011 - じょせふぃーぬ -
011 - じょせふぃーぬ -
ざばばばばば・・・
ずしゃぁぁぁ・・・
「歓迎の宴・・・ですか?」
僕は当主様の言った意味が分からず聞き返す、外は相変わらずの大雨だ。
「そうじゃ、村の者達がお前に会わせろと煩くての、激しい雨が降っておらねばここに到着した翌日宴を開く計画をしておったらしい」
「らしいと言うのは当主さ・・・お父様は知らなかったのですか?」
当主様の自室に来る前、温泉から出た僕を迎えに来た桜陵さんに頼まれた。
僕が当主様の事を父と呼ばないので落ち込んでいる、一度呼んであげて欲しいと・・・。
ちなみに本人の希望としては「パパ」か「お父様」がいいそうで、優先順位1位の「パパ」は恥ずかしいので第2希望の「お父様」呼びで妥協して貰う事にした。
当主様のお部屋に入り「失礼しますお父様」と言うと厳つい顔がたちまち緩み、本当に同一人物かと疑いたくなる程に上機嫌となった。
これくらいで喜んでくれるのなら明日からも「お父様」と呼ぶ事にしよう。
「そうじゃな、宴を開くのに村長の許可は要らぬ、昴が村に戻ると聞いて夜鬼か鬼崩の家が準備しておったのだろう、我が家とて予定があると言ったのじゃが奴等さぷらいずだと抜かしおる」
「よき?・・・と、きほう?」
また意味のわからない単語が出た、首を傾げる僕に当主様が話を続ける。
「まだ説明しておらなんだな、鬼牛村には我が牛鬼家の他に鬼の名を持つ家が3つある、この村は力と財を持つ鬼の4家が協力して治めておるのだ」
当主様の顔が険しくなった、もしかして他の家とは険悪な関係なのかもしれない・・・。
「・・・」
「宴は明後日と聞いておるから他家の当主達にも会えるだろう、心配せずとも明後日の夜は儂が邪魔神様に晴れるよう祈祷しておいてやろう」
また当主様がスピリチュアルな事を言い始めたので僕は聞き流しておく事にした。
・・・
・・・
その後も当主様と雑談をしてお部屋に戻ったのは夜の11時過ぎ・・・。
「くかぁ・・・」
「すぴー」
お部屋に敷いてあるお布団の上で灯りをつけたまま誠君が寝ていた、枕元にはビールの缶が2つ、近寄るとお酒臭いので誠君が飲んでいたのだろう。
もじっ・・・
誠君を見ているとまた身体が疼いてきた・・・僕だって女の子だし恥じらいはある、して欲しいなんて言うのは恥ずかしいけど付き合い始めてから僕の身体は誠君に隅々まで開発されたのだ。
「それに、中学1年の時にはあの男に毎日・・・」
もじもじっ・・・
でも誠君の言う通り、僕と致してるところを当主様に見られるのはマズい。
僕はいいけど当主様は怒るかもしれないし責任をとって結婚しろなんて言われても誠君にその気が無いなら重荷になってしまうだろう、僕は見た目も冴えないし人見知りでつまらない人間だ。
もちろん僕としては誠君と結婚できたらいいなって思う、でも今は誠君の冴えない彼女という立場で十分だ。
「早く寝ちゃおう・・・」
そう思って並んで敷かれた自分の布団を見た・・・僕のお布団の奥にある襖が少し開いている。
襖の前には僕たちの荷物が置いてあってお風呂へ行く前に誠君が閉めていたような気がする・・・また誠君が開けたのかな?。
ささっ・・・
襖に近寄っても隣の部屋は暗くて見えない、ここに来てすぐ斗織さんが隣にも部屋があると言ってたのを覚えている。
すっ・・・
僕は襖を開けてみた。
お部屋の灯りが隣を照らし中の様子が確認出来た、特に何もない畳の和室でその奥にもまた襖があった。
でもお部屋の隅・・・一番薄暗いところに赤い何かがある。
僕は隣のお部屋に入り蛍光灯をつけてみた。
かちっ・・・
ぱ・・・
お部屋が明るくなって赤いものが何かはっきり見えた。
「お人形?」
そこにはとても古そうな日本人形が置いてあった、おかっぱ頭で赤い着物を着ている、身長は小学生の子供くらいかな?。
一重瞼の細い目の中には黒いガラス玉が入っていてお顔は少しひび割れていた、何となく気味が悪い人形だ。
「でもただの人形だし特に変なところはないかな」
僕はお部屋の電気を消して隣へ戻り、襖を閉めた。
ポケットからジップロックに入った錠剤を取り出す・・・ここに来てからあまり眠れないと言ったらさっき当主様がくれたのだ。
紫色の丸い錠剤が十個ほど入ったジップロックの袋には「よく眠れるよ」と書いてある、とても怪しい!。
「月刊ムゥの通販か何かで買ったのかなぁ・・・」
僕は枕元のお水で錠剤を流し込み、布団に入って目を閉じた。
・・・
・・・
ざぁぁぁ・・・
ざばばばばば・・・
「んぅ・・・」
僕は雨の音で目を覚ました、枕元にある時計を確認すると朝の6時・・・あの怪しい薬を飲んで寝たから朝まで一度も目を覚まさなかったようだ。
隣を見ると誠君が布団に丸まって眠っている。
「起こすのは可哀想だね」
僕はお布団を抜け出し雨戸の閉まった薄暗い廊下に出た、お手洗いに行きたくなったのだ。
廊下は所々に電球が点いてるし雨戸の開いている所があるから真っ暗じゃない、それに今まで僕はほとんど視力を奪われた状態で生活していたのだ、方向感覚には自信があるし例え真っ暗でも移動は苦にならない。
とてとて・・・
離れのお手洗いに続く渡り廊下のところに出た、引き戸を開けて外に出ると一層雨の音が激しくなる。
しゅっ!
「わぁっ!」
突然僕の足元を黒い何かが横切った、お屋敷の中から出てきた何かに目を向けると。
「な”ー」
重低音のとてもいい声で鳴く猫さんが居た。
斗織さんを襲った野良猫かと思って身構えたけど、よく見ると赤い首輪をして毛並みもいい。
「もしかしてジョセフィーヌ?」
「な”ぁ”ぁ”ー」
返事をした、当主様の猫、ジョセフィーヌのようだ。
ごろごろ・・・
僕の足元に頭を擦り付けてきた、大きな猫だけどかわいいな。
「おはようございますお嬢様っ!・・・あ、居ないと思ったらこんなところに!、ジョセフィーヌちゃんお外に出たらダメだよー!」
足元に転がるジョセフィーヌをもふり倒していたら戸内さんがやって来た。
「な”ー」
「おはようございます戸内さん」
「雨で濡れたら大変ですのでお嬢様ちょっと捕まえていて下さいね」
「あ、はい」
がしっ!
僕はジョセフィーヌのお腹を掴んで持ち上げる・・・予想通り重い!。
「な”ー」
じたばた・・・
抵抗するジョセフィーヌを戸内さんに手渡し、僕は離れのお手洗いに向かった。
・・・
お手洗いを済ませ渡り廊下に出ると視線を感じる。
周りを見渡すと大雨の中、庭石の上に大きな黒猫が座ってこちらを見ていた。
おそらく斗織さんを襲った野良猫だろう、ジョセフィーヌより更に1回り大きい、猫としては規格外の大きさだ。
あの庭石に近寄らないとお屋敷に入れない、でもそこには猫が居る・・・どうしよう。
僕は猫から目を離さないようにして近付いた。
じり・・・
じりっ・・・
「口が裂けてたって言ってたなぁ」
よく見ると病気なのか毛が所々抜けていて痛々しい、それに猫が座っている庭石から赤黒いものが幾筋も垂れている。
「ひっ・・・」
それを見て怖くなった僕はお屋敷の入り口に向かって全力疾走した。
がらがらっ!
ばたん!
猫の横を駆け抜けお屋敷の中に入ってすぐ引き戸を閉めた、日頃の運動不足が祟って少し走っただけで息が切れる。
「はぁっ・・・はぁっ・・・怖かったぁ、次からは戸内さんに頼んでついて来て貰おう」
・・・
・・・
誰かいないかと廊下を歩いているとメイド服を着た人を見つけた、覚えている限りでは見た事のない人だ、僕は近付いて話しかける。
「あの・・・」
「あら、おはようございますお嬢様」
初対面なのに僕の事をお嬢様と呼び頭を下げる女の子・・・使用人の間では僕の事がきちんと周知されているようだ。
僕は中庭に居た黒猫の事を話すと宇盾と名乗った女の子が首を傾げて・・・。
「それは大変でございましたね、使用人を集めて追い払いましょう、お嬢様はお部屋に戻っていて下さいませ」
そう言ってお屋敷の奥に歩いて行った。
・・・
・・・
既に雨戸が開けられて明るくなった廊下を歩いて部屋に戻っていると中庭にレインコートを着た人が数人歩いているのが窓から見えた、宇盾さんが人を集めてくれたようだ。
かたっ・・・
「あ、誠君おはよ」
お部屋に入ると誠君が布団から起き上がっていた、でもどこか様子がおかしい、顔色が悪いし目が虚だ。
「・・・」
「どうしたの?」
「あぁ、昴か・・・ちょっと寝不足でな」
「そうなの?」
「お前よく寝てたよな、いくら身体を揺すっても全然起きなかったぜ」
「え・・・僕が寝てる間に何かあったの?」
「・・・何でもねぇよ」
何でもないような感じじゃないし!、でも誠君はこんな時しつこく問い詰めると怒るから僕はこれ以上何も聞かなかった。
「当主様からよく眠れるお薬を貰ったの、誠君もいる?」
僕はポケットからジップロックに入った薬を取り出した。
「何だよそれ?、凄ぇ怪しい色してるぜ!」
「うん、でも朝までよく眠れたよ」
「お前夜中に死んだみてぇに寝てたし絶対何かヤバいもん入ってるだろ!」
「えー、そうかなー」
「少しは人を疑えよ!」
・・・
・・・
そんなトラブルはあったものの、美味しい朝食を食べてお屋敷を少し見て回った後、誠君はお風呂に入ると言って浴場に行ってしまった、どうやらここの温泉が気に入ったようだ。
僕は退屈だったのでお屋敷を歩き回っている、今朝の黒猫が怖かったからお屋敷の中にある当主様用のお手洗いも見せてもらった、次からここを使っていいとの事なので頑張って道順を覚えようと思う。
それにしても大きなお屋敷だ、1階だけでも広いのに2階と中2階、それに4棟の大きな離れと土蔵まであるらしい。
僕と誠君は午前中を気ままに過ごし、とても美味しい昼食を食べた後、午後はお部屋でくつろいでいた。
戸内さんと秋間さんは暇を持て余した僕達に色々と私物を貸してくれる、僕たちの枕元には小説や漫画が沢山積み上がっていてどれも面白い!、夕食までこれを読んでいれば退屈しないだろう。
ざぁぁぁぁぁぁ!
どしゃぁぁぁぁ!
雨は相変わらず呆れるくらい降っている、その音を聞きながら本を読んでいると・・・。
ばばばばばば!
どどどどどど!
「何の音だ?」
明らかに雨音とは違う重低音が響いて誠君が反応する。
お部屋の隅に寝転んで漫画を読んでいた戸内さんが顔を上げて・・・。
「何でしょうねー、ヘリの音みたいですけど」
秋間さんがお部屋の外に出てしばらくすると戻ってきた。
「旦那様が県に土砂災害の復旧を要請しましたので自衛隊が空から被害状況を見ているようですね、先程お屋敷の外に出ていた者が大きなヘリが飛んでいたと言っていました」
「この村には緊急用のヘリポートとか無いのか?、山奥の村には急病人を運ぶ為に作ってるところもあるだろ、ここの当主様は権力あるみたいだし上手く交渉したら俺達ヘリで帰れるんじゃねぇかな」
誠君が秋間さんに尋ねた、確かに車が通れないなら空からという方法もある、でも僕達の為に来てくれるのかな?。
「残念ながらこの村にヘリポートはありませんねー」
寝転んで漫画を読んでいた戸内さんが答えた、無いんだ・・・。
「急病人が出た時どうするんだよ?」
「この村の人達は邪魔神様に守られていますから病気になんてなりませんよー(ニコッ)」
また戸内さんが真面目な顔をしてスピリチュアルなことを言い始めたよ!。
「そうですね、邪魔神様に感謝です(ニコッ)」
秋間さんまでおかしな事を言い始めて誠君が真顔になる、僕も表情が引き攣ってると思う。
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