綺鴉羅は一緒にご飯を食べる
良く、わからなかった。
──何故、あの狐の男は、見ず知らずの私のために……?
でも、震えや恐れはそのおかげか、止まっていた。
「大丈夫ですよ」
目の前にいた、奈央と呼ばれていたメスの狐は、私に対してそう言った。
「彼は──本当に、優しい方ですから」
「でも……」
優しいにしても、これは流石に施しを貰いすぎだ。
奈央は微笑んだ。
「彼も私も、貴方と同じなのです」
その言葉に、私は俯いていた顔を上げた。
「同じ……?」
「はい。彼も私も──この世界に、『独りぼっち』だったのです」
「……」
「居場所なんてなくて、不安定で、すぐに死んでしまいそうなほど──弱かった」
その彼女の瞳からは、並々ならぬ過去への懐かしさと、今への幸福感を、表していた。
「だから──同じような境遇の貴方を、私達は放っておけないのです」
何故か、その話が私の心にストンと落ちた。
奈央は私の手を握る。
「私達が──貴方の居場所になります」
初めて出会った者の手なのに、その手はとても、温かかった。
しばらくして、零が戻ってきた。
「おーい、飯ができたぞ」
お礼を言おうと立ちあがろうとするが、少し体が痛む。
「無理すんなよ。飯くらいここで座って食べて良いからよ」
零はお盆に丼を3つ載せてやってきた。
「ほら、冷めないうちに」
「……あ、ありがとう」
差し出されたのはうどんだった。
ホカホカとした湯気が立ち上り、大き目なお揚げが1枚載っていた。
「ほい、奈央も」
「ありがとうございます──美味しそうですね」
奈央もうどんを受け取り、零も自分の丼を持つ。
「お、お前達も、ここで食べるのか……?」
「ん? 当たり前だろ」
零は割り箸を割ってあっけらかんと言った。
「1人で飯なんて寂しいだろ? 一緒に食おうぜ」
2人が手を合わせた。
私も丼を畳に置いて、慌てて手を合わせる。
「「いただきます」」
「い、いただきます……」
2人とも、うどんを啜り始めた。
私も恐る恐る、うどんを一口啜る。
「……!」
美味しい。
気付けばお腹がなっていた。
目の前のうどんを啜る。
次から次へと。
温かくて、美味しくて
優しい味の、うどん。
──ポタ……
気付けば、私の瞳から涙が溢れてきた。
うどんが食べられなくて、丼を置く。
両手で拭っても、拭っても、ずっと流れ続けた。
「す、すまな……あ、え、ぜんぜ……止まっ……」
「いいんだ。止める必要はねえよ」
零がそう言い、奈央が、私を抱きしめた。
声が、抑えられない。
「──綺鴉羅さん」
「ここが、お前の居場所だ」
私は、声をあげて泣いていた。
何もわからなくて、真っ黒な場所を照らしてくれるような温かさ、優しさに溶かされて、私は泣いた。
うどんが冷めて、うどんが伸びるまで。
でも、そのうどんは、覚えている食べ物の中で、一番美味しかった。




