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世界を滅ぼす七人の悪女を更生させた俺、死亡したと思われていたら彼女たちが世界大戦を始めようとしていた  作者: てへろっぱ


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37/51

第37話 八人の恋人が初キスを予約し始めたので、「したい時にする」と決めた



 翌朝。


 居間へ入った俺は。


 壁に貼られた。


 巨大な紙を見た。


『初口づけ希望表』


「……」


 その下。


 一。


 セレス。


 二。


 ミレイユ。


 三。


 リリス。


 四。


 エリナ。


 五。


 アウラ。


 六。


 クロエ。


 七。


 ノア。


 八。


 アステラ。


「誰だ」


 八人。


 全員。


 目を逸らした。


「誰が作った!」


「先生」


 クロエが。


 おずおずと手を上げる。


「原案は私です」


「やっぱりお前か!」


「ですが!」


 クロエは。


 慌てて続ける。


「公平性を担保するために」


「キスへ公平性を持ち込むな!」


「順番による心理的格差を」


「もっと持ち込むな!」


「では」


 セレスが。


 静かに手を上げる。


「最初のデート順を、そのまま」


「駄目だ!」


「なぜです?」


「キスを日程表にするな!」


 ミレイユ。


「では、先生がその都度」


「それだ」


 全員が止まる。


「先生?」


「ああ」


 俺は。


 紙を。


 壁から外す。


「昨日、家が言っただろう」


『双方が望む時に行ってください』


「ああ」


「だから」


 八人を見る。


「順番は決めない」


「……」


「……」


「したいと思った時に」


 少し。


 顔が熱い。


「その相手へ聞く」


 八人の顔が。


 一斉に赤くなる。


「先生から?」


 エリナ。


「俺からの場合もある」


「私たちからは?」


 ノア。


「聞いていい」


「断る?」


「その時したくなければ」


「ああ」


「断る」


「……」


 アステラが。


 少し笑う。


「いいと思う」


「本当に?」


「ええ」


「最初」


 セレスが。


 少しだけ。


 不安そうに尋ねる。


「誰かが先になっても?」


 全員。


 俺を見る。


「先にしたから」


 俺は答える。


「一番好きという意味にはしない」


「ああ」


「最後だから」


「ああ」


「一番大切ではないという意味にもならない」


 リリスの翼が。


 少しだけ畳まれる。


「先生」


「何だ」


「私たち」


「ああ」


「順番に意味をつけすぎ?」


「かなり」


「……」


「でも」


 俺は。


 少し笑う。


「気になる気持ちは分かる」


「先生も?」


 セレス。


「ああ」


「もし俺が」


 一度。


 考える。


「八人のうち誰かから」


「ああ」


「最初に特別なことをされたら」


「ああ」


「少し意識はすると思う」


 八人の目が。


 一斉に輝く。


「だからと言って争うな!」


     ◇


『確認します』


 家。


『口づけに関する追加規則』


「増やすのか」


『必要と判断しました』


 壁へ。


『一、予約表禁止』


「クロエ」


「破棄します」


『二、順番を売買・交換・賭博対象にしない』


「誰向けだ」


 全員。


 クロエを見る。


「私は何も!」


『三、国家行事・宗教儀式・決闘・竜族の番制度・商取引・影契約・虚無契約として扱わない』


「全員向けだな」


『四』


 一番大きな文字。


『恋人であっても、口づけは自動許可ではありません』


「ああ」


 八人。


 全員。


 頷く。


『五』


「まだある」


『旦那様の唇を見ながら廊下で待機しない』


「……」


「……」


「……」


「誰だ」


 ノアが。


 小さく。


 リリスを見る。


「なぜ私を見る」


 リリス。


「翼の陰から」


「見ていただけだ!」


「やったのか!」


「待機はしていない!」


「同じだ!」


     ◇


 問題は。


 規則を決めた後だった。


 朝食。


「……」


「……」


「……」


 全員。


 静か。


「何だ」


 八人。


 俺を見る。


「何でもありません」


 セレス。


「では食え」


「はい」


 一口。


 また。


 俺を見る。


「セレス」


「先生のお顔を見ていただけです」


「唇では?」


「……」


「セレス」


「少し」


「正直だな!」


 ミレイユは。


 茶を飲む。


 俺を見る。


 目を逸らす。


 また見る。


「ミレイユ」


「健康状態を」


「今日は聖女になるな」


「では」


 顔が赤くなる。


「恋人として見ておりました」


「もっと困る!」


 リリスは。


 パンへかじりつきながら。


「先生」


「何だ」


「食後」


「ああ」


「聞いてもいいか」


「何を」


「分かっているだろう」


「言葉にしろ」


「……」


 翼が。


 少し震える。


「キスしたいと」


「ああ」


「聞いていい?」


「聞くのは自由だ」


「では」


 全員。


 一斉に姿勢を正す。


「今はやめろ!」


     ◇


「先生」


 エリナ。


「何で?」


「全員いるからだ!」


「全員いなかったら?」


「その時考える!」


「では」


 エリナが立つ。


「みんな、出よう」


「お前が残る気だろう!」


「ばれた!」


「ばれる!」


 アウラ。


「先生」


「何だ」


「食べ物の後だと」


「ああ」


「味する?」


「何の話だ!」


「キス」


「朝から具体的に考えるな!」


「じゃあ歯磨きしてから」


「そういう問題ではない!」


 クロエ。


「統計的に、初口づけは」


「調べるな!」


「まだ調べていません!」


「調べる気だったな!」


「職業病です!」


 ノアは。


 俺の横。


 少し離れた椅子。


「先生」


「何だ」


「私は」


「ああ」


「昨日聞いた」


「ああ」


「今日は聞かない」


「どうして」


「先生から」


 一度。


 頬が赤くなる。


「来るか知りたい」


「……」


 これが。


 一番困る。


 アステラも。


 ノアを見る。


「私も待つ」


「お前まで?」


「ええ」


「どうして」


「普通の家を見た時」


「ああ」


「レオンから手を出してくれた」


「ああ」


「あれ」


 嬉色。


「すごく嬉しかったから」


 セレス。


 ミレイユ。


 リリス。


 エリナ。


 アウラ。


 クロエ。


 全員。


 俺を見る。


「待つな!」


「先生」


 セレス。


「何も言っておりません」


「目が待っている!」


     ◇


 結局。


 俺は。


 午前中。


 一人で庭へ逃げた。


「逃避?」


『軽度』


「家までついてくるな」


『庭は私の一部です』


「そうだった」


 名前のない花。


 セレスと。


 育て始めたもの。


 少し。


 葉が増えている。


「恋人八人」


 口にすると。


 まだ。


 異常だ。


「キス」


 もっと。


 恥ずかしい。


 だが。


 嫌ではない。


 むしろ。


 したくない相手は。


 一人もいない。


「問題は」


 いつ。


 誰と。


 どうやって。


「考えたら駄目なのか」


『考えること自体は禁止していません』


「家」


『はい』


「聞いていたのか」


『独り言です』


「そうだった」


『ただし』


「何だ」


『最適解を設計してから実行しようとしているなら』


「ああ」


『以前のセレス様と同じです』


「……」


 痛いところ。


『旦那様』


「ああ」


『恋人へ口づけしたいと思う瞬間まで』


「ああ」


『普通に過ごせばよいのでは?』


「家に恋愛指南されている」


『家ですので』


「理由になっていない」


     ◇


 午後。


 俺は。


 普通に過ごすことにした。


 最初。


 セレスと。


 花へ水。


「先生」


「何だ」


「朝の件は」


「ああ」


「忘れてください」


「いいのか」


「忘れられるなら」


「無理だな」


「私もです」


 二人。


 少し笑う。


「先生」


「何だ」


「花」


 新しい芽。


「出ました」


「ああ」


 セレスが。


 しゃがむ。


 土。


 頬へ。


 少し。


 つく。


「セレス」


「はい」


「頬」


「何か?」


 指で。


 拭こうとして。


 俺は止まる。


「触っていい?」


 セレスの顔が。


 赤くなる。


「はい」


 頬。


 土。


 指で取る。


「取れた」


「……」


「何だ」


「少し」


「ああ」


「期待しました」


「何を」


「先生」


 目。


 唇へ。


 一瞬。


「……」


「セレス」


「すみません」


 すぐ。


 視線を戻す。


「今は?」


 俺が聞く。


 セレスが。


 驚く。


「何が」


「キス」


「……」


「したい?」


「はい」


 即答。


「俺は」


 一度。


 自分へ聞く。


 したい。


 でも。


 今。


 ここで。


 少し。


 違う。


「今は」


「ああ」


「まだ」


 セレスの顔。


 少しだけ。


 残念。


「はい」


「怒らない?」


「少し残念です」


「ああ」


「ですが」


 花を見る。


「次があります」


「ああ」


「今、先生が聞いてくださったことだけでも」


 笑う。


「嬉しいです」


「そうか」


「はい」


 それで。


 終わった。


 何も壊れない。


     ◇


 次。


 ミレイユ。


 居間。


 意味のない。


 白い塊を。


 もう一つ。


 増やそうとしていた。


「まだ作るのか」


「今日は」


 細い棒。


「足をつけます」


「何のため」


「意味はありません」


「成長したな」


「先生も?」


「やる」


 二人。


 並ぶ。


 十五分。


 俺。


 木の棒。


 曲げる。


 ミレイユ。


 白い塊。


 足。


 三本。


「先生」


「何だ」


「私」


「ああ」


「今」


 手を止める。


「キスより」


「ああ」


「これが楽しいです」


「そうか」


「変ですか?」


「いや」


「恋人なのに?」


「恋人でも」


 俺も。


 棒を曲げる。


「ずっとキスのことだけ考えなくていいだろう」


「……」


 ミレイユが。


 笑う。


「安心しました」


「何が」


「私は」


 一度。


 頬を赤く。


「先生と恋人になったら」


「ああ」


「恋人らしいことを、ちゃんとしなければと思っていました」


「ああ」


「でも」


 白い塊。


「ガラクタを作っていても」


「ああ」


「恋人?」


「そうだろう」


 ミレイユが。


 少し。


 目を潤ませる。


「それ」


「ああ」


「とても好きです」


     ◇


 リリス。


 台所。


「三鍋目」


「ついに?」


「うむ」


 鍋。


 見た目。


 普通。


「怖いな」


「なぜ!」


「二鍋目の記憶」


「今日は茸二本だけ」


「減ったな!」


 一口。


「……」


「どうだ」


「うまい」


「本当に!?」


「ああ」


「先生!」


「何だ」


 リリスが。


 勢いよく近づく。


 止まる。


「今」


「ああ」


「キスしたい」


「……」


 真正面。


 嬉しそう。


 俺も。


 一瞬。


 したいと思った。


 でも。


 鍋。


 湯気。


 口。


「熱い」


「何が」


「俺の口」


「……」


「お前も」


「熱い」


「だろう」


 二人。


 顔を見合わせる。


「やめるか」


「うむ」


 リリスが。


 笑い出す。


「先生」


「何だ」


「初めてのキスで」


「ああ」


「互いに舌を火傷するのは」


「ああ」


「嫌だ」


「俺もだ」


「では」


 鍋。


「先に食べる」


「ああ」


 少し。


 気が楽になる。


     ◇


 エリナ。


 庭。


 木剣。


 ではなく。


 小さな球。


「先生!」


「何だ」


「投げる!」


「勝負?」


「遊び!」


 投げる。


 受ける。


 俺。


 返す。


 エリナ。


 走る。


「速い!」


「勇者だから!」


「手加減しろ!」


「してる!」


 球。


 大きく外れる。


「エリナ!」


「取って!」


 走る。


 俺。


 ぎりぎり。


 届かない。


 転ぶ。


「先生!」


 エリナが。


 駆けてくる。


「大丈夫!?」


「ああ」


 草。


 仰向け。


 空。


 エリナ。


 上から。


 覗き込む。


「怪我」


「ない」


「本当?」


「ああ」


 距離。


 近い。


「……」


「……」


「先生」


「何だ」


「今」


「ああ」


「顔近い」


「ああ」


「キス」


「意識した?」


「うん」


「俺も」


 エリナの顔。


 一気に赤い。


「じゃあ」


「でも」


「ああ」


「今、俺」


 草。


 土。


「寝転んでる」


「ああ」


「お前が上から」


「ああ」


「このままは」


「何?」


「襲われているみたいだ」


「……」


 エリナが。


 飛び退いた。


「違う!」


「分かっている!」


「先生!」


「冗談だ!」


「心臓止まる!」


     ◇


 アウラ。


 台所。


 菓子。


「先生」


「何だ」


「一個」


「ああ」


「食べる?」


「自分で取る」


「今日は」


 少し。


 頬を赤く。


「口で渡す?」


「駄目だ!」


「恋人」


「段階を飛ばすな!」


「でもキス」


「食べ物を挟むな!」


「分かった」


 アウラ。


 自分で。


 菓子を食べる。


「おいしい」


「よかったな」


「先生」


「何だ」


「私」


「ああ」


「キスしたい」


「ああ」


「でも」


「何だ」


「今は」


 菓子を見る。


「これも食べたい」


「食え」


「キスより?」


「今は?」


 アウラ。


 本気で考える。


「……菓子」


「正直でよろしい」


「あとで変わる」


「その時聞け」


「うん!」


     ◇


 クロエ。


 部屋。


『また明日』


 木札。


「今日は休み?」


「一時間だけ」


「何をする」


「こちらを」


 机。


 役に立たない。


 妙な置物。


「まだ持っていたのか」


「気に入っております」


「何に見える」


「先生は?」


「足の短い竜」


「私は」


「ああ」


「潰れた鳥」


「全然違うな」


「先生」


「何だ」


「これ」


「ああ」


「一緒に名前をつけませんか」


「いいぞ」


 二人。


 考える。


「クロ」


「黒くない」


「レオン」


「俺の名前をつけるな」


「では」


 俺が。


 置物を持つ。


「マル」


「丸くありません」


「ではクロエが」


「……」


 十分。


「先生」


「何だ」


「キスをするより」


「ああ」


「今」


 置物の名前を決めることへ。


「ああ」


「夢中になっていました」


「俺も」


「……」


 クロエが。


 少し。


 安心したように笑う。


「恋人は」


「ああ」


「利益率が悪いですね」


「何が」


「一時間で」


 置物。


「名前すら決まりません」


「でも」


「何です?」


「楽しい?」


 一度。


 クロエ。


 笑う。


「はい」


「なら赤字ではないな」


「先生」


「何だ」


「今の言い方」


「ああ」


「好きです」


     ◇


 ノア。


 夕方。


 窓。


「先生」


「何だ」


「五分」


「ああ」


「隠れる」


「どうぞ」


 影ではない。


 カーテンの向こう。


 一分。


 二分。


 三分。


 四分。


 五分。


 戻る。


「ただいま」


「お帰り」


 ノア。


 嬉しそう。


「先生」


「何だ」


「キス」


「ああ」


「今は?」


 俺は。


 ノアを見る。


 帰ってきた。


 少し。


 頬が赤い。


「したい?」


 逆に聞く。


「うん」


「俺も」


 ノアの目が。


 大きくなる。


「……」


「……」


 今。


 初めて。


 はっきり。


 同じ瞬間。


 したいと。


 思った。


「先生」


「ああ」


「していい?」


 心臓。


 うるさい。


 でも。


「……いい」


 ノアが。


 一歩。


 近づく。


 俺も。


 一歩。


 距離。


 なくなる。


 その瞬間。


「先生ー!」


 廊下から。


 アウラの声。


「お肉焼けた!」


「……」


「……」


 ノアの目。


 閉じる直前で止まる。


「先生」


「何だ」


「今」


「ああ」


「すごく」


「ああ」


「邪魔された」


「ああ」


「怒っていい?」


「少しなら」


「アウラ」


 ノアが。


 扉を見る。


「あとで肉、一枚もらう」


「復讐が平和になったな」


「成長した」


 俺も。


 思わず笑った。


 ノアも。


 少し後。


 笑った。


「先生」


「何だ」


「次」


「ああ」


「ある?」


 俺は。


 答える。


「ある」


 ノアの顔が。


 嬉しそうに。


 緩んだ。


     ◇


 最後。


 アステラ。


 夜。


 俺の部屋。


 白い紙。


 昨日。


 嬉色を一点。


 塗ったもの。


「今日は?」


 俺が尋ねる。


「色を増やしたい」


「何色」


「まだ決めてない」


「では」


 二人。


 窓辺。


 座る。


「レオン」


「何だ」


「今日」


「ああ」


「誰かとキスした?」


 直球だ。


「していない」


「しようとした?」


「……」


 嘘をつかない。


「ノアと」


 アステラの瞳。


 少し。


 揺れる。


「直前まで」


「ああ」


「したかった?」


「ああ」


「ノアも?」


「ああ」


「でも」


「何だ」


「アウラが肉で止めた」


「……」


 アステラが。


 口を押さえる。


「笑っていいぞ」


「ごめん」


 笑った。


「すごく」


「ああ」


「アウラらしい」


「だろう」


「嫉妬してる」


「ああ」


「でも」


 紙へ。


 新しい色。


 少し。


 深い青。


「これ」


「何色」


「嫉妬」


「そのままだな」


「でも」


 隣。


 嬉色。


「嬉しいもある」


「どうして」


「レオンが」


 一度。


 俺を見る。


「誰かとキスしたいって思えるくらい」


「ああ」


「自分の気持ちを」


「ああ」


「ちゃんと感じてるから」


「……」


「昔のレオンなら」


「ああ」


「八人に公平じゃないからって」


「ああ」


「全部やめてたでしょう?」


「たぶん」


「今は」


「ああ」


「ノアとしたいと思った」


「ああ」


「それ」


 少し。


 寂しそう。


 でも。


 笑う。


「いいことだと思う」


「アステラ」


「何?」


「お前は?」


「したい」


 即答。


「今?」


「……」


 少し。


 考える。


「したい」


「ああ」


「でも」


「何だ」


「レオンは?」


 俺も。


 アステラを見る。


 普通の家。


 屋台。


 手。


 抱擁。


 嬉色。


「したい」


 今度は。


 迷わなかった。


 アステラの瞳。


 大きくなる。


「本当?」


「ああ」


「私と?」


「ああ」


「今?」


「ああ」


 嬉色。


 濃い。


「では」


 一度。


 深呼吸。


「聞く」


「ああ」


「レオン」


「ああ」


「キスしてもいい?」


 俺は。


 少し。


 笑った。


「俺からしたい」


 アステラが。


 完全に止まった。


「……」


「嫌?」


 首。


 ものすごい勢いで横。


「嫌じゃない」


「では」


 一歩。


 近づく。


 アステラも。


 動かない。


 逃げない。


 俺が。


 手を。


 彼女の頬へ。


 触れる前。


「いい?」


「うん」


 頬。


 温かい。


 顔。


 近い。


 目を閉じる。


 俺も。


 少し。


 緊張する。


 そして。


 唇。


 ほんの。


 一瞬だけ。


 触れた。


     ◇


 離れる。


「……」


「……」


 アステラ。


 動かない。


「アステラ?」


「……」


「大丈夫か?」


「レオン」


「何だ」


「今」


「ああ」


「キスした?」


「ああ」


「私と?」


「ああ」


「レオンから?」


「ああ」


「……」


 嬉色。


 桃色どころではない。


 顔。


 耳。


 首。


 全身。


 うっすら。


 光る。


「光ってるぞ」


「分かってる」


「大丈夫か」


「分からない」


「嫌だった?」


「違う」


 即答。


「もう一回」


「早い!」


「一回だけ」


「さっき一回した!」


「次の一回」


「今日は」


 俺も。


 心臓。


 まだ速い。


「これでいい」


 アステラが。


 少し。


 残念そう。


 でも。


 すぐ。


 笑う。


「うん」


「怒らない?」


「次がある?」


「ああ」


「なら」


 紙へ。


 震える手。


 新しい色。


 桃色より。


 もっと。


 明るい。


「これ」


「何色」


「まだ名前ない」


「ああ」


「初めて」


 一点。


 塗る。


「レオンにキスしてもらった色」


「長いな」


「あとで考える」


「そうしてくれ」


     ◇


 問題は。


 翌朝だった。


 朝食。


 八人。


 いつもの席。


「先生」


 セレス。


「昨日は」


「ああ」


「誰かと」


 一度。


 言葉。


「されましたか?」


「……」


 全員。


 静かになる。


 俺は。


 嘘をつかない。


「した」


 八人。


 止まる。


「……」


「……」


「……」


「誰?」


 エリナ。


「先生」


 クロエ。


「言いたくないなら」


「いや」


 アステラを見る。


 アステラ。


 顔。


 もう赤い。


「アステラと」


 完全な沈黙。


「……」


「……」


「……」


「レオンから」


 アステラが。


 追加した。


「アステラ!」


「事実」


 七人の顔。


 一気に。


 変わる。


「先生から?」


 セレス。


「ああ」


「口へ?」


 ミレイユ。


「ああ」


「一瞬?」


 リリス。


「ああ」


「何秒?」


 クロエ。


「測っていない!」


「場所は?」


 ノア。


「俺の部屋」


 さらに。


 空気が。


 凍る。


「先生」


 エリナ。


「夜?」


「ああ」


「部屋?」


「ああ」


「二人?」


「ああ」


「……」


 アウラが。


 肉を。


 噛む。


 ものすごい勢い。


「アウラ」


「嫉妬」


「ああ」


「肉食べる」


「人のは取るなよ」


「取らない!」


 成長している。


 セレス。


 目を閉じる。


「先生」


「何だ」


「私は」


 深呼吸。


「非常に」


「ああ」


「非常に」


「ああ」


「嫉妬しております」


「ああ」


「ですが」


 俺を見る。


「アステラさんが先だったことを」


「ああ」


「責めません」


 アステラが。


 少し驚く。


「セレス」


「ただし」


「ああ」


「私も」


 顔。


 真っ赤。


「先生としたいです」


「ああ」


「いつか?」


「ああ」


「約束ではなく?」


「したいと思った時に」


「……はい」


 ミレイユも。


「私も同じです」


 リリス。


「私もだ」


 エリナ。


「私も!」


 アウラ。


「私も!」


 クロエ。


「私も希望します」


 ノア。


 少し。


 複雑そう。


「先生」


「何だ」


「昨日」


「ああ」


「私とも」


「ああ」


「したかった?」


「ああ」


「……」


「ノア?」


「それ」


 少し笑う。


「今は嬉しい」


「アウラに止められたけどな」


「肉」


 アウラ。


「ごめん」


「知らなかっただろう」


「うん」


「ではいい」


 ノア。


 思ったより。


 あっさり。


 受け入れた。


     ◇


『重要な評価を行います』


 家。


「朝から何だ」


『初口づけについて』


「記録するな!」


『順位評価は行いません』


「……」


 七人。


 少し。


 安心。


『アステラ様が最初であったことによる』


『婚姻評価・交際評価上の加点はありません』


「家」


 アステラ。


「はい」


「少しだけ残念」


『ご了承ください』


「そこまで正直に言うな」


『一方』


 壁。


『旦那様』


「ああ」


『相手との自然な時間の中で』


『ご自身の欲求を認識し』


『相手へ確認した上で』


『自ら口づけを選択』


「ああ」


『非常に高い成長です』


 八人。


 俺を見る。


「先生」


 クロエ。


「現在」


「ああ」


「八名中一名」


「数字にするな!」


「申し訳ありません!」


『さらに』


「まだ?」


『残る七名へ』


「ああ」


『公平性を理由に即時実施しないことを推奨します』


「当たり前だ」


『一人目と同じ方法を再現する必要もありません』


「ああ」


『それぞれとの関係の中で』


『それぞれの時を選択してください』


 俺は。


 八人を見る。


「そうする」


 セレス。


 ミレイユ。


 リリス。


 エリナ。


 アウラ。


 クロエ。


 ノア。


 全員。


 少し。


 悔しそう。


 でも。


 頷いた。


「先生」


 エリナ。


「じゃあ」


「ああ」


「普通に過ごす」


「ああ」


「いつ来るか分からない?」


「ああ」


「……」


「何だ」


「ずっと緊張する!」


「知らない!」


     ◇


 朝食後。


 アステラが。


 俺の横へ来る。


「レオン」


「何だ」


「昨日の色」


「ああ」


「名前決めた」


「何色」


 白い紙。


 嬉色の隣。


 新しい。


 淡い光。


「帰恋色」


「かえりこいいろ?」


「うん」


「どうして」


「契約がなくても」


「ああ」


「離れても」


「ああ」


「私が自分で帰ってきて」


「ああ」


「レオンも」


 少し。


 恥ずかしそうに。


「私へ来てくれた時の色」


「……」


「変?」


「いや」


 俺は。


 紙を見る。


「いい名前だ」


 嬉色。


 帰恋色。


 これから。


 増えていく。


「レオン」


「何だ」


「次」


「ああ」


「いつ?」


「決めない」


「……」


「でも」


 俺から。


 少し。


 近づく。


「したくなったら」


 アステラの顔。


 すぐ赤い。


「俺から聞くこともある」


「……」


「アステラ?」


「その言葉だけで」


「ああ」


「今日一日、たぶん何もできない」


「仕事しろ」


「恋人だから休む」


「クロエの木札を勝手に使うな!」


 こうして。


 八人の恋人との。


 初めてのキス問題は。


 一人だけ。


 解決した。


 残り。


 七人。


 なお。


 その日の昼から。


 セレスは土を頬につける回数が増え。


 ミレイユはガラクタ制作へ誘う回数が増え。


 リリスは熱くない料理ばかり作り。


 エリナは妙に俺の近くで転び。


 アウラは菓子を食べた後に必ず歯を磨き。


 クロエは二人きりになれる休業時間を増やし。


 ノアは五分隠れては戻ってくるようになった。


「全員!」


 俺は。


 夕方。


 ついに叫んだ。


「自然にしろと言っただろう!」


 八人は。


 揃って。


 こう答えた。


「自然に、したくなるよう努力しています」


「それを不自然と言うんだ!」


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