第6話 無骨な団長は朝食を残さない
翌朝から、ヴィクトルは本当に毎日食堂へ来るようになった。
まだ薄暗い時間、私は厨房で麦を煮ながら帳簿を開く。そこへ雪を払った外套姿の団長が現れ、何も言わずに一番奥の席へ座るのだ。
「団長は忙しいでしょうに」
「朝食を取る時間くらいある」
「団長室でも食べられますよ」
「ここで食べたほうが、顔が見える」
誰の顔かは聞かなかった。聞けるほど器用ではない。
その日は麦粥に半熟卵を落とし、焼いた根菜を添えた。高価な食材ではないが、身体が温まる組み合わせだ。ヴィクトルは匙を動かしながら、ふいに言った。
「兵の訓練記録が上がっている」
「食事の量が安定したからでしょう」
「それだけじゃない。皆、次の飯を楽しみにしている顔をしている」
私は肩をすくめた。
「楽しみが一つ増えたなら結構です」
ヴィクトルはそこで手を止め、私を見る。
「あなたは、自分の仕事を軽く言いすぎだ」
まっすぐな灰色の目に見つめられると、胸の奥が妙に落ち着かない。
「侯爵家では、料理も会計も褒められる仕事ではありませんでしたから」
「ここでは違う」
彼はそう言って、皿をきれいに空にした。
「作った者への礼だ。残したくない」
何気ない一言なのに、喉の奥が少し熱くなる。私は慌てて鍋の蓋をずらした。
「では、明日からもちゃんと食べてください。朝食を抜く団長は、改革の敵です」
「分かった。改革の味方として通う」
食堂の隅で聞いていたマルタが、わざとらしく咳払いをした。
「団長、明日も席を空けときますよ」
兵たちの笑いが広がる。ヴィクトルは少しだけ眉をひそめたが、否定はしなかった。
その日から、私の一日は団長の「うまい」で始まるようになった。




