第4話 節約ごはんは士気を上げる
食堂の空気は、三日で変わった。
朝は麦粥に焼き林檎の欠片を混ぜ、昼は骨付き肉の出汁を使い回して濃いスープにする。夜は前日の残りを潰して焼き団子にし、見た目を変える。贅沢ではないが、同じものを食べさせられている感覚は薄れる。
「飯の時間が待ち遠しいなんて、冬以来だ」
そんな声が聞こえ始め、私は内心で拳を握った。
厨房の動きも整ってきた。マルタは最初こそ様子見だったが、今は誰より大きな声で人を回している。倉庫番のブルーノも、私が帳簿の誤魔化しを一つずつ突き返すので、ようやく数字をまともに書くようになった。
ただし、私自身は忙しさにかまけて食事を後回しにしがちだった。
その日も配膳の最後まで立っていると、背後から低い声がした。
「団長命令だ。座れ」
振り返ると、ヴィクトルが木盆を一つ持っていた。私のぶんの粥と、少しだけ多めの燻製肉が乗っている。
「私はあとで」
「あとでは毎回食べ損ねる」
言い返せなかった。
食堂の隅に腰を下ろすと、ヴィクトルも向かいに座る。団長が一緒に食べ始めたことで、兵たちの視線がちらちらとこちらへ集まった。
「団長が食堂で食べるのは珍しいのでは?」
「最近はな」
そう言って、彼は私の作った粥を一口食べた。
「うまい」
「褒め言葉が短いですね」
「長く言う前に食べ終わる」
そのまま本当に、ヴィクトルは皿をきれいに空にした。パンくずひとつ残さない。
「残さないんですね」
「作った者への礼だ」
あまりに真っ直ぐな答えで、私は一瞬だけ言葉を失った。侯爵家では、冷めた料理を丸ごと捨てることも珍しくなかった。食べ物を作る側の手間など、そこでは誰も考えない。
「では、明日も残さないでください」
「毎朝でも来る」
何気ない調子だったのに、その言葉だけが妙に耳に残った。
節約ごはんは腹を満たすだけではない。ちゃんと食べる人がいると、台所は誇りを取り戻す。誇りを取り戻した台所は、もう簡単には死なない。




