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第2話 辺境騎士団からの手紙

行き先のない女には、宿屋の一室でも十分広く感じる。


 王都外れの小さな宿で、私は熱い白湯を飲みながら手帳を開いていた。これからどう暮らすかを考えるには、まず使える金額と働ける手段を洗い出す必要がある。そうして数字を並べていると、扉が控えめに叩かれた。


「ミレイユ様。お手紙です」


 宿の女将が持ってきた封筒には、狼をかたどった青い封蝋が押されていた。ノルトヴァルト騎士団の紋章だ。


 差出人は、副官イザーク・フェルン。


 彼とは冬の救援物資配分で一度だけ仕事をしたことがある。倉庫の在庫数が合わず、私がその場で帳簿を整えたのを覚えていたらしい。


 手紙には、短くこうあった。


『奥方が家を出られたと聞いた。余計なお世話なら捨ててくれていい。ただ、もし職を探しているなら、ノルトヴァルト騎士団の食糧庫と食堂を見てほしい。今のうちに立て直さないと、兵が春を越せない』


 余計なお世話どころか、今の私にはありがたい話だった。


 さらに末尾に追伸がある。


『団長は無愛想だが、空腹よりはましだ』


 私は思わず吹き出した。


 その日のうちに返事を書き、二日後には北行きの乗合馬車へ乗っていた。王都から離れるほど景色は白くなり、道は荒れる。けれど不思議と気持ちは軽かった。後ろ暗い場所から去る道は、揺れても前へ進む。


 ノルトヴァルト砦へ着いたのは夕刻だった。


 雪解け水でぬかるんだ門前に立っていた男を見た瞬間、この人が団長だと分かった。背が高く、肩幅が広く、黒い外套の下に無駄のない筋肉が見える。灰色の目だけがひどく静かだった。


「ミレイユ・クラウゼン殿か」


「はい」


「ヴィクトル・ハイネだ。ここを預かっている」


 三十五歳の辺境騎士団長。噂通り無骨な声だが、私を値踏みするような嫌らしさはない。


「先に言っておく。貴婦人をもてなす余裕はこの砦にない」


「ちょうどいいです。もてなされに来たわけではありません」


 ヴィクトルの片眉がわずかに上がった。


「では話が早い。案内する」


 通された先は、応接間ではなく食堂だった。


 大鍋の中には水っぽいスープ。硬い黒パン。兵たちの顔には諦めが浮かび、厨房には湿った小麦と古い油の匂いがこびりついている。見ただけで分かった。これは金がないのではなく、流れが悪い。


「三日で逃げ出しても責めない」


 ヴィクトルが言う。


「食糧庫は空に近い。帳簿は半分死んでいる。兵は腹を空かせている」


 私は鍋の中身を一口だけ味見した。塩が足りないのではない。塩そのものが届いていない味だ。


「三日も要りません」


 私は外套を脱ぎ、袖をまくった。


「今夜の夕食から変えます」


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