第24話 春市の仕入れ勝負
春市は値段より、タイミングの戦いだった。
雪解け明けの広場には、豆、干し魚、小麦、塩漬け肉、布束、毛布が山のように積まれている。だが、迷っているうちに良い品は全部、声の大きい商人へ持っていかれる。
「三日分まとめて買うなら、銀貨十八枚だよ」
豆商の老婆が腕を組む。私は荷の乾き具合を確かめた。
「袋の下が湿っています。十六枚」
「十七」
「代わりに砦の焼き豆粥を祭りの日に卸します」
老婆の目が細くなる。
「面白い女だね。決まりだ」
その隣ではヴィクトルとイザークが、荷積みの手配と護衛の時間を詰めていた。派手に金を出して勝つのではなく、支払い、運搬、売れ残りの活用までまとめて示す。それが私のやり方だ。
昼前には、小麦粉と干し豆の共同仕入れ分を押さえ、さらに港町の寡婦商人ヨハンナと新しい塩取引の約束まで取りつけた。
「砦は支払いが早いって評判だよ」
ヨハンナが笑う。
「それだけで、あんたに売る理由になる」
支払いが早いだけで評判になる。つまり他がひどすぎるのだ。
帰りの荷車で、ヴィクトルが袋の山を見て言った。
「思ったより安く済んだ」
「目先の値段だけ見なければ、安くできます」
私は指を折る。
「濡れた豆は祭り用に加工、余る麦は乾燥庫へ、塩はヨハンナから直接。途中の関所へ払う分を削れれば、もっと楽になります」
「つまり、まだ勝ち切っていない」
「ええ。これは前菜です」
ヴィクトルの口元がわずかに上がる。
「あなたは戦の言い方まで台所だな」
荷車が砦の門をくぐるころには、春市の仕入れ表はきれいに黒字へ戻っていた。数字が整うと、景色まで少し明るく見える。




