天狗かい?」
「えぇ──綺鴉羅さんと、いいます。皆さん、どうか良くしてあげてください」
「綺鴉羅だ。よろしく頼む」
「おやぁ……凛々しい子だねえ」
「記憶喪失なんだって? 大変だと思うけど、頑張ってね。饅頭あげるよ。好きかい?」
「え、あ、ありがとう……くれるのか?」
あっという間に周りのみんなが寄ってきて、綺鴉羅を取り囲む。
早速あれやこれやと世話を焼かれる綺鴉羅と、その傍で微笑みながら綺鴉羅の手を握る奈央を遠目に、俺は見ていた。
「両手に花だねぇ零の旦那」
「そうだな」
まぁ、そう言われて悪い気分はしない。
「あれで記憶喪失とは……記憶、早く戻るといいなぁ」
「……そうだな」
この外出で、過去を少しでも思い出せると良いのだが……
商店街の奴らに貰った荷物を持ちながら、俺たちは町を散策する。
「いい町だな」
「綺鴉羅さんは可愛いですから──いろんな方ともう仲良しになれましたね」
「みんな、良い奴ばかりだった。お前たちの町を、好きになれそうだ」
「そうかい、気に入ったようでよかったよ」
そんな会話をしながら歩いていると、綺鴉羅がふと、足を止めた。
すぐそこにあった店をじっと見つめている。
綺鴉羅が見ていたのは、鍛冶屋だった。
「──鍛冶屋に、入りたいのですか?」
「……あぁ、なんでか、惹かれる」
綺鴉羅はフラフラと、その鍛冶屋に誘われるように歩いて行った。
俺たちも後をついて行って、店内に入る。
「いらっしゃい」
中にいたのは、昔カタギの堅物そうな店主1人だった。
綺鴉羅はキョロキョロと店内を見回す。
そこかしこに、高そうな刀が飾られていた。
「刀……」
綺鴉羅はじっと飾られている刀を見つめている。
「剣、好きだったのか?」
「わからない……でも、妙に懐かしい気分だ」
「たしかに──烏天狗は、剣術が得意とされている方が多いと聞きます」
──それは知らなかった。
ということは、綺鴉羅も剣を使っていたのか?
「店主。試し振りを、して良いか?」
「おおいいぞ。でも壊さんようにな」
許可をもらった綺鴉羅は店内に飾られてあった刀を手に取り、鞘から抜く。
綺鴉羅の羽や髪と同じような、漆黒の刀身。
まっすぐな直刃で、煌めいていた。
綺鴉羅が両手で剣を握り、構える。
「……ふっ!」
一振り。
剣道なんてやったことはないからよくわからないが、綺鴉羅の剣を振る姿が様になっていた。
「──素晴らしい剣筋ですね。身体の芯が、しっかりと真ん中を走っています」
「ありがとう。うん、しっくりくる」
そう言って綺鴉羅は剣を見つめた。
もしかしたら、記憶を取り戻す鍵になるかもしれない。
「買うか?」
俺の提案に、綺鴉羅は驚いた顔で俺を見つめた。
「い、いいのか? しかし……高価なものだぞ?」
「いいんだ。金には困ってねーしな。店主、いい刀があったら見繕ってくれねえか? 金はいくらでも出す」
「なら、嬢ちゃんが手に持っている刀が良いだろう。名刀、『天裂』と呼ばれる刀だ」
「天裂?」
「あぁ、昔、有名な人間の陰陽師が使っていたとされる伝説の一刀さ。文字通り天を裂くような切れ味の代物だぞ」
「……」
胡散臭くね? そんな伝説が本当だとして、なんでこんなところに?
「綺鴉羅、どうする? 他のものでも……」
「……いや、これがいい」
「そうか」
綺鴉羅が認めたなら、俺は文句はない。
俺は金を払い、漆黒の刀を購入した。
「ほら、綺鴉羅」
綺鴉羅に手渡す。
受け取った綺鴉羅は、大切なものを守るかのように、刀を抱きしめた。
「ありがとう……」
「あぁ」
「大切にする……一生」
「大袈裟だな」
少しでも、綺鴉羅の記憶の手掛かりになればいい。
「あ、刀を所持するなら親の同意とサインが必要だぞ。市役所でしっかり手続きやりな」
なんでそういう法はしっかりしてんだこの世界。




