第14話 団長と徹夜の発注書
倉庫が焼かれた以上、翌朝までに新しい発注書を作り直さなければならなかった。
足りなくなった保存食、乾いた薪、灯油、塩、包帯。火事は一晩で終わっても、その穴は翌日の食卓へ真っ直ぐ響く。
執務室の机を挟み、私は帳簿を、ヴィクトルは地図を広げた。夜更けの砦は静かで、灯火だけが紙の上を照らしている。
「西の村から豆を回せます。代わりに次の月で魚を多めに買いましょう」
「街道の護衛は俺が出す」
「燃えた倉庫の修繕費は急ぎすぎないほうがいいですね。まず食べるもの」
「異論なし」
話が早い。レナードなら、見栄のために焼けた壁から直しただろう。
書類を書き続けているうちに、気づけば指先が冷えていた。するとヴィクトルが黙って湯気の立つ茶を差し出してくる。
「団長が淹れたんですか」
「マルタに教わった」
「そこまで」
「毎朝迎えに行く相手が倒れたら困る」
またそれだ。無自覚に心臓へ悪いことを言う。
私は茶碗を握りしめながら視線を逸らした。
「迎えは、足元が悪いからでしょう」
「最初はな」
ペン先が止まる。
「今は違うんですか」
ヴィクトルは少しだけ考えてから、率直に言った。
「朝一番に、あなたの顔を見たい」
静かな部屋で、その言葉だけが大きく響いた。
私はしばらく返事ができなかった。三十年生きてきて、こんなふうに飾らず欲しいものを言われたことがない。
「……でしたら、明日も遅れず来てください」
やっとそれだけ返すと、ヴィクトルの口元がわずかに緩んだ。
「約束する」
夜明け前、必要な発注書はすべて書き終わった。疲れているはずなのに、胸のどこかだけが軽い。火事の跡は痛いが、その灰の中で、別の何かがゆっくり形を持ち始めていた。




