第36話 辺境伯家の白い招待状
数日後、真っ白な封筒が砦へ届いた。
差出人はノルトヴァルト辺境伯家。婚約の正式承認と、街道問題に関する評議への招待状だった。侯爵家にいたころなら震えたかもしれないが、今は違う。怖いのは礼法より、曖昧な数字のほうだ。
辺境伯邸で迎えてくれたのは、五十代半ばの辺境伯夫人アルマだった。白髪交じりの髪をきちんと結い上げた、目の涼しい人である。
「ヴィクトルの婚約者というより、給養監督官として会いたかったの」
開口一番それだったので、私は少し好きになった。
評議の席には辺境伯本人、港の代表、監査院のサビーネ、そして街道沿いの村長たちが並んでいた。私はクレッセ男爵領の通行税と港の横流し記録を、順に机へ置いていく。
「問題は金額だけではありません。徴収した費用が橋や倉庫へ回っていないことです」
サビーネが続けた。
「監査院としても、正式な聴聞を開くに足る証拠と判断します」
辺境伯が指を組む。
「婚姻前に、随分大きな仕事を持ち込んだな」
私はまっすぐ答えた。
「婚姻前でも後でも、兵は食べます」
一瞬の静寂のあと、辺境伯夫人アルマがくすりと笑った。
「気に入ったわ」
その場で聴聞の日が定まり、クレッセ男爵家への出頭命令が出た。さらに、婚約も正式に認められる。
帰り際、アルマ夫人が小さく言った。
「花嫁衣装の心配はなさらなくていいわ。あなたは立ち方を知っているもの」
私は礼をした。飾りではなく、立ち方を見てくれる人がいる。その事実が思った以上に心強かった。




