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第7話 愛人付きの使者

王都からの使者は、昼食の列が一番長い時間を狙ったように現れた。


 磨き上げられた靴、余計に香る香油、そして見覚えのある侯爵家の紋章入りの封筒。食堂の入口に立っただけで場違いだと分かる男だった。


「ミレイユ様に、レナード侯爵より急ぎのお手紙です」


 私は配膳をマルタへ任せ、封を切る。


 文面は、予想通りだった。


『感情的な家出は終わりにしろ。セリーヌは侯爵家の仕事に不慣れで、屋敷が混乱している。妻として戻り、職務を果たせ。素直に帰れば今回の無礼は不問とする』


 謝罪は一言もない。代わりに命令だけが並んでいる。


「団長、火鉢はどこにありますか」


 私が尋ねると、ヴィクトルが目だけで笑った。


「燃やす前に返事を書いたほうが効く」


 その通りだった。


 私は厨房の隅の机に腰を下ろし、短く返答を書く。


『私はもうあなたの家計係でも、愛人の下働きでもありません。今後の連絡は弁護士を通してください。離縁手続きを進めます』


 それだけで十分だ。


 使者が青ざめた顔で紙を受け取る。


「こ、侯爵にこのまま?」


「そのままで結構です。読みやすくして差し上げたのだから、感謝してほしいくらい」


 男が退散すると、周囲から小さな拍手が起きた。マルタなど露骨ににやついている。


「すっきりした顔してるよ、ミレイユさん」


「ええ。塩樽一つぶんくらいは」


 私が答えると、兵たちが笑った。


 ヴィクトルは昼食の盆を受け取りながら、低く言う。


「戻りたくなったら止めない」


「戻りません」


「なら、それでいい」


 それだけだった。慰めでも同情でもなく、選んだ言葉をそのまま受け止める声。私はその簡潔さに、変な安心を覚えてしまう。


 もう、誰かの許可で去ったり戻ったりするつもりはない。私の行き先は、私が決める。


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