ゾンビが作った肉は美味い
ステップ2
『店員さんと会話をしよう』
「見えました──あそこが、目的地のお肉屋さんです」
山を越え、谷を越え(俺からして見たら)俺たちはついに、商店街の奥の肉屋に到着した。
あいかわらず顔はあまり上げられないが、それでもここまで逃げ出さずに来られた自分を褒めたい。
「よく頑張りましたね──流石、零様です」
「お、おうここここんなん余裕よ、よよ余裕、そんなことよりほら、さっさと買い物して帰ろうぜ!」
意外と
人間その気になればなんだってできるんだなと心の中で思う。
でも早くこの場から離れて安心安全な家に戻りたい。
ユノを店へと促したところ、ユノがとんでもないことを言い出した。
「それでは零様──店員さんに、注文をしてみてください」
「なんで?」
前言撤回。
なんでもできるって言ったってそれは話が違う。
「無理無理無理無理だって! いきなりハードルが高いのよ! もう今日は商店街を歩けただけでも十分な進歩だって! 努力したよ!? もう終わりでいいよ! 奈央が買ってこい!」
「いいえ──ここまで来たのです。やってみらましょう」
鬼かコイツ。
無自覚にスパルタなのやめろ。
胸また揉んでやろうか。
「私を信じてください──きっと、この店なら買い物ができると思います。私も──横についております。何かあったら、助け舟をだしますから……」
「く……」
奈央の謎の自信で、俺は子鹿のような足で店前へ。
そもそも俺が買い物に行っていた時も定員と会話なんてしてなかったんだ。
そんな俺が妖怪と会話だなんてできるのだろうか。
──だ、大丈夫。目の前にいるのは人間、人間だと思え。
店の前に立ち、顔をあげた。
「へいらっしゃい!」
店員は目玉が飛び出てる『ゾンビ』だった。
「おい待てぇええ!!」
信じられない光景に俺はデカい声を抑えられなかった。
「なんだ兄ちゃん。急にデカい声出して」
「なんでグロテスクな見た目のやつが肉なんて売ってんだ! 1番食品取り扱っちゃいけないやつだろ! 身体中菌まみれだろうが! 肉食ったら感染すんだろうが!!」
そもそもなんでゾンビだ!?
世界観バラバラなんだよ!
「零様──こちらのお肉は幽冥町の中でも1、2を争うほど人気のあるお肉屋さんなのです──」
「なんでだぁ!?」
意味がわからん。
こんな衛生面最悪な店が人気なわけが……
「俺の中の菌は肉の中の旨み成分をより活発にしてくれるのさ」
「何の菌だそれ! 大丈夫なんだろうな!? その菌摂取してゾンビにならないだろうな!?」
「俺がここで働いて20年、そんな珍事件は聞かないねぇ」
というか、万が一問題なかったとしてもゾンビが扱った肉なんて食う気が起きない。
「そんなに疑うならよ、俺の賄いで焼けた肉一枚あるから食ってみるか?」
「は!? い、いや、遠慮するにきま……!」
「ほらよ」
「むぐ!」
冷めた肉を口の中に押し込まれた。
吐き出そうとした、その瞬間
口の中に、肉汁が迸った。
「……」
なんでうめぇんだよ。
信じられないくらい美味い。
「……豚肉と牛肉と鶏肉を200グラムずつ、頼む」
「おう、任せな」
まだ納得がいっていないが、そんなのどうでも良いくらい、正直今まで食った肉で一番美味かった。
「ふふ──」
隣の奈央が俺を見て微笑む。
「零様──妖と会話、自然にできてますよ」
「……」
──あれ? 確かに
この店に来てツッコミどころが多すぎて、怖がるとかそれどころではなかったというのが正しいか。
「やはり──このお店を選んで正解でした。ここならきっと、恐怖も薄まると思ったので」
こいつ、まさか俺のツッコミスキルを利用したのか。
こんなツッコミどころ満載の店に来れば、怖さよりも先にツッコミが出てくると?
策士。
紛れもない策士だコイツ。
ゾンビは慣れた手つきで肉を捌き、包装していく。
「ほい、おまち、牛豚鳥それぞれ200グラムずつね」
「あぁ……あ、ありがとう。すまん、いろいろケチつけて……」
「いいってことよ。また来てくんな」
ゾンビはそう気さくに言ってくれた。
思えば、噛んで来ない意思疎通が取れるゾンビとかほぼ人間なのかもしれん。
ちょっと目取れてて、菌いっぱいなだけで。
俺、ここの店なら買い物ができる気がする。
俺は商品を受け取り、料金を渡す。
「ほい、お釣りだよ」
そしてお釣りをもらおうとしたその瞬間。
ボトッ……
手のひらに生暖かい感触が広がった。
下が見れない。
全身から冷や汗が吹き出す。
「おっと失礼」
ゆっくり下を見ると、目玉が落ちていた。
俺の手の上に。
「ふんぬおおおおおおおお!!! くたばれぇ!!!!」
俺は今日一回分の特典を使って目玉を全力ではるかゾンビへ投げ捨てた。
「ぐはぁ!!」
目玉はゾンビの顔面にクリーンヒットし、奴はそのまま倒れる。
「零様!?」
「は、くぁ……」
そして俺も、目の前が少し暗くなり、膝をついて倒れた。




