第28話 辺境食堂の臨時雇い
街道の問題を片づけるには、荷を流すだけでは足りない。途中で働き、途中で食べさせる場所が要る。
私は食堂の大机へ地図を広げ、マルタ、エマ、クララ、それに荷馬車宿の女将たちを集めた。
「臨時の街道食堂を作ります」
全員の視線が集まる。
「大鍋一つと乾燥豆、塩、硬いパンがあれば、荷車待ちの御者も修繕夫も食べられます。食べられる場所があれば、無駄な足止めの損も減る。働く人には日当を出します」
クララが慎重に尋ねる。
「人は集まるかしら」
「集めるのではなく、もう来ています」
私はエマのほうを見る。侯爵家から流れてきた元使用人、街道宿で季節雇いにあぶれた女たち、騎士の未亡人たち。皆、手を持て余していた。
その日の午後には、砦の厨房で大鍋が二つ増えた。豆と根菜を煮込み、余った燻製肉を刻んで旨味を足す。焼き固めた麦団子を添えれば、運搬中でも食べやすい。
「こんなに人が入る厨房は久しぶりだよ」
マルタが楽しそうに怒鳴り、エマが新しい札を次々と書いていく。誰がどの村の鍋を持ち、何杯出して、残りをどう回すか。数字と匂いが同時に回り始めるのが分かった。
夕方、最初の臨時食堂から戻った御者が言った。
「助かったよ。塩船の件で港足止めが長くてな」
私は振り向く。
「塩船を見たんですか」
「港には着いてる。だが夜のうちに、クレッセ男爵の狩猟小屋の倉へ何台か回されたらしい」
私はヴィクトルと顔を見合わせた。
塩は消えたのではない。横へ流されたのだ。ならば、取り返せる。




