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世界を滅ぼす七人の悪女を更生させた俺、死亡したと思われていたら彼女たちが世界大戦を始めようとしていた  作者: てへろっぱ


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42/52

第42話 竜王とおやつを食べに出かけたら、世界一の菓子より『半分こ』を気に入られた



 朝食の最後に、アウラは宣言した。


「先生。今日のおやつ、一緒に食べたい」


「いいぞ」


「やった!」


 椅子の後ろで大きな尻尾が振られ、床をどん、と叩く。


『損傷ありません』


「家、毎回確認しなくていいからな?」


『最近、アウラ様の感情表現による床への衝撃が増加しておりますので』


「嬉しいと勝手に動く」


「知ってる」


「先生が悪い」


「何で俺なんだ」


「先生が帰ってきてから増えた」


「……それを言われると怒りにくいな」


 アウラが得意げに胸を張った。


 その隣でクロエが紙へ何かを書き込もうとしたので、俺は先に釘を刺す。


「予定表は作らないぞ」


「まだ何も申し上げておりません」


「今『竜王陛下と先生のおやつ候補』って書いただろ」


「題名だけです」


「それが始まりなんだよ!」


 クロエが渋々紙を伏せた。


 すると今度はセレスが口を開く。


「先生。念のため申し上げますが、帝都には皇室御用達の菓子職人が――」


「呼ばない」


「神殿には祝福を施した焼き菓子が」


「ミレイユも乗るな」


「魔界の菓子なら」


「リリス、それ動いてないよな?」


「食べれば三日ほど舌が痺れるだけだ」


「菓子じゃない!」


 七人が次々と候補を出そうとする中、アウラだけは黙っていた。


 俺は少し意外に思って、彼女を見る。


「アウラは何が食べたい?」


「まだ決めてない」


「珍しいな」


「うん」


 以前なら、山ほど候補を並べていたかもしれない。


 あるいは俺が好きそうなものを先に調べて、それを選んでいたかもしれない。


 けれど今日は違った。


「一緒に歩いて、食べたいのがあったら食べる」


「いいじゃないか」


「先生も食べたいのがあったら言って」


「ああ」


「私と違ってもいい」


 そこで少しだけ得意そうに笑う。


「最近、覚えた」


「みんな成長が早いな」


「恋人だから?」


「それは関係あるのか?」


「あると思う」


「自信満々だな」


「先生の恋人になってから、知らなかったことをいっぱい知ってる」


 アウラはそう言って、最後のパンを口に入れた。


 そして。


「先生」


「何だ」


「これ半分いる?」


「もう全部口に入ってるだろ!」


「……忘れた」


「半分こは飲み込む前に言え!」


     ◇


 昼過ぎ。


 俺とアウラは二人で街を歩いていた。


 アウラは竜王としての正装ではなく、動きやすい服を着ている。とはいえ、頭の角と尻尾までは隠していない。


 最近では七人と俺が普通に街を歩くことも増えたから、以前ほど大騒ぎにはならない。


 まあ。


「竜王様だ……」


「先生もいるぞ」


「今日は何か起きるのか?」


「店を守れ」


 十分騒がれてはいるが。


「先生」


「何だ?」


「みんな避難してる?」


「違うと思いたい」


 通りの菓子屋を覗く。


 焼き菓子、果物を煮詰めたもの、冷たい乳菓子。


 色々ある。


 アウラはそのたびに足を止めた。


「これ、おいしそう」


「食べる?」


「まだ」


 少し歩く。


「あれもおいしそう」


「食べる?」


「まだ」


 さらに歩く。


「先生」


「今度は何だ」


「あれ、すごくおいしそう」


「もう食えよ!」


「でも次にもっとおいしそうなのがあるかもしれない」


「お前、おやつ選びで世界の果てまで行く気か?」


「竜なら行ける」


「行くな!」


 アウラは真剣だった。


 たぶん、彼女なりに今日という日を大切にしたいのだろう。


 でも。


「アウラ」


「何?」


「一番いいものを選ばなくてもいいんだぞ」


「……」


「食べたくなったら食べる。それでいい」


「でも、一回しか食べられないなら」


「誰が一回って決めた?」


「え?」


「腹が入るなら二軒でも三軒でも行けばいい」


「……先生」


「何だ」


「天才?」


「竜王の基準が心配になってきた」


     ◇


 一軒目。


 小さな屋台で売っていた、丸い焼き菓子。


 二つ買おうとした。


「一つ」


 アウラが言った。


「足りる?」


「半分こする」


「俺は一個食えるぞ」


「私も一個食べられる」


「じゃあ二つでいいだろ」


「でも」


 アウラは菓子を見て、それから俺を見る。


「半分こしたい」


「……そういうことか」


「駄目?」


「駄目じゃない」


 一つ買う。


 真ん中から割る。


 少し大きい方と、小さい方。


 俺は大きい方をアウラへ渡そうとした。


「先生」


「ん?」


「逆」


「いや、お前のほうが食べるだろ」


「今日は同じ」


「でも大きさ違うぞ」


「じゃあ」


 アウラは俺の手から二つとも受け取った。


 じっと見る。


 右。


 左。


「……」


「何してる?」


「同じ大きさにする」


「そこまで厳密にしなくても」


 ぱき。


 少し削る。


 自分の方を食べる。


「今ので同じ」


「自分で調整するんだな」


「半分こだから」


 二人で食べる。


「うまいな」


「うん」


「甘すぎない」


「うん」


「もう一個買う?」


「買わない」


「即答だな」


「次」


 アウラの目はもう、その先の店を見ている。


「先生」


「何だ」


「半分こすると」


「ああ」


「二倍食べられる」


「量は同じだぞ」


「種類」


「ああ、なるほど」


「先生と二人なら、一個ずつ買うよりいっぱい違うものを食べられる」


「それは確かに」


「半分こ、すごい」


「人生で初めて発明したみたいに言うな」


     ◇


 二軒目。


 果物入りの冷たい菓子。


 これも一つ。


 三軒目。


 蜂蜜のかかった揚げ菓子。


 これも一つ。


 四軒目。


「アウラ」


「何?」


「半分こなら無限に食えるわけじゃないぞ」


「まだいける」


「俺が無理だ」


「……」


 アウラが止まった。


 心底驚いた顔だ。


「先生のお腹、弱い?」


「お前と比べるな」


「竜ならまだ十軒」


「人間なんだよ!」


「知ってる」


 そう言いながら、アウラは少し考えた。


「じゃあ休む」


「悪いな」


「どうして先生が謝るの?」


「お前はまだ食べたいだろ?」


「食べたい」


 即答だった。


「でも」


 近くの噴水を指す。


「先生と座る」


「いいの?」


「うん」


 俺たちは噴水の縁へ座った。


 アウラはしばらく通りを眺めていたが、不満そうには見えない。


「先生」


「何だ」


「前の私なら」


「ああ」


「先生がもう食べられないって言ったら、おやつ終わりにした」


「今も終わってるぞ」


「違う」


 尻尾がゆっくり揺れる。


「先生に合わせて、私も食べたいって言わなかった」


「ああ……」


「先生がお腹いっぱいなら、私もお腹いっぱいって言ったと思う」


「今は?」


「まだ食べたい」


「正直でよろしい」


「だから」


 俺を見る。


「先生が休んだら、一人で一個食べる」


「半分こは?」


「先生が食べられるようになったら、またする」


「なるほど」


「先生に合わせて全部やめなくてもいい」


「ああ」


「でも先生を置いて先へ行かなくてもいい」


「ああ」


「一緒に座って、私はあとで食べる」


 少し得意そうに言う。


「これも最近覚えた」


「本当に成長してるな」


 俺が頭を撫でると。


「……」


 尻尾。


 どんっ!


『周辺石材への損傷なし』


「家! 外まで確認するな!」


     ◇


 休憩の後。


 五軒目へ向かう途中だった。


「お母さん、あれ食べたい!」


 前を歩いていた小さな女の子が、一軒の菓子店を指差した。


 店先には、大きな焼き菓子が一つ。


 最後の一個らしい。


「今日はもうお金がないから、また今度ね」


「……うん」


 女の子は名残惜しそうにしながらも、母親の手を握って歩き始める。


 その横で。


「先生」


「アウラ」


「分かってる」


「まだ何も言ってないぞ」


「前なら買ってあげた」


「ああ」


「店ごと」


「そこまでしなくていい」


「国ごと?」


「もっと駄目だ」


 アウラが少し笑う。


 そして店の最後の菓子を見る。


「私もあれ食べたい」


「そうか」


「すごく」


「ああ」


「でもあの子も食べたそうだった」


「ああ」


 迷っている。


 昔のアウラなら。


 きっと迷わなかった。


 自分が欲しくても、他人へ譲った。


 第32話でもそうだった。


 自分が先生へ食べさせたいという願いより、知らない子供を笑わせる方を選んだ。


 それは優しい。


 でも。


 優しいからこそ。


 自分の欲しいものまで、いつも後ろへ回す必要はない。


「どうしたい?」


 俺は聞いた。


「……」


 アウラは店を見る。


 女の子を見る。


 俺を見る。


「先生なら?」


「俺じゃなくて、アウラ」


「難しい」


「ゆっくり考えればいい」


 しばらくして。


 アウラが店へ向かった。


「買う」


「ああ」


 最後の一個を買った。


 女の子が少しだけ振り返る。


 アウラも見る。


「……」


 そして。


 菓子を持ったまま。


 女の子へ近づいた。


「アウラ?」


「全部はあげない」


「え?」


 アウラは女の子の前でしゃがんだ。


「これ、食べたかった?」


 女の子が母親を見上げる。


 母親は慌てて首を振った。


「り、竜王陛下! お気遣いなく――」


「私も食べたい」


「え?」


「だから全部はあげない」


 アウラは真顔だった。


「半分こする?」


「……いいの?」


「うん」


「アウラ」


「先生」


「何だ?」


「割って」


「俺が?」


「半分こ係」


「いつそんな役職ができた!」


     ◇


 三人。


 いや。


 俺は食べないので二人。


 菓子を半分。


 アウラと女の子。


 少し大きさが違った。


「……」


 アウラ。


 じっと見ている。


「また調整する?」


「ううん」


 大きい方。


 女の子へ。


「こっち」


「いいの?」


「私の方も半分より少し小さいだけ」


「でも半分こじゃないぞ」


「先生」


「何だ」


「半分こって」


 アウラは少し笑った。


「同じじゃなくてもいいの?」


「二人が納得してればな」


「じゃあ」


 小さい方。


 口にする。


「これでいい」


 女の子も食べた。


「おいしい!」


「うん。おいしい」


 母親が何度も頭を下げる。


 アウラは困ったように俺を見る。


「先生」


「何だ」


「こういう時、何て言う?」


「一緒に食べてくれてありがとう、でいいんじゃない?」


「……」


 女の子へ。


「一緒に食べてくれて、ありがとう」


「うん!」


 女の子も笑う。


「竜のお姉ちゃん、ありがとう!」


「竜王」


「アウラ」


「うん!」


「……先生」


「訂正されなかったな」


「うん」


「嫌?」


 アウラは少し考え。


「今日はいい」


     ◇


「先生」


「何だ」


「私、ちゃんと欲しいって言えた」


「ああ」


「全部あげなかった」


「ああ」


「でも半分あげた」


「ああ」


「悪い?」


「全然」


「わがまま?」


「全然」


「欲しいものを自分で食べて」


「ああ」


「他の人にもあげた」


「ああ」


「両方していい?」


「もちろん」


 アウラは足を止めた。


「……そっか」


「何だ」


「今まで」


 尻尾が地面を静かに撫でる。


「どっちかだと思ってた」


「ああ」


「私が欲しいなら取る」


「ああ」


「誰かにあげるなら我慢する」


「ああ」


「竜は」


 一度。


 自分の胸へ手を置く。


「欲しいものを抱え込む生き物だから」


「そうなの?」


「うん。宝物も、土地も、食べ物も」


「ああ」


「だから私は、欲しがらないようにした」


「……」


「先生に育ててもらって」


 少し。


 昔を思い出す顔。


「人から奪わないように」


「ああ」


「自分より弱い人に譲れるように」


「ああ」


「そうしていたら」


 一度。


 苦笑する。


「自分が欲しいって言うのまで、少し苦手になった」


 それは。


 俺の教え方にも。


 責任があるのかもしれない。


「悪かったな」


「何で?」


「俺が、我慢させすぎたのかもしれない」


「違う」


 すぐに。


 アウラが首を振った。


「先生が止めてくれなかったら、子供の頃の私は何でも自分のものにした」


「ああ」


「必要だった」


 そして。


 俺の袖をつまむ。


「今は、その次を教えてもらってる」


「次?」


「奪わなくても」


 少し。


 笑う。


「欲しがっていい」


「……」


「先生」


「何だ」


「私」


 真っ直ぐ。


「おやつ食べたい」


「ああ」


「もっと」


「ああ」


「先生と半分こしたい」


「ああ」


「先生と手をつなぎたい」


「ああ」


 そこまでは普通だった。


「先生を竜の巣へ連れて帰りたい」


「待て」


「一週間くらい」


「待て」


「誰も入れない場所に」


「最後だけ昔に戻ったぞ!」


「欲しがっていいって言った」


「限度がある!」


「難しい」


「一緒に覚えよう!」


     ◇


 夕方。


 最後にもう一軒だけ。


 小さな店へ入った。


「これ」


 アウラが選んだのは、手のひらほどの焼き菓子だった。


「一つ?」


「うん」


「半分こ?」


「うん」


 買って。


 外の長椅子。


 座る。


 俺が割ろうとする。


「先生」


「ん?」


「待って」


「どうした?」


 アウラが菓子を持つ。


「今日は私が割る」


「いいぞ」


 ぱき。


 見事に。


 ほぼ同じ大きさ。


「上手いな」


「竜王だから」


「関係ある?」


「力加減」


「菓子に使う技術じゃないな」


 一つ。


 俺。


 一つ。


 アウラ。


「先生」


「何?」


「せーの」


「合わせて食べるの?」


「うん」


「せーの」


 二人。


 食べる。


「……」


「……」


 甘い。


 柔らかい。


 中に少し酸っぱい果物。


「うまい」


「うん」


 アウラは。


 ものすごく。


 嬉しそうだった。


「そんなに気に入った?」


「味も好き」


「ああ」


「でも」


 一度。


 俺の手を見る。


「先生と同じものを」


「ああ」


「同じ時に」


「ああ」


「同じくらい食べた」


「それが?」


「嬉しい」


「ああ」


「変?」


「全然」


 尻尾。


 ゆっくり。


 左右。


「先生」


「何だ」


「今日の一番」


「ああ」


「これ」


「世界一の菓子じゃなく?」


「うん」


「一番高い店でもなく?」


「うん」


「ただの焼き菓子だぞ」


「でも」


 俺を見る。


「先生と半分こした」


「ああ」


「だから一番」


 その言葉が。


 妙に。


 胸へ残った。


     ◇


 帰る途中。


 アウラは俺の手を握っていた。


「先生」


「ん?」


「聞いていい?」


「ああ」


「先生」


 少し。


 視線。


 前。


「私といて、楽しい?」


「楽しいぞ」


「すぐ答えた」


「嘘つく理由ないだろ」


「おやついっぱい食べさせられた」


「食べさせられたっていうか、食べた」


「途中でお腹いっぱいになった」


「ああ」


「私、まだ食べたがった」


「ああ」


「竜の巣へ連れて帰ろうとした」


「そこは反省しろ」


「してる」


「本当?」


「一週間から三日にした」


「期間の問題じゃない!」


 アウラ。


 笑う。


 それから。


「先生」


「何だ」


「私」


 一度。


 足を止める。


「今、すごく欲しいものがある」


 俺も止まる。


「何?」


「……」


 さっきまで普通だった顔。


 急に。


 赤い。


「言っていい?」


「言わないと分からない」


「でも」


「ああ」


「欲しがっていいって」


「ああ」


「今日、先生が」


「ああ」


「言った」


 嫌な予感。


 いや。


 嫌ではない。


 たぶん。


 分かってしまった。


「アウラ」


「何?」


「言っていいぞ」


「……」


 少し。


 息を吸う。


「先生と」


「ああ」


「キスしたい」


 やっぱり。


 でも。


 その次。


「今日」


「ああ」


「他のみんながしたからじゃない」


「ああ」


「私の番だからでもない」


「ああ」


「先生を誰にも取られたくないからでも」


 少しだけ。


「……それは少しある」


「あるのか」


「ある」


「正直だな」


「でも」


 手。


 握る。


「それより」


「ああ」


「今日、先生と一緒で楽しかった」


「ああ」


「半分こして」


「ああ」


「いっぱい話して」


「ああ」


「欲しいって言っても怒られなくて」


「ああ」


「先生も楽しいって言ってくれて」


 俺を見る。


「今、したい」


「……」


「先生は?」


 聞かれた。


 俺も。


 自分へ。


 聞く。


 今日は。


 アウラへ何かしてやる日ではなかった。


 彼女が自分で食べたいものを選んで。


 自分で欲しいと言って。


 自分の分をちゃんと残した。


 その隣に。


 俺がいただけ。


 それが。


 楽しかった。


「俺も」


 一歩。


 近づく。


「したい」


「……」


 尻尾。


 どんっ!


「道!」


「ごめん!」


「穴開いてない?」


『軽微な損傷です』


「家!」


「先生」


「何だ」


「今は家に怒らないで」


「でも」


「忘れる」


 アウラが。


 俺を見る。


「私」


「ああ」


「今の気持ち」


「ああ」


「忘れたくない」


 そう言われたら。


 怒れない。


「分かった」


 少し。


 距離。


 近づく。


「アウラ」


「うん」


「していい?」


「うん」


 目を閉じる。


 俺から。


 唇を重ねた。


     ◇


 ほんの少し。


 離れる。


「……」


「……」


 アウラ。


 目。


 開けない。


「アウラ?」


「まだ?」


「終わったぞ」


「短い」


「最初はこんなもんだ」


「もう半分」


「何の半分!?」


 目。


 開く。


「先生」


「ああ」


「キスも」


「ああ」


「半分こできる?」


「どうやるんだ」


「一回ずつ」


「それは二回してるだけだ!」


「じゃあ」


 考える。


 本気で。


「半分の時間を私から?」


「妙に具体的になってきたな!」


「駄目?」


「今日は一回」


「……」


 頬。


 膨らむ。


「欲しいって言っていいって」


「言っていい。全部叶うとは言ってない」


「難しい」


「そこも覚えよう」


「うん」


 一度。


 納得。


 それから。


「先生」


「何だ」


「次も欲しいって言う」


「その時したかったらな」


「分かった」


「偉い」


「頭」


「そこはみんな共通なのか!」


     ◇


 帰宅した。


「ただいま」


「ただいま!」


 アウラの声。


 明らかに。


 明るい。


 居間。


 六人とアステラ。


 見る。


「……」


「……」


 クロエ。


 まず。


「尻尾の振幅が通常時の約二・七倍」


「測るな!」


 ノア。


「顔も赤い」


「歩いたから」


 リリス。


「今日はほとんど歩いていないはずだ」


「どうして知ってるの?」


「魔族の偵察が」


「つけたのか!」


「偶然だ」


「また偶然!」


 ミレイユ。


 微笑む。


「アウラ」


「何?」


「よかったですね」


「……」


 アウラ。


 俺。


 見る。


「言っていい?」


「いいよ」


「キスした」


「自分から報告するのか!」


 尻尾。


 どんっ!


『床への軽微な損傷を確認』


「今度は傷ついた!」


     ◇


「先生」


 セレスが。


 静かに。


 手を上げる。


「何だ」


「確認です」


「ああ」


「これで」


「ああ」


「アステラ、私、ミレイユ、リリス、エリナ、アウラ」


「数えるな」


「六名」


「数えた!」


 クロエとノア。


 二人。


 黙る。


「……」


「……」


「見るな」


 クロエ。


「見ておりません」


 ノア。


「見られてる」


「お前はそういうの分かるな!」


 俺は頭を抱える。


「言っておくぞ」


「ああ」


「残り二人だから次はクロエ、その次はノア、とかじゃない」


「承知しております」


 クロエ。


 即答。


 ノアも。


「分かってる」


「本当?」


「はい」


「うん」


 妙に。


 素直。


 逆に怖い。


「……何か考えてる?」


「いいえ」


「何も」


「本当に?」


 二人。


 目を逸らす。


「絶対何か考えてるだろ!」


     ◇


『本日の記録を開始します』


「家!」


『アウラ様は本日』


「ああ」


『自ら希望する菓子を選択』


「ああ」


『他者の希望を知った後も、自身の希望を消去せず』


「ああ」


『双方が満足する形として分配を選択』


「半分こ」


 アウラが言う。


『はい』


「何か家に褒められてるぞ」


「嬉しい」


『さらに』


「ああ」


『旦那様が満腹になった際も、自身の食欲を偽らず』


「ああ」


『「まだ食べたい」と発言』


「そこまで記録する必要ある?」


『重要です』


「何で?」


『アウラ様は幼少期より、他者へ譲る際、自身の希望自体を否定する傾向がありました』


「……」


 アウラ。


 少し。


 驚く。


「家、知ってた?」


『はい』


「先生は?」


「今日気づいた」


『そして本日』


 文字。


 壁へ。


『欲しいものを欲しいと言う』


『譲りたいものは自分で譲る』


『両者を同時に選択可能であると理解』


「……」


 アウラ。


 壁。


 見る。


『最後に』


「もう分かるぞ」


『旦那様との口づけを』


「やっぱり!」


『自ら希望』


「家!」


『旦那様も希望を表明した後』


「省略!」


『相互同意のもと――』


「そこまで!」


『高評価です』


「毎回何を評価してるんだ!」


 アウラ。


 横。


 少し。


 笑っている。


「先生」


「何だ」


「私も高評価?」


「そこ?」


「うん」


「今日はよくできたと思う」


「何点?」


「点数にしない」


「じゃあ」


 少し考える。


「先生、楽しかった?」


「楽しかった」


 どんっ!


『床――』


「家、もういい!」


     ◇


 夕食。


 最後に。


 小さな菓子。


 人数分。


 出てきた。


「お」


 アウラ。


 見る。


「先生」


「ん?」


 自分の。


 菓子。


 持つ。


「半分こする?」


「いや、俺にも一個あるぞ」


「知ってる」


「なら」


「したい」


 自分の一個と。


 俺の一個。


 両方。


 見る。


「交換?」


「半分ずつ」


「味同じだぞ」


「知ってる」


「意味ある?」


「ある」


「どんな?」


 アウラ。


 笑う。


「先生と半分こしたっていう味になる」


「……」


 俺は。


 菓子。


 割った。


「ほら」


「ありがとう」


 交換する。


 隣。


 エリナ。


「……」


 ミレイユ。


「……」


 セレス。


「……」


 全員。


 見る。


「何だよ」


 クロエ。


 静かに。


 自分の菓子。


 二つ。


 切ろうとする。


「クロエ?」


「研究です」


「何の?」


「半分この市場価値」


「やめろ!」


 ノア。


 俺の皿。


 見る。


「先生」


「駄目」


「まだ言ってない」


「半分ほしいだろ」


「……四分の一」


「値下げ交渉みたいに言うな!」


     ◇


 その夜。


 寝る前。


 窓。


 小さな音。


 こん。


「……」


 開ける。


 アウラ。


 浮いている。


「玄関使え!」


「先生」


「何だ」


「これ」


 小さな。


 包み。


「菓子?」


「明日の分」


「また?」


「うん」


「一緒に食べたい?」


「違う」


「じゃあ?」


 アウラ。


 包み。


 俺へ。


「全部、先生の」


「……いいの?」


「うん」


「半分こしない?」


「しない」


「どうして」


「今日は半分こしたいからした」


「ああ」


「これは先生に全部あげたいからあげる」


「……」


「どっちでもいいって」


 少し。


 笑う。


「分かったから」


「ああ」


「先生」


「何だ」


「私、欲しいって言う」


「ああ」


「でも」


 夜。


 尻尾。


 ゆっくり。


「先生にあげたい時も、あげる」


「ああ」


「我慢じゃなくて」


「ああ」


「私がしたいから」


「ありがとう」


「うん」


 窓。


 離れようとする。


「アウラ」


「何?」


「明日」


「ああ」


「これ一緒に食べよう」


「……」


「俺が半分あげたい」


「……」


 顔。


 ぱっと。


 明るくなる。


 尻尾。


 大きく。


 振りかぶられる。


「待て!」


「え?」


「窓壊れる!」


「……」


 ぴた。


「止めた」


「偉い!」


「褒めて」


「頭は届かない!」


「じゃあ明日!」


「予約するなって!」


 笑いながら。


 アウラは夜空へ飛んでいった。


 机の上。


 一つの菓子。


 明日。


 半分になる予定だ。


 欲しいと言うことと。


 分けること。


 もらうことと。


 あげること。


 どちらか一つだけを選ばなくてもいい。


 世界を滅ぼしかねなかった竜王は。


 今日。


 そんな当たり前のことを覚えた。


 そして俺も。


 たぶん同じだ。


 八人を大切にすることは。


 自分の気持ちを全部後回しにすることじゃない。


「……半分こ、か」


 悪くない。


 そう思って。


 俺は明日の菓子を、誰にも食べられない場所へしまった。


『旦那様』


「何だ」


『冷蔵庫へ入れることを推奨します』


「早く言え!」


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