第31話 騎士団式の婚約発表
婚約発表は、砦らしく朝食の最中に行われた。
私は本当はもっと静かに済ませたかったのだが、ヴィクトルは食堂の中央へ立つなり、何の前置きもなく言った。
「給養監督官ミレイユ・クラウゼンと婚約した」
一瞬の静寂のあと、食堂が割れそうなほど沸いた。
「やっとですか!」
「団長、遅い!」
「朝飯がもっと旨くなるな!」
イザークが笑い、マルタが鍋杓子を振り回し、エマは泣きながら拍手している。兵たちの祝福は雑だが、悪意がないぶん気楽だった。
私は照れを押し込み、机へ新しい札を並べる。
「祝ってくださるなら働いてください。今日から街道補給所を三か所へ増やします」
歓声がもう一度上がる。祝いのあとに仕事を振るのはどうかと思ったが、ここではこれが一番早い。
朝食後、王都からの急使が入った。封蝋は監査院、差出人はサビーネだ。
『港湾記録の仮差押え許可を得ました。クレッセ男爵領への立入監査を申請中』
私は息を吐く。追い風が来た。
ヴィクトルが手紙を読み終え、短く言う。
「間に合うな」
「ええ。私たちの婚約披露は、どうやら相手への追悼にはならずに済みそうです」
彼は小さく笑った。
「その言い方は好きだ」
祝福と仕事と追及が、同じ食堂で回っていく。こんな婚約発表も悪くない。私はもう、誰かの陰で祝われる立場ではなく、自分の机を持つ婚約者なのだ。




