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世界を滅ぼす七人の悪女を更生させた俺、死亡したと思われていたら彼女たちが世界大戦を始めようとしていた  作者: てへろっぱ


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12/17

第12話 学園長を断ったはずなのに、始業式の壇上へ立たされていた



『レオン・アルヴェイン更生学園』


 俺は、居間の壁へ表示された文字を見上げた。


「消せ」


『承知しました』


 文字が消える。


 代わりに、新しい文字が表示された。


『レオン先生と七人の愛弟子学園』


「もっと悪くなった!」


『名称変更のご要望を反映しました』


「変更ではなく、学校そのものを作るなと言っている!」


『現在の入学希望者は、三千四百十二名です』


「昨日より増えているぞ!」


『聖騎士王アルベルト様が、異世界間通信を用いて入学希望を募集しました』


 俺は隣を見る。


 白銀の軍服を着たアルベルトが、姿勢よく立っていた。


「何をした」


「師匠の教えを学びたい者を募りました」


「まだ師匠ではない」


「一週間の観察期間中ですので、師匠候補とお呼びしましょうか?」


「長い。レオンでいい」


「恐れ多い!」


「お前も王だろう」


「王である前に、私はあなたの教えを受けたい一人の男です!」


 朝から声が大きい。


 昨日までの美しく落ち着いた聖騎士王はどこへ行ったのだろう。


 アルベルトの後ろには、分厚い紙の束が積まれている。


「その紙は?」


「入学希望者の志願書です」


「一枚ずつ持ってきたのか?」


「はい!」


「八百四十二世界から?」


「境界通信によって受信し、家殿に印刷していただきました」


『紙の消費量が増加したため、地下第十二区画へ製紙工房を建設しました』


「学校を作る前に工場ができている!」


「先生」


 クロエが紙の束を一枚取り、確認している。


「製紙事業には将来性がございます」


「商売を始めるな」


「異世界からの注文が急増しております。先生の肖像を入れた入学願書は、通常版の三倍の価格で――」


「肖像を入れるな!」


「すでに第一版が完売しました」


「売ったのか!」


「利益の一部は、学園建設費へ充てます」


「建設するなと言っている!」


 七人は、朝から居間へ集まっていた。


 セレスは教員らしい服装として、帝国の学術院で使われる白い外套を持参している。


 ミレイユは分厚い聖典を三冊。


 リリスは黒板らしき黒い石板。


 エリナは木剣を百本。


 アウラは、大量の弁当。


 クロエは事業計画書。


 ノアは何も持っていない。


 ただし、気づけば俺の椅子の後ろへ立っていた。


「全員、どうして教師をする気になっている」


「家が教員として登録したからです」


 セレスが答える。


「登録されても、断ればいいだろう」


「先生と同じ学園で働ける機会を、逃す理由がございません」


「帝国の仕事は?」


「執務室を地下へ移しました」


「神殿は?」


「私の授業を神託として、全神殿へ同時配信します」


「魔界は?」


「魔王が教師になったと聞き、魔族の入学希望者が十三万人を超えた」


「桁が違う!」


「勇者連合は?」


「全員、剣術科へ入れたい」


「作らない」


「竜族は?」


「お昼寝科」


「もっと作らない」


「商業連盟は?」


「学園都市化計画を発表しました」


「いつの間に!」


「影の国は?」


 俺はノアを見る。


「全員、もういる」


「どこに?」


「影」


 居間の影が少しだけ揺れた。


 腕輪によってノア本人は影へ入れない。


 だが、部下までは制限されていないらしい。


「国家権力は禁止だろう」


「呼んでない」


「では、どうしている」


「勝手に来た」


 影の中から、小さな声がした。


「女王陛下の初授業を記録するため、我々の意思で参りました」


「帰れ」


「承知しました」


 影が静かになる。


「素直だな」


「先生の命令だから」


 ノアが少し誇らしげに言う。


「お前の命令では帰らないのか?」


「少し迷う」


「組織として問題があるぞ」


     ◇


「学校は作らない」


 俺は、もう一度はっきり言った。


 七人。


 アステラ。


 アルベルト。


 レオ。


 リタ。


 フィオナ。


 全員が俺を見る。


「では」


 フィオナが口元へ笑みを浮かべる。


「八百四十二世界から、一名ずつ弟子を選ぶ継承条件はどうするの?」


「別の方法を探す」


『現在も調査中です』


 家が答える。


『ただし、継承式までに八百四十二名との信頼関係を構築する方法として、教育機関の設立が最も効率的です』


「また効率か」


『一人ずつ三時間の儀礼を行う場合、最短で百五日です』


「聞いた」


『共同生活を通じて信頼を得る場合、八百四十二名を旦那様の家へ――』


「絶対に入れるな」


『教育機関であれば、集団で教えを伝えられます』


「教える内容なんてない」


 アルベルトが目を見開く。


「ございます!」


「朝から大声を出すな」


「相手の話を聞くこと!」


「ああ」


「弱い者を傷つけないこと!」


「ああ」


「困っている者を助けること!」


「自分のできる範囲でな」


「罰する前に、一晩眠ること!」


「俺は酒を飲んで寝ろと教えた覚えはないぞ」


「記録には、怒った時は腹を満たして寝ろ、と」


「七人が子供だったからだ」


「八百四十二世界も、一度眠れば戦争を避けられるかもしれません」


「規模が大きいな」


「師匠の教えは、世界を救います!」


「大げさだ」


 アルベルトの目は真剣だった。


 七人も、俺を見ている。


「先生」


 セレスが一歩前へ出た。


「私たち七人は、先生の教えによって救われました」


「お前たちは自分で変わったんだ」


「変わるきっかけをくださったのは、先生です」


「俺がしたのは、食事を与えて、話を聞いたくらいだ」


「それを必要としている者が、八百四十二世界にもおります」


 ミレイユが静かに続ける。


「昨日の留学生の中には、ご自分の意思で生き方を選べなかった方が大勢いました」


「そうだな」


「三百年も戦争を続けている世界もあります」


 リリスが腕を組む。


「力を使わず争いを止める方法を、私はまだ知らぬ」


「お前も学ぶ側だろう」


「だから教えながら学ぶ」


 リリスは真顔だった。


 意外とまともなことを言う。


「先生」


 エリナが木剣を持ち上げる。


「剣を教えるだけでは駄目?」


「相手が望むならいい」


「でも、剣を持つ前に、何のために振るか考えさせる」


「それなら悪くない」


 エリナが嬉しそうに木剣を抱える。


「お昼寝も大事」


 アウラが言った。


「授業にはしない」


「怒っている時に寝る」


「そういう意味なら必要かもしれない」


「お昼寝科」


「生活科の一部だ」


「分かった」


 アウラは少し不満そうだ。


「先生」


 クロエが事業計画書を閉じる。


「教育を受ける機会を、金額によって制限するつもりはございません」


「珍しいな」


「先生のお名前を使う以上、誰でも学べる場所にすべきです」


「入学料は?」


「無料です」


「本当に?」


「教材、制服、食事、宿泊、特別講義、先生との記念撮影は有料です」


「途中から商売になっている!」


「基本教育は無料です」


「記念撮影を項目へ入れるな」


「すでに予約が二万件」


「一件も受けるな!」


 ノアが俺の袖を掴んだ。


「先生」


「何だ」


「人が多いのは嫌」


「正直だな」


「でも」


 ノアは少し迷う。


「名前がない子や、帰る場所がない子がいる」


 昨日、俺がユキと名づけた少女のことだろう。


「そうだな」


「先生一人では、全員と話せない」


「ああ」


「私たちが聞く」


 ノアが残る六人を見る。


「七人で」


 俺は七人を見回した。


 世界を滅ぼすと予言された少女たち。


 俺と出会い。


 十年の時を過ごし。


 今では世界の頂点に立っている。


 その七人が、自分たちと似た者の話を聞こうとしている。


「分かった」


 俺は息を吐いた。


「先生!」


 七人の顔が一斉に明るくなる。


「ただし、学校ではない」


『名称を変更します』


「家は黙っていろ」


「三十日間だけ」


 俺は続けた。


「八百四十二世界の代表者へ、俺が七人へ教えたことを伝える。継承式のための、期間限定の講習会だ」


「講習会」


 セレスが繰り返す。


「ああ。学園長もいない。教師も生徒もいない」


「では、先生は?」


「案内役だ」


「私たちは?」


「手伝いだ」


「手伝い」


 ミレイユの顔が少し曇る。


「先生と同じ職場では?」


「同じ場所にはいる」


 七人の表情が戻った。


「十分です」


「単純だな」


『期間限定教育施設として登録しました』


「登録するなとは言わない。だが、名称は普通にしろ」


『承知しました』


 壁へ文字が表示される。


『八百四十二世界合同・期間限定更生講習会』


「更生は外せ」


『八百四十二世界合同・期間限定相互理解講習会』


「それでいい」


『略称、レオン学園』


「略すな!」


     ◇


 その日の午後。


 俺は地下都市中央広場の壇上に立っていた。


 目の前には、八百四十二世界から来た代表者たち。


 王妃候補から留学生になった女性たちだけではない。


 聖騎士王アルベルトの呼びかけに応じ、男性代表者も続々と集まっている。


 人間。


 魔族。


 獣人。


 機械。


 精霊。


 巨人。


 妖精。


 水の中でしか生きられない者は、大きな水槽からこちらを見ている。


 光だけの存在は、空中へ浮かんでいた。


 さまざまな世界。


 さまざまな種族。


 広場へ入りきらない者たちは、家が用意した映像装置を通じて見ている。


「多いな」


『現在の参加者は三千六百八十一名です』


「講習会は代表者だけではなかったのか?」


『見学希望者を含みます』


「帰せとは言わないが、増やすなよ」


『すでに受付を終了しました』


「珍しくまともだ」


『会場の収容上限へ達したためです』


「もっと入れようとしていたのか」


 壇上の後ろには、七人が並んでいる。


 セレス。


 ミレイユ。


 リリス。


 エリナ。


 アウラ。


 クロエ。


 ノア。


 さらにアステラ。


 アルベルト。


 レオ。


 フィオナ。


 リタ。


 どう見ても、期間限定講習会の規模ではない。


 壇上の正面には、大きな横幕が掲げられていた。


『第一回 レオン・アルヴェイン先生による八百四十二世界合同始業式』


「始業式ではない!」


 俺の声が広場へ響いた。


 三千人を超える参加者が、一斉に頭を下げる。


「学園長先生、ご挨拶を!」


 誰かが叫んだ。


「学園長ではない!」


「謙虚なる学園長!」


「権威を求めぬ大導師!」


「七冠王国初代学園長!」


「虚無王学園長!」


「肩書を増やすな!」


 歓声が上がる。


 俺が否定するほど、謙虚さとして受け取られる。


 七冠王国の国王と同じだ。


「先生」


 セレスが後ろから小声で言う。


「皆様、お待ちです」


「何を話せばいい」


「先生が、私たちへ教えてくださったことを」


「短く終わらせるぞ」


「はい」


 俺は壇上の前へ進んだ。


 広場が静かになる。


「俺は、立派な教師ではない」


 参加者たちが真剣に俺を見る。


「国を治めたこともない」


 七冠王国の住民たちが少しざわめいた。


「虚無の王になりたいわけでもない」


 異世界代表者たちが顔を見合わせる。


「誰かを従わせるような教えも持っていない」


 アルベルトが、感動したように拳を握った。


「ただ」


 俺は一度、後ろの七人を見る。


「昔、行き場のない七人の子供と暮らした」


 七人の表情が柔らかくなる。


「その時に、何度も同じことを言った」


 俺は参加者たちへ向き直る。


「腹が立った時ほど、相手の話を聞け」


 広場の壁へ文字が浮かぶ。


『第一学則――相手の話を聞く』


「学則ではない」


『記録します』


「弱い者を、自分の力を示すために傷つけるな」


『第二学則――弱者を傷つけない』


「悪いことを見つけても、自分だけで裁こうとするな」


 エリナとリリスが少し気まずそうに目を逸らす。


『第三学則――私刑の禁止』


「助けを求められたら、できる範囲で助けろ」


『第四学則――相互扶助』


「できないことまで、一人で背負うな」


 七人全員が俺を見る。


「お前たちへ言っているからな」


「はい、先生」


 七人が声を揃えた。


『第五学則――過剰な自己犠牲の禁止』


「最後に」


 俺は広場全体を見渡した。


「誰かを助ける前に、その相手が本当に何を望んでいるか聞け」


 昨日まで王妃候補だった者たちが、静かに俺を見つめる。


「善意でも、望んでいないことを押しつければ、その者を苦しめることがある」


 七人の表情が、少しだけ固くなった。


「お前たちへも言っている」


「はい」


 返事は先ほどより小さかった。


『第六学則――善意を押しつけない』


「以上だ」


 俺は壇上から下りようとした。


「先生!」


 アルベルトが止める。


「何だ?」


「第七の教えは?」


「六つで終わりだ」


「七人の愛弟子がいらっしゃるのです。七つ必要では?」


「数を合わせる必要はない」


 参加者たちの間からも声が上がる。


「第七学則を!」


「七つ目の教えを!」


「虚無王の最後の教えを!」


「勝手に盛り上がるな!」


 帰れそうにない。


 俺は少し考えた。


「……疲れた時は、飯を食って寝ろ」


 広場が静まり返る。


『第七学則――十分な食事と睡眠』


 次の瞬間。


 大歓声が上がった。


「なんと慈悲深い教え!」


「休息を認めてくださった!」


「我が世界では睡眠は怠惰とされていた!」


「一日十八時間働かされる工房へ伝えます!」


「戦争中でも食事休憩を!」


「最後だけ妙に支持が高いな」


 アウラが胸を張る。


「お昼寝科、必要」


「生活指導としては必要かもしれない」


「作る?」


「学科にはしない」


 俺が壇上を下りる。


 七人が近づいてきた。


「先生」


 ミレイユが微笑む。


「素晴らしいお話でした」


「昔から、お前たちへ言っていたことだけだ」


「だからこそです」


「これで講習会は終わりか?」


『これより、第一講義を開始します』


「今のが講義では?」


『開会挨拶です』


「帰って寝たい」


『第七学則に基づき、終了後に休養時間を確保します』


「終了は何時だ」


『予定では二十二時です』


「今は十四時だぞ!」


     ◇


 第一講義。


 相手の話を聞く。


 簡単に見える。


 だが、七人が最も苦手としていることでもある。


「二人一組になってくれ」


 参加者たちが動き始める。


 体の大きさが違いすぎる者もいる。


 巨人と妖精が組んだところは、妖精が巨人の肩へ乗った。


 水中種族は水槽同士を並べる。


 機械種族は通信回線を繋ごうとしたため、俺が止めた。


「会話で聞け」


「音声効率は、直接通信より六十七パーセント低下します」


 A―七七一九が答える。


「効率を下げることが目的だ」


「理解不能です」


「相手が言葉を選ぶ時間。表情。声の調子。それも含めて聞く」


「新規情報として記録します」


 A―七七一九の相手は、戦争世界のガルナだった。


 四本腕の戦士。


 昨日の面談で、敵は悪だから倒すと話していた女性だ。


「三分間、一人が話す」


 俺は参加者全体へ説明する。


「もう一人は、途中で口を挟まない」


「反論も?」


 ガルナが尋ねる。


「しない」


「相手が間違っていても?」


「三分待て」


「三分も?」


「戦争を三百年続けるより短い」


 ガルナが黙った。


「話し終わったら、聞いた側が内容を自分の言葉で繰り返す」


「敵の主張を?」


「まず理解する。納得するかは、その後だ」


「難しい」


「だから練習する」


 参加者たちは、それぞれ話し始めた。


 最初は静かだった。


 十秒後。


「あの世界は、我々の水を盗んだ!」


「違う! そちらが先に河川を――」


「途中で口を挟むな!」


 別の場所。


「機械に心などない!」


「訂正。感情模倣機能は――」


「今は聞く番だ!」


 さらに別の場所。


「我が種族では、相手の頭を噛むことが敬意で――」


「噛むな!」


 広場は、すぐに騒がしくなった。


「先生」


 セレスが俺の隣へ来る。


「これを三千人全員へ行うのですか?」


「難しそうだな」


「帝国軍を使えば、整列と静粛を」


「国家権力は禁止」


「では、普通の女性として大声を」


 セレスが息を吸う。


「待て」


「はい?」


「女帝の威圧を使うつもりだろう」


「声が少し大きいだけです」


「俺がやる」


 俺は壇上へ上がり、机を一度叩いた。


 大きな音が広場へ響く。


「全員、話すことより先に聞け!」


 広場が静かになる。


「うまくできなくていい。一度で変わるとも思っていない」


 参加者たちを見る。


「今まで聞かなかった相手の話を、一つだけ覚えて帰れ。それで十分だ」


 再び、会話が始まる。


 先ほどよりは静かだ。


「先生」


 セレスが俺を見上げる。


「私たちにも必要な練習でしょうか」


「必要だな」


 七人が固まった。


「誰と組むのですか?」


 ミレイユが尋ねる。


「七人だから、一人余る」


「アステラを入れれば八人」


「私も?」


 アステラが自分を指さす。


「共同生活の参加者だろう」


「レオンと組みたい」


「俺は全体を見る」


「では、家」


『私は建物です』


「話せるでしょう?」


『可能です』


「家を入れれば九人だ」


「レオも」


 リタが言う。


「俺を巻き込むな」


「フィオナお母さんも」


「私は見物がいいわ」


「リタも」


「私は、お父さんと組みたいです」


「人数が増え続けるから、七人とアステラだけでやれ」


 俺は組み合わせを考える。


「セレスとリリス」


「どうして私と魔王なのですか?」


「よく意見がぶつかるからだ」


「私は構わぬ」


 リリスが腕を組む。


「セレスが話を聞けるなら」


「その言葉、そのままお返しします」


 すでに喧嘩が始まりそうだ。


「ミレイユとエリナ」


「剣の話なら」


「話す内容は自由だ」


「私は神の教えについて」


「眠くなる」


「聞く前から決めつけないでください」


「アウラとクロエ」


「お肉」


「食費の話になりそうですね」


「一日銀貨一枚は少ない」


「議題が決まったな」


「ノアとアステラ」


 二人が俺を見る。


「先生の話をする」


 ノア。


「レオンの虚無での寝言を教えるわ」


 アステラ。


「話題を変えろ」


「では、先生の家での寝言」


「交換会ではない!」


 俺は七人とアステラを、四組へ分けた。


「まず、セレスが三分話す」


「内容は?」


「リリスへ伝えたいことなら何でもいい」


 セレスはリリスを見る。


「では」


 少し考える。


「先生の墓へ、毒のある花を供えるのはやめてください」


「魔族には毒ではない」


「人間が触れると、三日間手が腫れます」


「先生なら平気だ」


「墓参りへ来るのは先生だけではありません」


「弱い人間が触らなければよい」


「注意書きを置いていなかったでしょう」


「花に近づけば、魔力で分かる」


「一般人は分かりません」


「セレス」


 俺が止める。


「今は三分間、自分の気持ちを話す時間だ。議論は後」


「失礼しました」


 セレスは息を整える。


「私は」


 改めてリリスを見る。


「先生の墓へ供える花を、毎年あなたが最初に決めることが嫌でした」


 リリスの眉が動く。


 だが、口を挟まない。


「帝国から運んだ花もありました。先生がお好きだった、白い野花です」


 セレスの声が少しだけ柔らかくなる。


「けれど、私が到着する前に、墓前は魔界の花で埋め尽くされていました」


「……」


「先生がいなくなった後、私たちが全員集まれる場所は、あの墓だけでした」


 周囲が少し静かになる。


「私は、最初に着きたかったのです」


「なぜ?」


 リリスが尋ねかける。


「まだ聞く時間だ」


 俺が言う。


 リリスは口を閉じた。


「先生がいない十年の間」


 セレスは続ける。


「一番に墓へ着けば、少しだけ先生を独占できると思いました」


 リリスの翼がわずかに下がる。


「ですが、毎年あなたが先にいました」


 三分が終わる。


「リリス」


「セレスの話を、自分の言葉で繰り返せ」


 リリスは難しい顔をした。


「私の花が邪魔だった」


「それだけか?」


「先生の墓を、私が先に独占していたことが嫌だった」


「続けろ」


「セレスも、先生と二人になりたかった」


 セレスは少し驚いたようにリリスを見る。


「合っているか?」


「……はい」


「今度はリリスだ」


 リリスは腕を組んだまま、しばらく黙った。


「私は」


 黒い翼を小さく畳む。


「毎年、夜中に墓へ行った」


「どうしてですか?」


「今は聞くだけだ」


 セレスが口を閉じる。


「昼は、人間が多い」


 リリスが続ける。


「魔王が先生の墓前で泣いている姿を見られたくなかった」


 セレスの目が少し見開かれた。


「魔界の花は、夜にだけ咲く」


「……」


「先生は昔、きれいだと言った」


「ああ。覚えている」


「だから持っていった」


 リリスは視線を落とす。


「セレスより先に行きたかったわけではない」


「では、どうして朝まで?」


「帰る場所がなかった」


「魔王城があるでしょう」


 セレスが言いかける。


 俺が見ると、口を閉じた。


「先生の家には、ほかの六人がいた」


 リリスは続ける。


「魔王城には部下がいる」


「でも、先生のいない場所で一人になりたくなかった」


 翼がわずかに震える。


「だから墓にいた」


 三分が終わった。


「セレス」


 俺が呼ぶ。


「リリスの話を繰り返せ」


「リリスは」


 セレスはゆっくり答える。


「私より先に先生を独占したかったわけではありません」


「うむ」


「人前で泣く姿を見られたくなかった」


「うむ」


「先生がお好きだった花を供え、帰る場所がないから、朝まで墓前にいた」


「……うむ」


 セレスは少し黙る。


「知りませんでした」


「言っていない」


「私は毎年、あなたが私へ見せつけるため、先に花を供えているのだと思っていました」


「私は、セレスが朝に来るのを待っていた」


「なぜ?」


「一人で帰るより、喧嘩しながら帰るほうがましだった」


 セレスの表情が止まる。


「それは、三分の話に含まれていません」


「今答えた」


「先に言ってください」


「聞かなかった」


「聞ける状況ではなかったでしょう!」


「花を燃やそうとしたのはセレスだ」


「あの花は毒が!」


「待て」


 俺が二人の間へ入る。


「また元へ戻っているぞ」


 二人が黙った。


「だが、互いに知らなかったことが一つ分かった」


「はい」


「うむ」


「それで十分だ」


 セレスとリリスは互いを見る。


「来年」


 セレスが言った。


「墓参りをする必要はありません」


「先生が帰ったからな」


「ですが、あの場所は残します」


「うむ」


「白い野花と、魔界の花を半分ずつ植えます」


 リリスは少し考えた。


「毒が出ない結界を張る」


「国家権力と魔法は、三十日後であれば」


「今は普通に鉢を分ける」


「それでよいでしょう」


 初めて。


 二人の話が、喧嘩にならずまとまった。


「先生」


 セレスが俺を見る。


「今のは、合格でしょうか」


「講習会に合格はない」


「再更生教育としては?」


「少し前進だ」


「頭を撫でていただけますか?」


「女性として見てほしいのでは?」


「リリスだけ撫でて、私を撫でないのは不公平です」


「今日はリリスも撫でていない」


「では、二人まとめて」


「話が戻っているぞ」


     ◇


 ほかの三組も、簡単には進まなかった。


 ミレイユは、エリナへ。


「神殿の重要な儀式当日に、魔物討伐へ行くのはやめてください」


 と話した。


 エリナは。


「ミレイユは、助けを求める人より儀式を選んだと思っていた」


 と答えた。


 実際には。


 ミレイユも儀式を途中で放り出し、別の道から魔物討伐へ向かっていた。


 二人は別々の方向から同じ村へ到着し。


 エリナが魔物を倒し。


 ミレイユが負傷者を治療した。


 その後、互いに何も言わず帰ったため。


 十年間、相手が自分の役割を放棄したと思い込んでいた。


「同じ村へ行っていたなら、話せばよかっただろう」


「エリナが先に帰りました」


「ミレイユが神殿へ戻ったと思った」


「お前たち、よく十年も世界を守れたな」


「先生がいなかったので、連絡が難しかった」


「俺は伝言板ではない」


 アウラとクロエは。


 一日の食費について話した。


「お肉を少なくするのは嫌」


「予算には限界があります」


「クロエはお金持ち」


「個人資産と家計は別です」


「先生がお腹いっぱいにならない」


「先生は牛一頭を食べません」


「私は食べる」


「あなたの食費だけで、一日銀貨一枚を超えます」


「では狩る」


「地下都市内で狩りは禁止です」


「外で狩る」


「先生との時間が減ります」


「それは嫌」


「でしたら、野菜も食べてください」


「お肉と一緒なら」


「交渉成立です」


「先生」


 アウラが俺を見る。


「明日から、お肉九、野菜一」


「逆にしろとは言わない。肉六、野菜四だ」


「七と三」


「六と四」


「六半と三半」


「細かいな」


「交渉」


「分かった」


 クロエが満足そうに記録した。


「食費は?」


「竜区画の狩猟計画を整備し、アウラ自身に食料を確保してもらいます」


「国家権力では?」


「自分で狩るだけなら、個人労働です」


「よし」


 最後。


 ノアとアステラ。


 二人は椅子へ座り、互いを見ていた。


 三分。


 誰も話さない。


「どちらか話せ」


「アステラから」


 ノア。


「ノアから」


 アステラ。


「じゃんけんをしろ」


 二人が手を出す。


 ノアは、アステラの手を見てから変えた。


「後出しだ」


「影の技術」


「じゃんけんに使うな」


 結局、アステラから話すことになった。


「私は」


 アステラがノアを見る。


「あなたが少し怖い」


「私が?」


「気づくと後ろにいるから」


「アステラも、気づくと先生に抱きついてる」


「今は私の時間」


「聞くだけ」


 ノアが口を閉じる。


「私は三か月、レオンと虚無にいた」


 アステラは続ける。


「でも、レオンは毎日、七人の話をしていた」


 ノアの目が少し動く。


「その中で、一番名前が出たのはノアだった」


「私?」


「セレスは皇帝になるだろう。ミレイユは神殿で必要とされる。リリスは魔界へ戻る。エリナは勇者として戦う。アウラは竜族がいる。クロエは商売を続ける」


 アステラはノアを真っすぐ見る。


「でも、ノアだけは一人になるかもしれない、と心配していた」


 ノアが俺を見る。


「先生」


「今はアステラを見ろ」


 ノアはゆっくり視線を戻した。


「レオンが一番帰りたがっていたのは、あなたのところだった」


「……」


「少し羨ましかった」


「どうして?」


「私はレオンを助けた。でも、レオンが帰りたい場所は、私ではなかった」


 三分が終わる。


「ノア」


「アステラは」


 ノアがゆっくり答える。


「先生と三か月一緒だったけど、先生は七人の話ばかりしていた」


「そう」


「先生は、私が一人になることを一番心配していた」


「そう」


「アステラは、先生を助けたのに、先生の帰る場所になれなくて寂しかった」


 アステラの銀と黒の瞳が、少し揺れた。


「合っているわ」


「今度はノアだ」


「私は」


 ノアは少し黙った。


「アステラが嫌」


「正直ね」


「先生の魂にいる」


「うん」


「私が入れない場所」


「魂には、普通入れないわ」


「羨ましい」


 アステラが驚く。


「あなたも?」


「先生が寝ても、離れない」


「核だから」


「私は天井裏」


「十分近いと思うけれど」


「でも、先生が遠くへ行ったら残る」


 ノアは俺の服を掴もうとして。


 今は話す時間だと思い直したのか、手を膝へ戻した。


「十年前」


「朝、先生がいなかった」


 小さな声だった。


「家中を探した」


「誰もいなかった」


「先生の匂いを追ったけど、虚無門で消えていた」


「それから」


 ノアは自分の手を見る。


「先生が眠る時、近くにいないと不安」


「また朝、消えるかもしれない」


 三分が終わる。


 アステラは、すぐに話さなかった。


「繰り返してみろ」


「ノアは、私がレオンの魂にいることが羨ましい」


「うん」


「十年前、朝起きた時にレオンが消えていた」


「うん」


「だから、眠っているレオンの近くにいないと、またいなくなる気がして怖い」


 ノアが小さく頷いた。


「合ってる」


 アステラは少し考えた。


「では、今夜から私がレオンの魂で見張るわ」


「何を?」


「レオンが虚無へ落ちないように」


「本当に?」


「核がある限り、分かる」


「先生が消えそうなら?」


「あなたを起こす」


「先に私?」


「七人の中で一番早く動けるでしょう?」


「今は影に入れない」


「腕輪が外れた後」


「約束」


「ええ」


 ノアはアステラへ小指を出した。


「何?」


「約束」


「人間は、こうするの?」


「先生が教えた」


「では」


 アステラが小指を絡める。


 ノアとアステラ。


 昨日まで、俺を巡る敵同士のようだった二人が。


 一つの約束を交わした。


「悪くないな」


 俺が呟く。


 二人が同時に俺を見る。


「先生」


「レオン」


「今夜は二人で先生を見張る」


「どうしてそうなる!」


「約束」


 ノア。


「魂と天井から」


 アステラ。


「俺は逃げない!」


「十年前も言わずに行った」


「時間がなかった」


「言い訳」


「今日は普通に寝させてくれ!」


     ◇


 最初の講義が終わった。


 参加者たちは、それぞれ相手から聞いた内容を紙へ書いている。


 ガルナは、A―七七一九の前へ座ったままだった。


「どうだった」


 俺が尋ねる。


「機械にも、戦争を望まない理由があると知った」


「どんな理由だ」


「部品が足りなくなる」


「感情ではないんだな」


「だが」


 ガルナは少し笑う。


「自分の世界の子供型機械が、戦場へ送られるのは非効率だと言った」


 A―七七一九が訂正する。


「幼年機体の損失は、将来生産性を低下させます」


「それを嫌だと言うのではないか?」


 俺が尋ねる。


「嫌」


 A―七七一九の瞳が点滅する。


「未登録感情です」


「では、三十日で名前を考えればいい」


「自己名と、感情名」


「ああ」


「処理負荷が高いです」


 また頭から煙が出た。


「急がなくていい」


「先生」


 ガルナが俺を見る。


「私の世界の敵とも、この方法を試してよいか?」


「もちろんだ」


「話を聞いても、敵が攻めてきたら?」


「守れ」


「倒していいか?」


「必要な範囲でな。相手が降伏したら止めろ」


「難しい」


「だから考え続けるんだ」


 ガルナは大きく頷いた。


 たった一度。


 三分ずつ話しただけだ。


 三百年の戦争が、これだけで終わるとは思わない。


 だが。


 敵にも話があると知った。


 それだけでも、最初の一歩にはなる。


『第一講義を終了します』


 家の声が広場へ響く。


 参加者たちから拍手が起きた。


 俺は少し照れくさくなり、壇上を下りようとする。


『続いて、教員評価を発表します』


「教員はいない」


 七人が一斉に姿勢を正した。


「評価は必要です」


 セレス。


「次へ活かします」


 ミレイユ。


「私はうまく教えた」


 リリス。


「私も」


 残る四人も前へ出る。


「お前たち、評価される気だったのか?」


『女帝セレスと魔王リリス』


 二人が緊張する。


『相互理解、良好』


「はい」


『途中で過去の喧嘩を再開しかけたため、要改善』


「先生が止めましたので問題ありません」


「止められる前に自分で止まれ」


『聖女ミレイユと勇者エリナ』


『誤解の解消を確認』


 二人が少し笑う。


『ただし、講義終了後の模擬戦予定を勝手に設定しました』


「会話の後は、体で分かり合う」


「取り消せ」


『竜王アウラと商業王クロエ』


『食費問題に合意』


「お肉六半」


「野菜三半です」


「野菜を残すなよ」


「先生が食べさせて」


「自分で食べろ」


『影の女王ノアとアステラ様』


『嫉妬制御と協力関係に、大きな改善を確認』


 二人が小指を繋いだまま頷く。


「ただし、俺を共同で監視する計画は取り消せ」


「見守るだけ」


「監視と同じだ」


『総合評価』


 七人とアステラが俺を見る。


『全員、不合格』


「どうしてですか!」


 セレスが叫んだ。


『参加者へ教える前に、自ら第六学則に違反しております』


「第六?」


 壁に表示される。


『善意を押しつけない』


 七人が黙った。


『女帝セレスは、旦那様の許可なく帝国執務室を地下へ移設』


「先生の近くで仕事をするためです」


『聖女ミレイユは、神殿へ人工月の作成を要求』


「薬草のためです」


『魔王リリスは、魔界区画へ旦那様専用寝室を設置』


「帰る場所が必要だ」


『勇者エリナは、旦那様の同意なく修行予定を一年分作成』


「健康のため」


『竜王アウラは、旦那様の食事へ牛一頭分の肉を用意』


「たくさん食べてほしい」


『商業王クロエは、旦那様の肖像入り入学願書を販売』


「収益は教育へ還元します」


『影の女王ノアは、旦那様の寝室天井裏を自室として登録』


「昔から」


『アステラ様は、旦那様の同意なく婚約者を名乗り続けています』


「契約上は本当!」


『全員、旦那様が望んでいるか確認しておりません』


 八人が俺を見る。


「……確かに」


 俺は頷いた。


「家が正しい」


「先生まで」


 セレスの顔が曇る。


「悪気がないことは分かっている」


「はい」


「だが、善意で何かをする前に、一度聞いてくれ」


「先生」


 クロエが手を上げる。


「入学願書の販売を中止すべきでしょうか」


「俺の肖像を外せ」


「販売自体は?」


「必要な者へ、原価で配れ」


「利益は?」


「教材費なら別で考える」


「承知しました」


 ミレイユも手を上げる。


「人工月は必要でしょうか」


「薬草園の管理者と相談しろ」


「先生が必要とおっしゃれば」


「俺ではなく、使う者へ聞け」


「……はい」


 七人が、少しずつ頷く。


『教員不合格者への処置を発表します』


「処置?」


『明日より、八名を生徒として登録します』


「生徒?」


 七人の表情が固まる。


『担当教師、レオン・アルヴェイン』


「俺か!」


『八名が第六学則を実践できるまで、教員権限を停止します』


 七人の手元から、教員用の資料が回収される。


 代わりに。


 家の床から、八着の服が現れた。


 白い上着。


 紺色の短い外套。


 胸には、小さく七冠王国の印。


 どう見ても。


 学生服だった。


「家」


 セレスが服を持ち上げる。


「これは?」


『女子生徒用制服です』


「私は帝国皇帝です」


『現在は生徒です』


「私は最高位聖女です」


『生徒です』


「魔王だぞ」


『生徒です』


「勇者」


『生徒です』


「竜王」


『生徒です』


「商業王」


『生徒です』


「影の女王」


『生徒です』


「私は虚無の旧管理者よ!」


『生徒です』


 八人が一斉に俺を見る。


「先生」


 セレスが制服を胸へ抱いた。


「明日から、この服を着て先生の授業を?」


「ああ」


 セレスの頬が、少しずつ赤くなる。


「先生と生徒」


「昔と同じだな」


「二人きりの補習はございますか?」


「全員まとめてだ」


「放課後は?」


「講習が終わったら夕食だ」


「先生と帰宅?」


「同じ家だからな」


 セレスの目が輝く。


 残る七人も、制服を手に取った。


「悪くない」


 リリス。


「先生の生徒に戻れる」


 エリナ。


「制服、食べられる?」


 アウラ。


「食べるな」


「制服事業を――」


「始めるな、クロエ」


「先生の隣の席」


 ノア。


「席順は抽選だ」


「私はレオンの後ろ」


 アステラ。


「俺は教師だ」


 八人は、不合格に落ち込むどころか。


 十年前へ戻れることを喜んでいた。


『なお』


 家の声が続く。


『婚姻申請者が生徒となったため、在学中の婚姻手続きを一時停止します』


 八人の動きが止まった。


「何ですって?」


 セレスの声が低くなる。


『卒業するまで、婚姻申請は保留されます』


「卒業条件は?」


『善意を押しつけず、旦那様の意思を尊重できること』


「家」


 八人が壁へ詰め寄る。


『私は規則に従っております』


「先生!」


 七人とアステラが俺を見る。


「卒業試験を、今すぐ行ってください!」


「入学前だろう!」


「私は先生の意思を尊重できます!」


 セレスが俺の腕を掴む。


「では、今すぐ離してくれ」


「それとこれとは別です!」


「不合格だ!」


 世界を滅ぼす七人の悪女と。


 虚無から来た婚約者。


 八人は。


 俺の妻になるため。


 まず、俺の生徒として卒業しなければならなくなった。


 そして壁には。


 早くも明日の時間割が表示されていた。


『一時間目――先生の話を最後まで聞く』


『二時間目――勝手に先生の予定を決めない』


『三時間目――先生が断った時は諦める』


 八人の顔色が、時間割を読むたびに悪くなる。


『四時間目――先生を一人で休ませる』


「家」


 セレスが震える声で尋ねる。


「四時間目だけ、変更できませんか?」


『できません』


「先生を、一人で?」


『はい』


「同じ部屋の端で待つことは?」


『不合格です』


「扉の外は?」


『不合格です』


「窓の外?」


『不合格です』


「影の中?」


『不合格です』


「魂の中は?」


 アステラ。


『アステラ様の核は生命維持上必要なため、例外です。ただし、話しかけることは禁止します』


「先生」


 ノアが俺の服を掴んだ。


「アステラだけずるい」


「核だから仕方ない」


「私も魂に入る」


「絶対にやめろ」


『第五時間目』


「まだあるのか」


『旦那様がほかの女性と会話している間、笑顔で見守る』


 八人が固まる。


『実習相手――八百四十二世界の留学生』


「家!」


 八人の叫びが、地下都市全体へ響いた。


 期間限定講習会の初日。


 生徒へ教えるはずだった七人は。


 自分たちが俺の生徒へ戻され。


 しかも。


 世界で最も苦手な授業ばかりを受けることになった。


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