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第5話 消えた塩と増える伝票

食堂が回り始めると、今度は帳簿の歪みが目立ってきた。


 特におかしいのは塩だ。仕入れ伝票では毎週かなりの量を買っているのに、樽の中身はいつも足りない。しかも肉の納品数も、請求書の数字より明らかに少ない。


「この印章、見覚えがあります」


 私は伝票の端を指でなぞった。青い蝋に刻まれた意匠は、見間違えるはずがない。クラウゼン侯爵家の御用商を示す小さな紋章だった。


 レナード。


 あの人は王都の見栄だけでなく、辺境向けの供給にも手を出していたのか。


 倉庫番のブルーノを呼ぶと、彼は見るからに顔色を悪くした。


「届いていない分を、届いたことにしたのね」


「お、俺だけの判断じゃありません」


「でも、あなたは判を押した」


 逃げ場を塞ぐようにヴィクトルが扉の前に立つと、ブルーノは肩を落とした。


「商人が言ったんです。足りないぶんは次回回す、文句を言えば補給そのものを切るって。団長たちは戦続きで、食糧まで止まったら終わりだと思って……」


「脅されて黙った結果、今も終わりかけている」


 私が言うと、ブルーノはうなだれた。


 その夜、ヴィクトルと二人で倉庫を見回ると、奥の棚板の下から空袋がいくつも出てきた。帳簿上は満杯のはずの塩袋だ。誰かが中身だけ抜き、袋だけ戻していたらしい。


「小細工が侯爵家のやり口によく似ている」


 私が呟くと、ヴィクトルの眉間に深い皺が寄った。


「身内が相手でも追えるか」


 私は空袋を握り締める。


 「追います。私はもう、あの家の体面を守る側ではありません」


 ようやく帳簿が、私を守る武器になった。


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