綺鴉羅はだんだん馴染んでいく
この家に、新しい家族が増えました。
私──奈央は買い物終わりに家に帰ってきて、扉お開けようとすると、家の中から白熱した2人の声が聞こえてきました。
「あいー! これで四つ角全部取ったぜ〜! また俺の勝ち〜!」
「おい大人気ないぞ!! 少しは手加減したらどうだ!?」
「アホめッ! 相手が誰だろうが、全力でやるのが礼儀なんだよ! それにお前、手を抜いたら怒るだろ!!」
──居間で零様と綺鴉羅さんがオセロをやっているのです。
様子を見ると、また零様が勝ったようです。
「──ただいま戻りました」
「おお、お帰り、奈央」
「奈央! 零にどうしても勝てないんだ! 頼む! 仇を討ってくれ!」
そう言って綺鴉羅さんは私に懇願してきました。
「仇ですか──しかし、私は零様に勝つような真似は……」
オセロの腕は私が一番強いのですが──それでも、零様には負けて差し上げたい。
「そうだそうだ。奈央は俺の味方なんじゃ」
「じゃあ奈央、勝った方が負けた方に好きに命令できるルールをつけよう。零に好きな命令ができるぞ」
「やりましょう──」
「奈央!?」
そうやって、私たちの家は賑やかになりました。
「ふふっ──ですが、もうすぐ夕飯のお時間ですから、食べ終わってからにしましょう」
綺鴉羅さんの傷も、翼の傷はまだ塞がっていないため飛べませんが──こうして家を歩き回れるくらいには良くなりました。
私の声に、お二人も同意し、零様はオセロ板を片付けに行きました。
私は夕食の準備をするために、台所に立ちます。
「奈央、私も手伝う」
すると、綺鴉羅さんが私の隣に来て、そう言ってきました。
最初は警戒していた彼女も──すっかり私たちに懐いてくれました。
「──ありがとうございます。しかし、貴方は怪我人です。あまり無理に動いちゃダメですよ」
「もう大丈夫だ。体も、羽以外はどこも痛くない。それに……」
彼女は、少し口籠るように、でも、まっすぐな青い綺麗な瞳で私を見て、言いました。
「私も、何か役に立ちたい」
「──」
こんなことを、普段から言ってくれるのです。
このような感情は久しぶりですが、正直に言いますと──
とっても可愛いです。
母性本能が刺激されます。
「綺鴉羅さん──抱きしめてもよろしいですか?」
「へ?」
私はギュッ──と、綺鴉羅さんを抱きしめました。
「な、奈央?」
「少し、こうさせてください」
──子どもできたら、このような気持ちになるのでしょうか?
子ども……
零様と──
「プシュン……」
「な、奈央!? き、急に赤くなってどうしたんだ!?」
「す、すいません──な、なんでもありましぇん」
頭の中の煩悩を振り払い、目の前の綺鴉羅さんに向き直ります。
「わかりました──それでは、お手伝いいただけますか?」
「あ、ありがとう! り、料理も、できれば教えて欲しい。奈央にも、零にも、美味しいご飯を作ってあげたい」
「ふふっ……それじゃ、零様の好みの味付け──お教えしますね」
綺鴉羅さんは、どんどん、私たちの家に馴染んでいきました。
「なんだこりゃ」
飯が出来て、居間へ呼ばれた俺が目にしたのは、食卓の上に載っている、形の崩れたオカズたちだった。
「ええと──綺鴉羅さん、私たちにご飯を作って下さろうとしていたのですが……」
「失敗した……すまない……」
そういうことか。
綺鴉羅は目に見えて落ち込んでいる。
机の上に載っているおかずは、魚や卵焼きだが、ところどころが焦げ、形がボロボロだった。
「仕上げ以外は上手くいっていたのですが──すいません綺鴉羅さん……私が仕上げをするべきでした」
「いいや、奈央は悪くない。少し慌ててしまったのがいけなかった……零や奈央は、奈央が作ったヤツだけ食べてくれ。失敗したのは私が──」
「あむ」
俺は焦げた卵焼きを指で摘んで、一口食べた。
「お、おい! く、食うなと言っただろう!」
「いやいや、美味えよ」
「な……!」
俺の言葉に、綺鴉羅は驚いた。
そして信じられないように、今食った卵焼きに目をやり、恐る恐る一口摘んだ。
そしてすぐに、苦虫を潰したような顔をした。
「お、美味しくないぞ……? 大丈夫か? 零……」
「ちげえよ」
そんな心配そうな顔して俺を見るな。
別に舌が狂ったわけじゃねえから。
「お前が、俺のことを思って作ってくれた料理だからな」
「……!」
「俺たちの為に、食った時の笑顔を想像して、時間をかけて、作ってくれたからだ」
あったけぇ料理だ。
「どんなもんだろうと、美味い」
俺はもう一口摘んで、ゆっくり咀嚼する。
その様子を、綺鴉羅も奈央も、じっと見つめていた。
「さて、飯、食おうぜ。奈央も食うか?」
「はい──私も、いただきます」
俺と奈央は食卓に座り、それぞれ綺鴉羅が作った料理を口に運んでいく。
「──美味しい、ですね」
「あぁ、ありがとうな、綺鴉羅」
少し涙ぐんだ綺鴉羅は袖で拭き取り、食卓に着く。
「零、奈央」
「うん?」
「はい──」
「絶対、これより美味しい料理、作ってみせる」
「おお、そりゃ楽しみだ」
「たくさん──教えますから」
今日の飯は、格段に美味かった。
夜。
綺鴉羅が寝静まったあと、俺と奈央は居間に集まる。
俺たちは畳に座って向き合う。
「どうだった?」
「やはり、幽冥町の住人も──綺鴉羅さんのことは見たことがないと言っています」
「そうか……」
ここ数日、奈央や俺は交代交代で幽冥町に出て、綺鴉羅の目撃情報について調べていた。
「幽冥町に仕事や観光に来ていて、そこで何か事件に……という線もあるかと思ったが、こうも目撃情報がないなら……」
「はい──やはり、あの傷は、幽冥町の外で負ったのでしょう」
「しかしどうする? 幽冥町の外で起きた事件なんて、聞き込みをしても中々情報が入ってこないんじゃないか?」
「近隣や近くの村で起こった事件ならば──商人などから情報が入ってくるかもしれません。ここから先は、商人を中心に聞き込みをしてみましょう」
「そうだな……」
綺鴉羅を狙っていた敵がいたということは確かなのだ。
俺たちは、毎日のように情報収集を行なった。




