第26話 雨漏り倉庫と毛布の数
翌々日、私は街道沿いの中継倉庫で天井から落ちる水を見上げていた。
「雨が強い日は、ここだけで麦が二袋ぶん駄目になるんです」
案内してくれたのは、中継村の世話役をしている四十代の未亡人クララだった。壁際には湿った毛布と干しかけの包帯。兵の補給だけでなく、村の備えまで同じ倉庫へ押し込まれている。
「帳簿を見せてください」
私が言うと、クララは申し訳なさそうに破れかけたノートを出した。修繕費は毎月計上されている。なのに屋根には穴がある。
「また同じです」
私はため息をつく。数字だけが直され、実物は直っていない。
その場で毛布の数、使える樽、干せる梁の位置を確認し、私はクララとエマへ指示を飛ばした。
「濡れた麦はすぐに薄く広げて乾かす。毛布は兵用と村用を分けて札を付ける。今夜だけでいいから、騎士団から屋根へ上がれる者を二人借ります」
ヴィクトルが無言で外套を脱いだ。
「二人では足りないなら、俺も上がる」
「団長が?」
「屋根は剣より軽い」
その日のうちに応急処置だけは済んだ。完璧ではないが、今夜の雨はしのげる。
夕方、倉庫の数を締めていると、港からの使いが駆け込んできた。
「塩船が入りません! 予定の荷が港で止められています!」
私はすぐに顔を上げた。春市で押さえたはずの塩が、ここで消えるのは出来すぎている。
「港へ行きます」
雨漏りの次は塩か。けれど、荷が消える場所には必ず帳簿の歪みがある。私はむしろ少しだけ、相手の手が見えてきた気がしていた。




