第15話 王都から来た監査官
その三日後、王都監査院から一人の女性がやって来た。
栗色の髪をきっちり結い上げ、深緑の外套を着たその人は、砦へ入るなり私にまっすぐ歩み寄った。
「監査官サビーネ・クラフトです。帳簿を見せてください」
挨拶より先にそれを言うあたり、私は少し好きになった。
サビーネは三十三歳。数字を見る目が鋭く、余計な情も見栄も持ち込まない。私は侯爵家と砦の帳簿、エマの控え、ブルーノの証言書を順に渡した。
彼女は数頁読むごとに眉をひそめ、やがて小さく息を吐く。
「ひどいですね。これだけ雑に抜いて、今まで表に出なかったのが不思議なくらい」
「侯爵家の名で押さえつけていたのでしょう」
「名は便利ですが、便利すぎると人を雑にします」
サビーネは私の好きな種類の人間だった。
監査は丸一日かかった。夕方には、砦の会議室へヴィクトルとイザークも呼ばれる。
「結論を言います」
サビーネは書類を閉じた。
「クラウゼン侯爵家と、その御用商の間で、辺境向け補給費の不正流用が確認できます。さらに、ミレイユさん個人へ責任を押しつける準備もされていた形跡があります」
やはり、あの人は最初からそうするつもりだったのだ。
怒りはもう燃え上がらない。ただ、冷たい確信だけが残る。
「査問は公開にします」
サビーネが続けた。
「兵たちの食糧が奪われた件ですから、王都の密室で終わらせるべきではありません」
ヴィクトルが頷いた。
「砦で受ける」
「よろしい。侯爵本人にも出頭を命じます」
査問の日が決まった瞬間、空気が張り詰めた。逃げ場はもうない。
会議のあと、サビーネは私にだけ少し柔らかい声を向ける。
「怖いですか」
「少しは」
「でも、あなたはもう一人ではない」
その通りだった。食堂があり、帳簿があり、砦の人たちがいる。私は誰かに使い潰される側ではなくなったのだ。




