010 - おにべこむら -
010 - おにべこむら -
ばばばばばば!
どどどどどど!
「警部補ぉー、もう少しで着きますよー」
「・・・」
「乗り心地はちょっと悪いかもですけどうちにある一番速いやつです!」
「・・・」
「雲の中に入ったから景色が全然見えないですねー」
「・・・」
「安心してください警部補ぉー、蘭防さんは元自衛官で操縦技術は超一流です、たとえ視界ゼロでも問題ありません!」
「・・・」
私の名前は与志若太42歳独身、警視庁捜査課に所属している、役職は警部補だ。
今私と星刃貴美音はヘリに乗って目的地の鬼牛村へ向かっている。
ばばばばば!
どどどどど!
私の隣に座る星刃貴美音はマイク付きのヘッドフォンを着けて操縦席の男と時折会話していた、ヘリの爆音で内容は全く聞こえないのだが・・・。
何故私達が見るからに普通ではない軍用ヘリ?で空を飛んでいるのか・・・話は今朝に遡る。
・・・
・・・
ぶろろろろ・・・
超快適だったリゾートホテルを出た私達は鬼牛村に車を走らせていた。
道の駅などで休憩を挟み4時間ほど走っただろうか・・・舗装された広い道路は徐々に狭くなり周囲の民家が消え、廃道のような山道を進んでいると小雨の降る中レインコートの男が立っていた。
「ひゃぁぁ!」
「うわぁぁ!」
薄暗い山道に突然現れた人影を見て私達は思わず叫んでしまった!。
きぃ・・・
・・・
ガチャ
私が外に出ると男が近付いて来た、ここは秘境とはいえ現代日本なのだから山賊の類ではないだろう、しかも男は工事の時に警備員が使う赤く光る誘導用ライトを持っている。
「こんにちはー、失礼ですがどちらへ?」
人の良さそうな中年男がにこやかに話しかけてきた、特に隠す理由もないので警戒を解き私は行き先を告げる。
「この先にある鬼牛村へ向かっています」
男は少し間を置いて喋り出す。
「ありゃー、ここから先には鬼牛村しか無いのでそうじゃないかと思ってましたぁ、実は連日の大雨で土砂崩れがありまして、この先の道が埋まって通れないんですよ」
「・・・他に迂回路は無いのですか?」
今居る場所はUターンも困難な細くて荒れた道だ、横道も無いし迂回路なんて気の利いたものがある筈もないのだが一応聞いてみる。
「無い訳ではないのですが・・・この谷の下にある旧道に降りて獣道を5時間ほど歩きになりますねー、私も今通って来ましたが酷い道ですよ」
男は道の遥か下・・・深い谷を指差して言った、嘘だろおい!。
「貴方は村の人ですか?」
「はい、あんな僻地の村に他所の人間は滅多に来ないと思うのですが復旧で町の土木関係者が来るまでここで通行止めの案内してろって村長に言われましてね、朝から村を出て薮を払いながらようやくここまで辿り着いた次第で・・・」
そう言って通行止めの看板と手の甲にある引っ掻き傷を見せる男・・・土砂崩れの現場近くは車を方向転換できる場所が全く無いらしく、ここで引き返さないと延々とバックして戻らなければならないそうだ。
「あのぉ、村には非常時に使うヘリポートとかあったりします?」
いつの間にか車を降りていた星刃貴美音が男に尋ねた。
「あ、はいありますよ、急病人を運んだり、車だと時間がかかるし一度に大量の荷物を運べないので日用品や食料を定期的にヘリで持って来て貰ってるんですよ」
「そうですか、ありがとうございます!、じゃぁ戻りましょうか?」
星刃貴美音が私の腕を引っ張る・・・ここまで来て引き返すのか?。
「戻られるのでしたらここから1分ほど進んだところに道が広くなってる場所があるのでそこで方向転換して下さい」
教えてくれた男に礼を言って私達は車に乗った・・・。
言われた通り先に進むと谷側に少し広くなっているところがあった、だがガードレールが無い!、星刃貴美音が怖いと叫びながら車を方向転換させて今来た道を戻る。
レインコートの男が居る場所を通り過ぎた時、作業の手を止めて私達に頭を下げるのが見えた・・・。
「さてどうするかな・・・」
「うちのヘリを使って行きましょうか?」
運転しながら星刃貴美音がとんでもない事を言い出した。
「なん・・・だと?」
ばばばばばば!
どどどどどど!
「これは何だ!」
「うちのヘリですけど!」
山道を抜けて近くの町に辿り着いた私達は田畑に囲まれたヘリポートに来ている、ここのような僻地の山間部には急病人を運ぶ為のヘリポートが所々に作られているのだ。
そしてヘリポートには星刃貴美音が呼んだであろうヘリが待機していた。
ばばばばばば!
どどどどどど!
これがヘリなのは見れば分かる・・・だがどう見ても普通ではない!、自衛隊が使っているような厳つい機体だ!。
「私は疎いのだがこういうのは飛行許可が必要なのではないか?」
「許可は貰ってますー」
そんなに早く許可が出るものなのか・・・。
「早く乗って下さい、日が暮れちゃいますよー」
輝くような笑顔の星刃貴美音に促され、私はこれ以上考えるのをやめた。
ばばばばばば!
どどどどどど!
ざぁぁぁぁ!
・・・
そして今に至る!。
私達は雨雲でほぼ視界がゼロの中、ヘリポートに着陸しようとしている・・・ヘリが高度を下げ雨の勢いが更に凄まじくなってきた、一歩間違えれば墜落だ。
「この雨の中を着陸するのは危険だろう、ここは一旦引き返して・・・」
「いえ、大丈夫です、蘭防さんはとても運がいいので!」
「何だって?」
「彼は傭兵だったんですよ、中東の激戦や東欧の内戦を無傷で生き延びて来たそうなのでこれくらいの雨は屁でもありませんっ!」
元傭兵で元自衛官・・・このヘリを操縦しているムキムキマッチョな男は何者なのだ!。
ばばばばばば!
ひゅひゅ・・・
どぅるるる・・・
「ようやく地上に降りたか・・・」
「だから大丈夫だって言ったじゃないですかぁ」
その謎の自信はどこから来るのだろうか・・・そう思いつつ私達は鬼牛村のヘリポートに降り立った。
険しい山の斜面、その僅かな隙間に張り付くように作られたヘリポート・・・外は降りるのを躊躇するほどの大雨だ。
ヘリの爆音に驚いたのか雨なのに村の住民と思われるレインコート姿の人影が数人こちらへ歩いて来ている、私は傘を持って外に出た。
ざぁぁぁぁ!
どどどど!
一瞬で傘が役に立たなくなったぞ畜生!、雨の勢いで傘の骨がいくつか折れたようだ、私はレインコートを持ってこなかった事を後悔した。
「#”@$%&・・・」
ちゃっかり自分のレインコートを持って来ていた星刃貴美音が少し離れた場所で近付いてきた村人と話している・・・会話の内容は雨音が激しくて聞こえない。
・・・
・・・
とたとた・・・
しばらくして村人との話が終わった星刃貴美音がずぶ濡れの私のところに来た。
「ヘリは一旦町へ戻ってもらいますね」
村人に何か言われたようだ、少し困ったような顔をしている。
「緊急時に町から来るヘリが降りられないので早く退けろって言われましたぁ」
なるほど、言われてみればこの馬鹿でかいヘリがあったら邪魔になるな・・・。
「確かにこのままってわけにはいかないか・・・」
「はい、ここって携帯の電波は全然入りませんけど有線の電話は引かれてるそうなので帰りの連絡はそれをお借りしようかと」
携帯は圏外か・・・空が見えてるところは大丈夫だと言ってたじゃないかスターリ⚪︎ク!、私は自分のスマホを出して確認した、清々しいほどの圏外だ!。
「じゃぁそれで頼めるかな?」
「了解ですっ!」
ばしゃばしゃ・・・
靴が濡れるのを気にするでもなく星刃貴美音がヘリに近付き操縦席の蘭防に指示を出している。
ばしゃばしゃ・・・
「さぁ、もう暗くなってますから宿に向かいましょう」
そう、今の時間は16時ちょうど・・・まだ初秋だから日は高い筈だが雨なのに加えて周りを山に囲まれたこの村は既にかなり薄暗い。
それに彼女は今朝、村の宿を予約したと言っていたし私も違和感なく聞き流していたのだがこんな山奥の寒村に宿なんてあるのだろうか・・・。
こいつ・・・いや、彼女の性格が徐々に掴めてきた私は急に不安になって確認する。
「宿は近くにあるのかな?」
「はい、確か・・・ホテル・ヨーキっていうところです、ググールマップに出ていたので電話しておきましたぁ!」
こんなド田舎の村にホテルがあった!。
・・・
・・・
「あぁ、それは佳奈ちゃんのところだね、こっちだよ」
ホテルの場所が分からないのでヘリポートに来ていた村の男に尋ねたところ案内してくれるらしい。
この手の寒村は他所者に対して排他的だと思っていたが特に警戒されている感じはしないし普通に親切だ。
ばしゃばしゃ・・・
今日は山歩きだと思ってスニーカーを履いて来たのだが水が入って気持ち悪い、村へ続く道は軽自動車が一台通れるくらいあるし荒れてはいるがアスファルト舗装もされている。
山の斜面に張り付くように建っている古めかしい木造家屋に混ざって数軒、平成初期に建てられたような家もあるがそれぞれの密集度はあまり無く田畑の隙間にポツポツとある程度、空き家や廃墟も目立つ典型的な限界集落だ。
話をしながら10分ほど歩いただろうか、男が立ち止まり言った。
「ここだよ」
私達の目の前にはおよそホテルには見えないコンクリート2階建ての古い建物があった、長い風雪に耐えていたのか表面は黒ずんでひび割れが目立ち、建物の半分が鬱蒼とした蔦に飲み込まれかけている!。
割れた窓はガムテープで補修され鉄製の窓枠は錆だらけだ、元々は銭湯だったのか外壁には消えかけた温泉マーク、男女別の入り口には錆びたシャッターが降りていた。
隣の勝手口から僅かに光が漏れているので中に人は居るようだ。
「わぁ・・・香ばしい」
星刃貴美音が割と失礼な事を呟く・・・確かに香ばしい外観だが宿の人の前で言うんじゃないぞ!。
がこっ!
ギィ・・・
「おーい佳奈ちゃん!、お客さん来てるよ!」
田舎特有の遠慮の無さで男が勝手口を開けて中に入って行く。
「はーい、ちょっと待ってください!」
奥から若い女性の声がする、と同時に中に入った男が出てきた。
「じゃぁ俺はこれで帰るよ、何もない村だが明日は宴会がある、タダ酒も飲めるだろうからのんびりして行きな!」
「はい、どうもお世話になりました」
私の礼に片手を上げ、男は真っ暗な道を帰って行った。
・・・
とたとた・・・
ぬっ!
「うわぁぁ!」
「きゃぁぁ!」
突然開いていた勝手口から般若が顔を出した!、驚いて思わず叫ぶ私と星刃貴美音に般若が話しかけてきた。
「わ、ごめんなさい、急に出てきて驚かせてしまいましたよね」
よく見ると顔の左半分に般若の面をつけた少女が私達に微笑んでいた。
「電話で予約をもらっていた星刃様・・・でしょうか?」
「あ、はい、星刃です」
挙動不審になりながら星刃貴美音が答える、彼女も半分に割られた般若の面が気になるようだ。
「本当に驚かせてごめんなさい、古い旅館ですけど清潔ですのでご安心ください、お部屋はこちらです」
「おい佳奈、ホテルだって言ってるだろ!」
「わぁぁぁ!」
薄暗い通路からまた般若が顔を出した!・・・と思ったら今度は少し腰の曲がった白髪の老婆が出てきた。
「おばあちゃん、何度も言ってるけどここをホテルっていうのは流石に苦しいって!」
「うるさいね、またお仕置きされたいかい(ニチャァ)」
「ひいっ・・・」
この婆さん孫?にお仕置きするのかよ・・・。
「ホテル・ヨーキヘようこそお客さん、1年ぶりの外からのお客だ、夕食は気合い入れて作るから期待しておくれ(ニタァ)」
般若によく似た老婆が愛想良く話しかけてきたから私も挨拶をする。
「お世話になります・・・」
靴を脱いで用意されていたスリッパに履き替える、雨で靴下が濡れていると言ったが婆さんは気にせず使えと言うので靴下を脱いでスリッパを履く。
とたとた・・・
般若面の少女の案内で私達は廊下を歩く、床はリノリウムが使われていて昔の学校を思わせる、全体的に渋く昭和レトロな雰囲気だが悪くない。
「お部屋はこちらですー、お夕飯はできたらお呼びしますので食堂でお願いしますね、それからお風呂は1階奥に共同浴場がありますのでそこを使って下さい」
「元々はお風呂屋さんだったのですか?」
星刃貴美音が少女に尋ねる。
「はいそうですよー、旅館を兼ねた銭湯って感じですね、以前は村の人相手に営業してたんですけど牛鬼の当主様が温泉好きでお屋敷に立派なやつ作っちゃいましてー、誰も入りに来なくなったから大浴場は閉めてるんです」
「牛鬼・・・ですか?」
私が呟いた言葉に少女が反応した。
「はい、この村を治める村長さんです、設備も綺麗で誰でも安く入れるので興味があればお屋敷に行ってみてはどうでしょう、この辺りはいい温泉が沸いてるんですよ」
いい事を聞いた、牛鬼といえば神威崎昴が帰っているという実家の名だ、彼女のよく行くスーパーで働く女に聞いたから間違いない、警戒されないよう先にこっそり様子を見に行ってみるか。
がちゃ・・・
扉を開けて案内された部屋に入る・・・。
建物の外観を見て心配していたが悪くない部屋だ、確かに古いがカビ臭くないし蛍光灯も明るい、和室だから畳敷きでテーブルの上にはお茶の急須とポット、部屋の隅には綺麗なシーツがかけられた布団が敷いてある。
清掃も行き届いていてどこにでもあるような温泉旅館といった風情だが・・・掛け軸のかかっている床間に置かれた日本人形が気になった。
・・・
・・・
近付いてみる・・・古そうな人形だ。
おかっぱ頭に赤い着物を着ていて小学生の子供くらいの体格だ。
一重瞼の細い目の中にはガラスだろうか・・・黒目の部分が大きいから気味が悪い、半開きの口の中には歯まで精巧に作られている。
「これは年代物だな・・・」
私は黄色く変色して細かなヒビの入った人形に触れようと手を伸ばす・・・。
・・・
・・・
がちゃ!
「わぁぁん!」
「うわぁぁぁぁ!」
いきなり扉が開いて隣の部屋に案内された筈の星刃貴美音が泣きながら入ってきた!、ノックくらいしろよ、びっくりして口から心臓が出そうになったぞ!。
「お部屋に怖いお人形が居ますぅ!」
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