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越後の次は越前へ

「よろしくお願いします」


 と、俺は薩摩屋さんに銀鉱石を三個預けて、


「あっ、薩摩屋さん、これ、まだまだありますので、いい値をつけてくださった先と引き続きお取引を考えております。どうぞよろしく」


 と言って、さらに銀鉱石を取り出して見せた。


 薩摩屋さんには、「それから、次回佐渡に来られるときには米をあるだけ河原田に持ってきてください」と言って、その日は越後(直江津)に泊まる。


 佐渡を朝早く出て越後(直江津)に着くのはもう夕方だ。

 越後で一泊して、次の日もまた朝早くに出て、輪島で一泊して、次の日は加賀の橋立で一泊。

 天候待ちで、加賀でもう一泊して次の日、五日目にようやく敦賀に着いた。


 船の漕ぎ手は、二人は雇いの人足で、喜平(きへい)弥太郎(やたろう)と言う、漕ぎ手の他にも河原田家の力仕事を請負う人だとか。


 後の二人は河原田本間氏の家臣で、一人は舟代様と言って、名は体を表わすの通り河原田の船の第一人者だそうだ。

 もう一人は磯田様(トクノシン)の息子で、元服したての磯田徳兵衛(いそだとくべえ)だ。

 徳兵衛(トクベー)はとにかく俺の話が面白いらしく、◯俺のやりたいことを事細かに話して聞かせている。


 四人だけではなく、もちろん俺たち四人も船を漕いでいる。

 八人で漕いで、二人休憩して✕4、四人休憩して✕4、また八人で漕いで、二人休憩して✕4、四人休憩して✕4みたいなかんじのローテーションで船を進めている。


 この船は、人だけなら左右に十人づつくらい座って漕げるような大きさで、俗に言う「小早」クラスの船だろう。

 底の平らな和船なので浅瀬には強いがスピードは出ない。

 四日間、船を漕ぎっぱなしはさすがに辛い。

 早く銀鉱石(こいつら)を換金(換米)して、もっと早い船を作って、操舵は全部任せられるようになりたいものだ。


 〜 〜 〜 ※ 〜 〜 〜 ※ 〜 〜 〜


 越前敦賀川舟屋


「手前が座の頭目をさせてもろうております川舟兵三郎でございます」


 と、毎度、こちらのメンバー紹介を受けて、敦賀の水運の元締めさんにあたる川舟屋さんが出てきてくれた。


 俺は早速銀鉱石を一つ川舟屋さんに渡して、


「これは佐渡で採れた銀鉱石です。精錬前のこの状態でいかほどで売れるものかと持ち回っております」と言うと、


「ほっほぉ、これは手前どもでは計かりかねますなあ… なにぶんうちは運搬が主な商いでして、商品をあちらからこちらへ運んでいくらの商売ですよって」と川舟屋さんがかえしてきた。


「そうですか… ではどうでしょう… これをいくつか、そうですね、三個ほどお預かりいただいて、京なり堺なりの川舟屋さんのお取引先様に見せていただいて、値をつけてくださるところがありましたら売って来てもらえませんか? もちろん、売れたら川舟屋さんの運搬費用は差し引いていただければ… あっ、お代は銭でも米でもどちらでも結構ですので」


 そう俺が言うと、


「売れた値段から手前どものの儲け分を引いてお返しすればよいと? それでは安く売れたらお代がなしと言うこともありえますぞ」


 と、川舟屋さん。


「ええ、それでも結構です。銀鉱石(これ)はまだまだあるのですが相場がわからないもので、少しでも高く買っていただけるところに今後取り引きをと考えています。今は市場調査中ですので、いくらで買ってもらったかを教えてもらえればいいので…」


 俺の話の内容でリスクがない話だと判断したのか、川舟屋さんは、


「そうですか。では三個預からせてもらいましょ」


 と言って銀鉱石を三個受け取り、一個一個秤で重さを計って預かり書を木札に書いて渡してきた。


「値がつきましたら米でも銭でもいいので、今度佐渡に来られる時にお持ちください。その時には全て買い取りますので、米をできる限り河原田に持ってきてください」と川舟屋さんにも依頼した。


『鉱石の状態じゃなくって、抽出はできなくても砕いて粗ら選りはしておいた方がいいのかな… 石、重いもんな…』


 川舟屋さんとのやり取りで、そんなことを考えていた。


 その日は敦賀で一泊。

 翌日にはお隣の若狭に向かった。

川舟屋さんの秤では、持って行った銀鉱石は一個、250〜300匁だった。

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