第13話 真夜中の倉庫火災
証拠を集め終えた夜、倉庫が燃えた。
焦げた匂いで飛び起きた私は、窓の外の赤い揺らめきを見た瞬間に走り出していた。外套を引っかける間も惜しい。倉庫には、侯爵家と砦の帳簿をまとめた箱がある。
「ミレイユ!」
背後でヴィクトルの声がしたが、私は止まれなかった。
倉庫の扉は半開きで、火はまだ入口側に回っている。今なら間に合う。そう判断して飛び込んだ途端、熱気と煙が喉を焼いた。
奥の机に置いた木箱を抱え上げた瞬間、梁が嫌な音を立てる。
「何をしている!」
次の瞬間、強い腕に身体ごと持ち上げられた。ヴィクトルだ。彼は片腕で私を抱え、もう片方で箱を奪い取ると、そのまま一気に外へ走った。
地面へ降ろされた私は、咳き込みながら炎を見上げる。あと少し遅ければ、帳簿も私も中に置き去りだった。
「……すみません」
「謝る前に息をしろ」
ヴィクトルの声は怒っていた。でも、その手は震えていた。
私はようやく気づく。彼は帳簿が燃えるのではなく、私が燃えるのを恐れていたのだ。
「箱は」
「無事だ」
ヴィクトルが足元の木箱を示す。角が少し焦げただけで、中身は守られていた。
駆けつけた兵たちが消火に当たり、イザークが倉庫裏から油壺の破片を見つけた。事故ではない。証拠が王都へ届く前に消したかった誰かの仕業だ。
「レナードか、商人か、あるいは両方か」
私が呟くと、ヴィクトルは険しい顔で首を振る。
「誰でもいい。次にあなたへ手を伸ばしたら許さない」
火の明かりの中、その言葉だけがやけに鮮明だった。
私は煤で汚れた彼の手袋にそっと触れる。
「でも、助けてくれてありがとうございます」
「助けるに決まっている」
即答だった。迷いのない声に、胸の奥が強く鳴る。
燃えたのは倉庫の一部だけだ。帳簿は残った。だったら次はこちらが、火をつけた側の逃げ道を燃やす番である。




