第34話 黒字祭の屋台通り
街道補修の前金を集めるため、私は祭りを開いた。
名付けて黒字祭。あまり上品ではないが、分かりやすい。砦前の広場へ屋台を並べ、街道食堂の看板メニューを全部出す。豆粥、香草塩の焼き魚、燻製肉の挟みパン、余り粉で作る揚げ菓子。働き口の欲しい女たちと御者たちが一緒に鍋を回した。
「祭りって、もっと無駄遣いするものだと思ってた」
エマが笑う。
「これは無駄遣いじゃありません。収支をつける祭りです」
広場は予想以上の賑わいになった。村人、御者、兵、通りがかりの商人まで皿を抱えて列を作る。マルタの怒鳴り声と笑い声が交じり、久しぶりに砦の外まで食堂の匂いが広がった。
夕方、税吏を名乗る男が二人現れた。
「臨時営業税をいただく」
私は笑顔で帳簿を差し出した。
「では、税率と徴収根拠の条文をここへ。ついでに売上も公開しますので、責任者名もお願いします」
男たちはそれだけで顔色を変え、曖昧な言葉を残して逃げていった。噂を流すつもりだったのだろうが、数字を表へ出されるのは嫌らしい。
日が暮れるころ、祭りの利益を締めた私は静かに息を吐く。
「黒字です」
橋の応急補修費に充てても、まだ少し残る。歓声が上がり、クララが泣き笑いになった。
ヴィクトルが私の隣で言う。
「あなたは、本当に人を飢えさせないな」
「空腹の人は、正しい判断ができませんから」
祭りの灯りの向こう、街道はまだぬかるんでいる。けれどもう、そこを直すための金と人と気持ちは揃い始めていた。




