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世界を滅ぼす七人の悪女を更生させた俺、死亡したと思われていたら彼女たちが世界大戦を始めようとしていた  作者: てへろっぱ


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24/39

第24話 俺の分身と死んだ仲間の記憶が二人で出かけたら、どちらも「本人の代わり」をやめて帰ってきた



『第二課題』


『レオ様が、レオン様とリタ様以外に、ご自身の意思でもっと知りたいと思う人物を一名選んでください』


 家の壁へ表示された課題を前に。


 七人とアステラが。


 一斉にレオを見つめていた。


「私たちから?」


 セレス。


「必ず一名でしょうか」


 ミレイユ。


「強さで選ぶ?」


 エリナ。


「食事なら私」


 アウラ。


「利益率の高い情報を提供できます」


 クロエ。


「暗い場所で話せる」


 ノア。


「レオンとは違う世界を知っているわ」


 アステラ。


「全員、黙れ」


 レオは。


 七人にも。


 アステラにも視線を止めず。


 居間の端に立つ女性を見た。


「フィオナ」


「私?」


 半透明の金色の髪。


 記憶から再現された体。


 死んだ仲間。


 フィオナ・レイルズの記憶と人格を持つ女性。


「あなたと話したい」


「どうして?」


「俺は、レオンの記憶から作られた」


「ああ」


「あなたは、フィオナという女性の記憶から作られた」


 フィオナの笑顔が。


 少しだけ薄くなる。


「コピーが」


 レオは自分の胸へ手を置く。


「元になった人間とは違う人生を選んでもいいのか」


「ああ」


「あなたが、どう思っているのか知りたい」


 フィオナは。


 しばらく答えなかった。


 やがて。


 いつもの冗談めいた笑みではなく。


 少し寂しそうに笑った。


「いいわ」


「本当に?」


「私も」


 自分の半透明な手を見る。


「ずっと、誰かに聞いてみたかったから」


「何を?」


「私は」


 亡くなった本人の代用品なのか。


 それとも。


「今ここで笑っている私は、誰なのかを」


『選択を受理しました』


 家の声が響く。


『第二課題の対象者を、フィオナ様へ設定します』


「私は生徒ではないでしょう?」


『本日より、臨時参加者として登録します』


「勝手ね」


『旦那様のお家ですので』


「家」


『事実です』


 フィオナは肩をすくめた。


「それで、何をすればいいの?」


『二人で外出してください』


 七人の目が変わった。


「外出?」


 セレスが尋ねる。


『はい』


「二人きりで?」


『はい』


「それは」


 ミレイユが微笑んだまま、レオとフィオナを見る。


「一般的に、逢瀬と呼ばれるのでは?」


「デートでもいいわよ」


 フィオナが軽く答えた。


 七人の空気が。


 少しだけ緩む。


「先生ではなく、レオさんですので」


 セレス。


「問題ございません」


 ミレイユ。


「先生と同じ顔だが」


 リリスがレオを見る。


「中身は違う」


 ノアが答えた。


「でも顔は先生」


 アウラ。


「レオの顔だ」


 ノア。


「先生とレオは違う」


「ノア」


 レオが少し驚く。


「もう区別できるのか?」


「うん」


「どうやって」


「服」


「今日だけだろう」


「匂い」


「ああ」


「足音」


「ああ」


「先生は今、フィオナを見て少し寂しそう」


 俺の動きが止まる。


「俺が?」


「うん」


「レオは?」


「自分と似てる人を見つけて、安心してる」


 レオも黙る。


「ノア」


「何?」


「そこまで分かるのか」


「見てるから」


 影の女王は。


 俺の顔。


 レオの顔。


 フィオナの顔を順番に見た。


「三人とも違う」


『影の女王ノア様の個体識別能力を確認しました』


「家。今はノアの課題ではない」


『有用な成長です』


「褒めた?」


 ノアが家の壁を見る。


『はい』


 ノアは頭を差し出しかけ。


 途中で止まった。


「今日はレオの時間」


「本当に成長したな」


「先生」


「何だ」


「後で撫でて」


「覚えていたらな」


「覚えてて」


     ◇


『第二課題の規則を説明します』


 家の壁へ。


 新しい文字が表示される。


『一つ』


『レオン様と、亡くなったフィオナ様の思い出を再現することを禁止します』


「どうして?」


 フィオナが尋ねる。


『二人が元となった人物の続きを演じることを防ぐためです』


「昔行った場所へ行くのも?」


『可能ですが、同じ行動を繰り返してはなりません』


「難しいわね」


「俺は、あなたと行った場所の記憶を持っている」


 レオが言う。


「正確には、レオンの記憶だ」


「ああ」


「そこへ行けば、レオンなら何を言うか分かる」


「ええ」


「では行かない」


「即決?」


「知らない場所へ行きたい」


『個体的意思を確認しました』


「まだ課題は始まっていないだろう」


『記録のみです』


『二つ』


『互いを、レオン様および故フィオナ様の代理として扱わないでください』


 フィオナが。


 俺を見た。


「レオン」


「何だ」


「あなたは今日、来ないのよね?」


「ああ」


「心配?」


「少しは」


「私が、あなたと同じ顔の男と出かけるから?」


「そういう心配ではない」


「では?」


「お前が」


 言葉を選ぶ。


「昔のフィオナとして振る舞い続けるんじゃないかと思っている」


 フィオナの笑顔が消える。


「私が、昔の私を演じているように見える?」


「分からない」


「正直ね」


「お前自身は?」


「もっと分からないわ」


 フィオナは。


 自分の胸へ触れる。


「私は、フィオナの記憶から作られた」


「ああ」


「好みも」


「ああ」


「口調も」


「ああ」


「あなたへの気持ちも」


 七人の目が。


 一斉に鋭くなる。


「先生への気持ち?」


 セレスが尋ねた。


「昔の仲間としてよ」


「本当に?」


 ミレイユ。


「そこを今、追及するな」


 俺が止める。


 フィオナは少し笑う。


「当時の私は、レオンを大切に思っていた」


「ああ」


「恋だったかは、死ぬまで分からなかった」


「そうだったのか?」


「今さら本人に聞けないもの」


「お前は本人の記憶を」


「記憶があることと」


 フィオナは首を振る。


「本人であることは違うわ」


 その言葉に。


 レオが静かに頷いた。


『三つ』


『本日、元となった二名が持っていない新しい記憶を一つ作ってください』


「記憶」


「二人で?」


『はい』


「何をすれば?」


『自分たちで選んでください』


「家」


『課題です』


 フィオナは少し困ったように笑った。


「行き先も、自分たちで?」


『はい』


「服も?」


『はい』


「食事も?」


『はい』


「レオ」


「何だ」


「面倒ね」


「ああ」


「でも」


 フィオナは。


 少しだけ楽しそうに俺たちを見る。


「誰かに決められない一日なんて、久しぶりかもしれない」


『最後』


 家の声が。


 少し低くなる。


『レオン様、七名、アステラ様、リタ様による尾行、監視、盗聴、占術、影追跡、神託、商業取引記録の確認を禁止します』


 全員が固まった。


「先生」


 セレスが俺を見る。


「私は何も申し上げておりません」


「俺もだ」


「家は、考えていることまで判断するのか?」


 リリス。


『過去の行動傾向から予測しました』


「影追跡」


 ノアが小さく呟く。


「駄目?」


『駄目です』


「屋根の上から見るだけ」


『駄目です』


「匂いを覚えて、後から道を辿る」


『本日の行動を調査する目的であれば禁止です』


「……分かった」


「神へ安全だけ確認していただくことは?」


 ミレイユ。


『緊急時以外は禁止します』


「市場で何を購入したかは、通常の商業記録です」


 クロエ。


『閲覧禁止です』


「帰宅時の持ち物から推測するのは?」


『認めますが、本人たちが答えたくない場合は追及禁止です』


「分かりました」


「私は、レオンを見てる」


 アステラが言う。


「レオではなく?」


「ええ」


「今日は俺が留守番だからな」


「二人が帰るまで、レオンと話す」


「俺の予定を勝手に」


 言いかけ。


 アステラが手を上げる。


「一緒にいていいか聞くわ」


「成長したな」


「今、隣にいていい?」


「ああ」


 アステラは。


 契約がなくても。


 自分から俺の隣へ座った。


     ◇


 レオとフィオナが家を出る。


 リタは玄関まで見送った。


「レオお父さん」


「何だ」


「私は行けませんか?」


「今日は二人の課題だ」


「分かっています」


「寂しい?」


「少し」


「俺も少しだ」


「本当?」


「ああ」


「では」


 リタは小さな袋を差し出した。


「お小遣いです」


「クロエから?」


「自分で貯めました」


「何をして」


「家のお手伝い」


「いくらある」


「銅貨十三枚」


「全部?」


「はい」


「受け取れない」


「レオお父さん」


「何だ」


「今日は、私が使い道を決めません」


「ああ」


「返すかどうかも、レオお父さんが決めてください」


「それは」


「私が渡したいから渡します」


 レオは。


 銅貨の袋を見る。


「では、借りる」


「贈り物です」


「俺は返したい」


「分かりました」


「利息は?」


「一緒にお出かけ一回」


「高いな」


「嫌ですか?」


「嫌ではない」


「では、契約成立です」


 クロエの真似らしい。


「帰ったら、どこへ行くか決めよう」


「はい」


「俺が選んでも?」


「一緒に決めます」


「分かった」


 レオは袋を受け取った。


「行ってくる」


「いってらっしゃい、レオお父さん」


 フィオナも手を振る。


「私には?」


「フィオナさんも、いってらっしゃい」


「ありがとう」


「帰ってきますか?」


 フィオナの動きが止まる。


「ええ」


 少しして。


 はっきり答えた。


「帰ってくるわ」


     ◇


 二人が最初に向かったのは。


 服屋ではなかった。


 食堂でもない。


 八百四十二世界の記録品が集まる。


『記憶市』


 と呼ばれる区画だった。


 声。


 映像。


 匂い。


 夢。


 さまざまな世界の記録を保存する品が並んでいる。


「どうして、ここへ?」


 フィオナが尋ねる。


「あなたが、何を見たいか知りたかった」


「私に決めさせるの?」


「嫌か?」


「レオンなら」


 言いかけ。


 フィオナが口を閉じる。


「今のは規則違反ね」


「ああ」


「レオは?」


「あなたが、過去ではなく何を見るか知りたい」


「私が?」


「ああ」


「では」


 フィオナは店を見渡す。


 戦争の記録。


 失われた街。


 誰かの結婚式。


 子供が初めて歩いた日。


 名も知らない老人の最後の言葉。


 本人以外には。


 価値が分からない記録ばかりだ。


「これは?」


 一つの棚。


 壊れた記録具が山積みになっている。


『再生不能』


『持ち主不明』


『音声欠損』


『記憶断片』


「売り物なのか?」


 レオが店主へ尋ねる。


「部品取り用です」


「中の記録は?」


「再生できません」


「修理すれば?」


「元の記録が戻る可能性はございます」


「誰の記録かも分からない?」


「はい」


 レオの目が。


 少し変わる。


「直したい?」


 フィオナが尋ねた。


「ああ」


「誰かに頼まれたから?」


「違う」


「役に立つから?」


「分からない」


「では?」


「中に何が残っているか知りたい」


 フィオナは。


 壊れた記録具の山を見る。


「私は、少し怖いわ」


「どうして」


「中身が」


「ああ」


「私と同じかもしれないから」


「記憶だけが残っている?」


「ええ」


 フィオナは。


 小さな銀色の箱を手に取る。


 表面に。


 消えかけた花の印。


「これが気になる」


「なぜ?」


「分からない」


「元のフィオナが好きだった花?」


「違うわ」


 即答した。


「記憶にない花よ」


「では」


「私が、今初めて見て」


 銀色の箱へ触れる。


「きれいだと思った」


 レオが少し笑った。


「買う?」


「銅貨八枚です」


 店主が答える。


 レオの所持金は。


 リタから借りた銅貨十三枚。


「残り五枚」


「修理部品を買えないかもしれない」


「では、別の箱にする?」


「いや」


「どうして」


「あなたが、これを選んだ」


「ああ」


「俺は、これを直したい」


 銅貨八枚を支払う。


「二人の選択?」


「そうなる」


「初めてね」


「ああ」


     ◇


 記憶市には。


 誰でも使える修理台があった。


 工具の貸出料。


 銅貨一枚。


 残り四枚。


 レオは銀色の箱を分解する。


 フィオナは隣へ座り。


 部品を一つずつ並べた。


「この歯車」


「ああ」


「アオより小さいわね」


「記憶の再生速度を調整する物だ」


「レオンの記憶で分かる?」


「半分は」


「残りは?」


「今、見て考えている」


「それは、レオの考え?」


「たぶん」


「便利ね」


「何が」


「元の記憶と、自分の考えを分けられる」


「あなたはできない?」


 フィオナは。


 自分の指先を見る。


「私が何かを見て」


「ああ」


「懐かしいと思った時」


「ああ」


「元のフィオナが懐かしがっているのか」


「ああ」


「今の私が、懐かしいと思っているのか」


「ああ」


「分からない」


「今日初めて見たものなら?」


「比較できる」


「銀色の箱は?」


「今の私が、きれいだと思った」


「それで十分では?」


「一つだけなら」


 フィオナは。


 少し寂しそうに笑う。


「私の中には、元のフィオナのほうが多い」


「俺も同じだ」


「レオンの記憶が?」


「ああ」


「苦しくない?」


「以前は」


 レオは。


 壊れた歯車を取り出す。


「自分が空っぽだと思っていた」


「ああ」


「今は」


 深緑の袖を見る。


「空っぽの場所へ、一つずつ入れている」


「ああ」


「元の記憶を捨てる必要はない」


「そう思える?」


「レオンが森を歩いた記憶がある」


「ああ」


「俺は、その森で眠りたいと思った」


「ああ」


「同じ場所でも」


 新しい歯車を削る。


「続きは変えられる」


 フィオナは。


 長い間、何も言わなかった。


「フィオナ?」


「今の言葉」


「何だ」


「覚えていたいと思った」


「元のフィオナは?」


「聞いていない」


「なら」


 レオは工具を置く。


「今のあなたの記憶だ」


     ◇


 二時間後。


 銀色の箱は。


 形を取り戻した。


 だが。


「動かない」


 レオが呟く。


「壊した?」


「直しきれなかった」


「部品が足りない?」


「ああ」


「買える?」


「残り銅貨四枚」


「部品は?」


 店主へ確認する。


「同じ規格の記憶結晶は、銅貨十枚です」


「足りないな」


「私が働く?」


 フィオナが尋ねる。


「何をする」


「店の客引き」


「半透明の女性が、記憶を売る店の前へ立つのか」


「似合うでしょう?」


「怖がられないか?」


「試す?」


「あなたがしたいなら」


「少し面白そう」


 フィオナは店の前へ立った。


「いらっしゃいませ」


 通りかかった男が。


 驚いて足を止める。


「幽霊?」


「記憶よ」


「同じでは?」


「少し違うわ」


「何を売っている」


「あなたが忘れたくないもの」


 男が店へ入る。


 次。


 子供。


「お姉さん、透けてる」


「あなたも、後ろの光が見えるわ」


「触れる?」


「少しだけ」


 子供の手が。


 フィオナの指を通り抜ける。


「冷たい」


「ごめんなさい」


「面白い」


「怖くない?」


「うん」


「どうして」


「話してるから」


「幽霊でも?」


「今、話してる人」


 子供は。


 それだけ言って店へ走っていった。


 フィオナが。


 その場に立ち尽くす。


「どうした」


 レオが尋ねる。


「今、話している人」


「ああ」


「私は、人?」


「本人がそう思った」


「レオは?」


「あなたと話している」


「ああ」


「だから、あなたは」


 少し考える。


「少なくとも俺にとって、今ここにいる人だ」


 フィオナは。


 ゆっくり笑った。


「ありがとう」


 その笑顔は。


 俺の記憶にあるフィオナの笑顔と似ていた。


 だが。


 完全には同じではなかった。


     ◇


 客引きの報酬。


 銅貨七枚。


 合計十一枚。


 記憶結晶を一つ買う。


 再び修理台。


「レオ」


「何だ」


「失敗してもいい?」


「何が」


「中の記憶が戻らなくても」


「ああ」


「元の持ち主を救えなくても?」


「俺たちは、頼まれていない」


「ああ」


「ただ、動くところを見たい」


「ああ」


「私は」


 フィオナは銀色の箱へ手を置く。


「新しい記憶を入れたい」


「元の記録が消えるかもしれない」


「それでも?」


「消すのではなく」


 フィオナは。


 小さく息を吐く。


「空いている場所へ、今日のことを残したい」


「今日?」


「銀色の箱を選んだこと」


「ああ」


「レオが直そうとしたこと」


「ああ」


「子供に、今話している人と言われたこと」


「ああ」


「それを」


 真っすぐレオを見る。


「忘れたくない」


「俺もだ」


 新しい記憶結晶を組み込む。


 蓋を閉じる。


 鍵を回す。


 かち。


 銀色の箱に。


 淡い光が灯った。


 最初に流れたのは。


 知らない女性の声だった。


『明日も、ここで待っています』


 一言だけ。


 雑音。


 途切れる。


「元の記録?」


「ああ」


「誰を待っていたのかしら」


「分からない」


「戻ってきた?」


「分からない」


 フィオナは箱を両手で持つ。


「この声を、消さなくてよかった」


「ああ」


「でも」


 箱の横には。


 新しい記録を始めるための、小さな針がある。


「私たちの声も、入る?」


「ああ」


「何を話す」


「自分で決める」


「難しいわね」


 二人で考える。


 昔のフィオナの思い出ではなく。


 レオンの記憶でもなく。


 今日。


 今。


 二人が初めて作ったもの。


 レオが針を押した。


「レオ・アルヴェイン」


 自分の名前を言う。


「今日、深緑の服を着て」


「ああ」


「リタから銅貨十三枚を借り」


「ああ」


「フィオナと、銀色の箱を直した」


 フィオナが。


 少し笑う。


「フィオナ」


「姓は?」


「まだ決めていない」


「ああ」


「今日、初めて見た花の印をきれいだと思って」


「ああ」


「レオと、壊れた記憶を直した」


「ああ」


「私は」


 一度、言葉が止まる。


「元のフィオナではない」


「ああ」


「でも」


 銀色の箱へ触れる。


「元のフィオナを忘れたくもない」


「ああ」


「私は、あの人の記憶を持っている」


「ああ」


「そして」


 レオを見る。


「今日から、その先を生きたい」


 記録具の光が。


 ゆっくり消える。


『新規記録を保存しました』


 機械音。


 二人の記憶。


 俺にも。


 亡くなったフィオナにも存在しない。


 新しい一日。


『第二課題達成条件を確認しました』


 家の声が。


 記憶市の端末から響いた。


『レオ様とフィオナ様は、元となった二名が持たない共有記憶を作成しました』


「合格?」


『帰宅後、最終確認を行います』


「家は厳しいわね」


「いつもだ」


「レオンのお嫁さん候補が、卒業できない理由が分かったわ」


「俺たちも簡単ではなさそうだ」


     ◇


 その頃。


 家では。


「今、何時ですか?」


 セレスが尋ねた。


『出発から三時間二十七分です』


「まだですか」


『帰宅予定は設定されていません』


「食事は?」


 ミレイユ。


『外で取る可能性があります』


「フィオナさんは、食事が必要ありません」


「レオが一人で食べる?」


 アウラが心配そうに言う。


「私のお肉を持たせればよかった」


「普通に店で買うだろう」


 俺は答えた。


「銀貨は?」


 クロエが尋ねる。


「レオは、銀貨を持っておりません」


「リタから銅貨十三枚を借りた」


「十三枚で二人分の食事は」


「フィオナは食べない」


「それでも不足する可能性が」


「自分で考える課題だ」


 クロエは。


 通信具へ伸ばしかけた手を止める。


「送金は?」


「禁止だ」


「……はい」


 ノアは椅子へ座ったまま。


 何度も天井を見る。


「行かないぞ」


「分かってる」


「影を伸ばすな」


「伸ばしてない」


「本当に?」


「少しだけ」


「ノア」


「戻した」


 足元から。


 細い影が戻ってくる。


 リリスは窓の外を見る。


「先生」


「何だ」


「フィオナとレオが、恋仲になったら?」


「本人たちの問題だ」


「先生は平気?」


「どういう意味だ」


「フィオナは、昔の仲間だ」


「ああ」


「女性として、意識していなかった?」


 七人の視線が。


 また俺へ集まる。


「今、その話をする必要があるか?」


「あります」


 セレスが答えた。


「フィオナさんは、婚姻審査へ参加される可能性が?」


「本人は、今まで一度も希望していない」


「今後は?」


「俺へ聞くな」


 アステラが隣で。


 少しだけ笑った。


「レオン」


「何だ」


「困ってる?」


「ああ」


「昔のフィオナを、好きだった?」


「大切な仲間だった」


「それだけ?」


「分からない」


 正直に答える。


「死んだ後に考えても、本人には確かめられない」


「ああ」


「今のフィオナは?」


「昔の仲間の記憶を持つ」


「ああ」


「別の女性だと思っている」


「ああ」


「恋愛としては?」


「まだ、そう見たことはない」


 七人が少し安心する。


「ただ」


「ただ?」


「本人が、どう生きたいかは応援したい」


 アステラが頷く。


「それでいいと思うわ」


「珍しく助けるな」


「私も」


 自分の胸へ触れる。


「昔の私と、今の私が違うと認めてもらったから」


「ああ」


「フィオナにも、今の自分を選ぶ権利がある」


「そうだな」


 アステラは。


 契約がなくなってから。


 以前よりも。


 誰かの独立を、自分のこととして考えるようになっていた。


     ◇


 夕方。


 家の扉が開く。


 レオとフィオナが帰ってきた。


 全員が立ち上がりかけ。


 家の警告音で止まった。


『一斉に質問しないでください』


「分かっています」


 セレスが座り直す。


 レオは。


 深緑の上着。


 肩にはアオ。


 手には銀色の記録具。


 フィオナは。


 出発時と同じ姿。


 だが。


 胸元に。


 銀色の花飾りをつけていた。


「それは?」


 俺が尋ねる。


「記録具に描かれていた花を、店主が飾りにしてくれたの」


「好きなのか?」


「ええ」


「昔のフィオナも?」


「知らない花よ」


「では」


「今の私が、初めて好きになった花」


 フィオナは。


 少し照れたように笑った。


「似合う」


「ありがとう」


 その言葉に。


 フィオナの目が僅かに揺れる。


「レオンなら」


 言いかけ。


 首を振る。


「あなたは、そう言うのね」


「ああ」


「嬉しいわ」


「レオさん」


 ミレイユが尋ねる。


「何をなさったのですか?」


「記憶具を直した」


「役に立つもの?」


 リリス。


「知らない人の声が一つ残っている」


「それだけ?」


「俺とフィオナの今日も記録した」


「新しい思い出?」


 アウラが目を輝かせる。


「ああ」


「聞いていい?」


 レオはフィオナを見る。


「どうする?」


「全部は少し恥ずかしいわ」


「では、最初だけ」


「ええ」


 レオが記録具の鍵を回す。


『レオ・アルヴェイン』


 レオ自身の声。


『今日、深緑の服を着て、リタから銅貨十三枚を借り、フィオナと銀色の箱を直した』


 リタの顔が明るくなる。


「私の銅貨も、記憶に入っています!」


「返すぞ」


「返さなくても」


「返す」


「では、一緒に出かける利息を」


「ああ」


「約束です」


 フィオナの声も流れる。


『フィオナ。姓は、まだ決めていない』


 そこで記録を止めた。


「姓?」


 セレスが尋ねる。


「フィオナ・レイルズでは?」


「それは、元の私の名前よ」


「変更なさるのですか?」


「まだ分からない」


「変えたい?」


 俺が尋ねる。


「捨てたくはないわ」


「ああ」


「でも」


 フィオナは、自分の名前を口にする。


「そのまま受け継ぐことが」


「ああ」


「あの人の人生まで、自分のものにするようで怖い」


「では」


 レオが言う。


「姓を持たないままでもいい」


「それも選択?」


「ああ」


「新しく決めても?」


「ああ」


「昔の名前を残しても?」


「ああ」


「レオ」


「何だ」


「あなたは、どれがいいと思う?」


「俺ではなく、あなたが決める」


「そう言うと思った」


「嫌か?」


「いいえ」


 フィオナは笑った。


「今の私が、考えるわ」


『第二課題の最終確認を開始します』


 家の声が響く。


『レオ様』


「何だ」


『フィオナ様について、もっと知りたいことは見つかりましたか?』


「ああ」


『何でしょう』


「昔のフィオナが、何を考えていたかではない」


「ああ」


「これから」


 フィオナを見る。


「どんなものを好きになるか知りたい」


 フィオナの表情が変わる。


「レオ」


「何だ」


「それは」


「ああ」


「私の未来?」


「ああ」


「元の私にはない」


「ああ」


「もっと知りたい」


 レオは。


 迷わず答えた。


『条件を満たしました』


『第二課題、合格です』


「本当に?」


『はい』


 家の壁へ。


 新しい文字が浮かぶ。


『レオ・アルヴェイン』


『他者を、元となった記憶との関係ではなく、現在と未来を持つ別人として認識しました』


 レオは。


 少し息を吐く。


「合格したな」


 俺が言う。


「ああ」


「おめでとう」


「ありがとう、兄」


 初めて。


 自然に呼んだ。


「今、兄と」


「一度だけだ」


「もう一度」


「断る」


「弟」


「その呼び方も少し腹が立つな」


 レオが。


 俺とは違う顔で笑った。


     ◇


『続いて』


 家の声。


『フィオナ様の個体状態を確認します』


「私も?」


『本日、新規記憶が作成されました』


「今までも、記憶は増えていたでしょう?」


『はい』


「では、何が違うの」


『これまでの新規記憶は』


 壁へ二つの光が表示される。


 一つ。


『故フィオナ・レイルズであれば、どのように反応したか』


 もう一つ。


『レオン様の仲間として、どのように振る舞うべきか』


「……」


『この二つを基準に整理されていました』


「私の記憶なのに?」


『現在の人格構造が、故フィオナ様の再現を目的として作られていたためです』


「では」


 フィオナは銀色の花飾りへ触れる。


「今日の記憶は?」


『どちらにも分類されませんでした』


「なぜ」


『フィオナ様が、ご自身で選択したからです』


 銀色の箱。


 知らない花。


 子供の言葉。


 レオとの会話。


 どれも。


 死んだフィオナを再現するためではない。


 俺の仲間として振る舞うためでもない。


「それは」


 フィオナの声が震える。


「私の記憶?」


『はい』


「本当に?」


『はい』


「誰かの続きを演じたものではなく?」


『はい』


 フィオナの瞳から。


 静かに涙が落ちた。


「泣けるのか?」


 俺が尋ねる。


「元のフィオナも泣いたわ」


「ああ」


「だから」


 涙へ触れる。


「この涙が、私のものか分からない」


「フィオナ」


「何?」


「今日は、何が悲しい」


「悲しくない」


「では?」


「嬉しい」


「元のフィオナは、今日のことを知らない」


「……ええ」


「なら」


 俺は答える。


「今、嬉しくて泣いているのは、お前だ」


 フィオナの唇が震える。


「レオン」


「何だ」


「あなたは」


 一歩。


 俺へ近づく。


「元の私に、帰ってきてほしい?」


 七人が静かになる。


 レオも。


 リタも。


 アステラも。


 俺の答えを待つ。


「帰ってきてほしいと思うことはある」


 正直に答えた。


「そう」


「話したいことも」


「ああ」


「謝りたいことも」


「ああ」


「聞きたいこともある」


「ああ」


 フィオナの顔が。


 少しずつ曇る。


「なら」


「だが」


 俺は続ける。


「お前へ、あいつの代わりをさせる気はない」


「……」


「死んだ仲間を忘れないことと」


 フィオナを見る。


「今のお前を、死者の代わりにすることは違う」


「私は」


「ああ」


「元のフィオナではない?」


「ああ」


「では、誰?」


 俺は。


 銀色の花飾りを見る。


「今日、初めて見た花を好きになって」


「ああ」


「レオと記憶具を直して」


「ああ」


「帰ってきたフィオナだ」


 フィオナの目から。


 また涙が落ちる。


「それだけ?」


「足りないか?」


「いいえ」


 首を振る。


「初めて」


 胸へ手を当てる。


「私のことを言われた気がする」


「これから増やせばいい」


「何を?」


「お前の説明を」


「ああ」


「好きなもの」


「ああ」


「嫌いなもの」


「ああ」


「行きたい場所」


「ああ」


「やりたいこと」


 レオが自分の深緑の袖を見せる。


「一日で、四つくらい増える」


「あなたは少し早すぎるのよ」


「効率がいい」


「そこはレオンに似ているわね」


「嫌だな」


「兄としては傷つくぞ」


「今、兄と呼ばれたいのか?」


「少しだけ」


『フィオナ様へ、独立人格登録を提案します』


 家の声が響く。


「独立人格?」


『故フィオナ・レイルズ様の再現記録ではなく』


 壁へ文字が浮かぶ。


『記憶継承人格フィオナ』


「記憶継承」


『故人の記憶を持ちながら、新しい人格と記憶を形成する存在です』


「私は」


 フィオナが文字を見る。


「コピーではない?」


『構造上の起源は複製です』


「家」


『事実です』


「言い方を考えなさい」


『ですが』


 続きが表示される。


『現在のフィオナ様は、複製だけでは説明できません』


「どうして」


『元となった人物が選ばなかった未来を、すでに選択したためです』


 フィオナは。


 しばらく文字を見つめる。


「登録したら」


『新しい記憶は、フィオナ様ご自身の人生として保存されます』


「元の記憶は?」


『保持されます』


「消えない?」


『はい』


「私が、あの人を忘れたくないと思っても?」


『選択可能です』


「レオン」


「何だ」


「登録していいと思う?」


「俺へ聞くな」


「そう言うと思った」


「だが」


「何?」


「お前が登録したいなら、歓迎する」


「この家に?」


「ああ」


「元のフィオナの部屋ではなく?」


「お前の部屋を作る」


 フィオナは。


 家の中を見る。


「私も」


 静かに言う。


「ここへ帰ってきたい」


「ああ」


「誰かの思い出としてではなく」


「ああ」


「今の私として」


「では」


 フィオナは壁へ向き直る。


「登録します」


『承知しました』


『記憶継承人格フィオナ』


『独立個体として登録』


 文字が光る。


 フィオナの半透明だった輪郭が。


 僅かに濃くなる。


「体が?」


『新規人格領域の安定により、実体化率が上昇しました』


 フィオナが机へ手を伸ばす。


 指が。


 今までより深く触れる。


 机の上の紙が。


 少しだけ動いた。


「動かせた」


「完全な体になる?」


 リタが尋ねる。


『新しい経験と選択を重ねれば、可能性があります』


「では」


 リタはフィオナの前へ立つ。


「一緒に遊べば、体になりますか?」


「すぐではないと思うわ」


「何をしたいですか?」


「私が?」


「はい」


 フィオナは考える。


「今日の花を」


 胸元へ触れる。


「本物で見てみたい」


「どこにありますか?」


「分からない」


「探しましょう」


「あなたと?」


「はい」


「レオも?」


「もちろんです」


 リタは俺を見る。


「お父さん一号も?」


「フィオナが望むなら」


 フィオナは少し考え。


 笑った。


「最初は、リタとレオと三人で探したい」


「ああ」


「寂しい?」


「少しは」


「でも?」


「行ってこい」


「ありがとう」


 俺を置いて。


 自分で行きたい相手を選ぶ。


 それも。


 今のフィオナが選んだ未来だった。


     ◇


『新たな部屋を用意します』


 家の廊下へ。


 銀色の扉が生まれる。


 中央には。


 名前の分からない花。


『フィオナ様の私室』


「レオの部屋の隣?」


 フィオナが尋ねる。


『リタ様を挟んだ反対側です』


「どうして」


『新規記憶形成の相互支援が期待されます』


「家」


『合理的配置です』


「先生」


 セレスが手を上げる。


「フィオナさんが、家族登録されたということでしょうか」


『居住者登録です』


「婚姻審査への参加は?」


『本人から申請されていません』


 七人が少し安心する。


 フィオナが、それを見て笑う。


「今の私は」


 俺を見る。


「レオンとの恋を考える前に」


「ああ」


「自分が何を好きになるか知りたいわ」


「それがいい」


「でも」


「何だ」


「いつか、今の私があなたを好きになった時は」


 七人の顔が固まる。


「その時、改めて考える」


「フィオナ!」


 七人の声が重なった。


「まだ何も決めていないわよ」


「候補を増やすな!」


 俺が止める。


「冗談よ」


「本当か?」


「半分は」


「もっと悪い!」


 フィオナは。


 死んだ仲間と同じ笑顔で。


 だが。


 俺の知らない楽しそうな声で笑った。


     ◇


『本日の課題は、すべて終了しました』


「ようやくか」


『いいえ』


「まだあるのか」


『次の課題を発表します』


 家の壁へ。


 大きな文字が表示される。


『旦那様の個人課題』


「俺?」


 七人とアステラが。


 一斉に家を見る。


『旦那様は以前』


 壁へ。


 俺が提出した宿題が表示される。


『一人で知らない場所を旅し、自分が何を望むか考えたい』


「ああ」


『一か月の旅に先立ち』


「先立ち?」


『明日、一日だけ予行練習を実施します』


 嫌な予感がした。


『旦那様は明日』


『誰も伴わず』


『一人で地下都市の外へ出かけてください』


 居間が静まり返る。


「一人?」


 ノアが尋ねる。


『はい』


「先生だけ?」


 ミレイユ。


『はい』


「護衛は?」


 セレス。


『同行禁止です』


「食事は?」


 アウラ。


『旦那様ご自身で選択します』


「資金管理は?」


 クロエ。


『旦那様ご自身で行います』


「危険な場所へ行ったら?」


 エリナ。


『本人が判断します』


「レオンの核は、もう私と繋がっていないわ」


 アステラが不安そうに俺を見る。


『はい』


「では、無事かどうかも分からない」


『緊急連絡手段のみ用意します』


 家の壁へ。


 さらに大きな赤い文字。


『七名、アステラ様、レオ様、リタ様、フィオナ様』


『尾行、監視、盗聴、追跡、占術、神託、影追跡、相場記録確認、空からの偵察、魔族および国家組織への警備依頼を禁止します』


「全部、先に塞がれた」


 クロエが呟く。


「先生」


 セレスが俺を見る。


「お一人で行かれるのですか?」


「ああ」


「本当に?」


「俺の宿題だ」


「何時に帰られますか?」


「まだ決めていない」


「夕食は?」


「帰れれば一緒に食べる」


「帰れれば?」


 七人の顔色が変わる。


「言い方を間違えた」


「必ず帰る?」


 ノアが尋ねる。


「ああ」


「何時?」


「夕食までには」


「約束?」


「約束だ」


 ノアは。


 少しだけ安心する。


 だが。


 俺以外の全員が。


 まだ不安そうにしている。


「先生」


 アウラが手を上げた。


「何だ」


「今日、たくさん食べて」


「明日の分は食べ貯めできない」


「お肉を持って」


「自分で選ぶ課題だ」


「……分かった」


「先生」


 クロエ。


「銀貨一枚では不足する可能性が」


「一日分なら足りる」


「借金を返してから行ってください」


「そうだった」


 俺は銀貨一枚を返す。


 クロエは受け取り。


 少し寂しそうに財布へ入れた。


「先生」


「何だ」


「貸借関係が、なくなりました」


「ああ」


「また必要になれば」


「普通に借りる」


「本当ですか?」


「ああ」


 クロエの顔が少し明るくなる。


「先生」


 ミレイユ。


「薬を」


「自分で必要なものを選ぶ」


「……はい」


「先生」


 リリス。


「防具を」


「持っていかない」


「……分かった」


「先生」


 エリナ。


「武器は?」


「普通の短剣だけ」


「……うん」


「先生」


 ノア。


「影を一つだけ」


「駄目だ」


「……分かった」


「レオン」


 アステラ。


「手をつないで寝ていい?」


「どうして今夜の話になる」


「明日、一日離れるから」


「今夜は自分の部屋で寝ろ」


「……分かった」


 全員。


 不満はある。


 不安もある。


 それでも。


 誰も俺の拒否を押し曲げなかった。


「成長したな」


 俺が言うと。


 七人とアステラが。


 一斉に頭を差し出しかける。


 途中で止まった。


「明日は、先生の課題」


 セレスが言う。


「今日は?」


 アウラが尋ねる。


「今日はまだいいだろう」


 俺が答えると。


 八人が一斉に並んだ。


「結局並ぶのか!」


 レオが。


 深緑の上着で笑っている。


 フィオナも。


 銀色の花へ触れながら笑った。


 レオは。


 俺の代わりではない自分を見つけ始めた。


 フィオナも。


 死んだ仲間の続きを演じるのではなく。


 自分の未来を選び始めた。


 そして明日。


 俺自身も。


 七人を守る先生でも。


 虚無王でも。


 七冠王国の王でもなく。


 ただのレオン・アルヴェインとして。


 一日を過ごさなければならない。


 ただし。


 俺はまだ知らなかった。


 家が用意した外出先が。


 八百四十二世界の留学生たちが暮らす地下都市の中でも。


 唯一。


 俺の顔も。


 名前も。


 功績も。


 誰一人知らない区画だったことを。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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