012 - うぉぉぉ! -
012 - うぉぉぉ! -
俺の名前は累塚誠、19歳だ、今俺は当初の予定を超えて昴の実家に滞在してる、土砂崩れが起きて村から出られなくなっちまったからだ。
温泉に浸かった後、自販機で買った缶ビールをその場で1本空け部屋に戻って更に2本飲んだ。
昴は当主と話をしてるから今この部屋には俺一人、昨日から秋間ちゃん達が雑誌や漫画を貸してくれていて俺はそれを読んで時間を潰している。
「スマホが使えねぇとこんなに暇だとはな・・・」
俺は雑誌のページをめくりながら独り言を呟く、ここはクソ田舎だから書籍は数週間遅れで届くらしい、今読んでいる雑誌も2ヶ月前に出たやつのようだ。
「こんなところで暮らすなんて俺には無理だぞ」
昴と結婚してこの家の財産を頂く計画は諦めてねぇし、これだけの財産と権力は魅力的だ、何しろ当主の一声で県知事を動かせるんだからな。
ことり・・・
小さな物音がして俺は辺りを見渡した。
「・・・っ!」
荷物を置いてるところの襖が少し開いてやがる、風呂へ行く前に俺は開いてた襖を閉めた筈だし部屋に戻った時にも開いてなかった!。
「やっぱり誰かが俺を怖がらせようとしてるんじゃねぇのか?」
今俺は自分の布団に寝転がっていて隣には昴の布団が、その向こうに俺たちの荷物が置かれている、暗くて隙間から隣の様子は見えねぇ。
どうする?・・・襖を開けて様子を見てみるか、この部屋に来た最初の日に隣の部屋は確認している、何もない和室だった。
だが・・・この家の薄気味悪さが俺を躊躇わせる。
「べ・・・別に怖いわけじゃねぇからな!」
誰に聞かせるわけでもなく俺は叫ぶ。
ことり・・・
また音がした、今度は人の気配もする・・・隣の部屋に誰か居るようだ。
「誰か居るのか?」
自分でも笑えるくらい声が震えてやがる・・・俺は枕元の鈴を見た、これを鳴らせば秋間ちゃんが来てくれる筈だ。
俺は鈴に手を伸ばす。
すっ・・・
「なっ!」
襖がゆっくりと閉まりやがったぞ!、それに真っ暗な隙間の向こうにちらりと赤いものが見えた。
ちりんちりんっ!・・・
思わず鈴を鳴らした、実は俺はホラーや怪談が苦手だ!。
鳴らしたはいいがやって来た秋間ちゃんになんて説明するか考える、隣に誰かが居て俺の様子を伺ってる、怖いから見てくれ・・・はあまりにも格好悪い。
「小便がしたくなった事にするか・・・」
ぱっ!
「うぉぉぉぉ!」
停電か?、部屋の蛍光灯が消えた!、豆電球まで消えたから真っ暗だ、しかも秋間ちゃん来ねぇし!。
がしっ!
誰かが俺の上に馬乗りになって首を絞めやがった、血管が圧迫されて絞め落とされそうになるが力が強くて抵抗できねぇ・・・ふわりと何かの匂いが漂う、どこかで嗅いだ事のある香りだが思い出せねぇな。
俺はそのまま意識を手放した・・・。
・・・
・・・
・・・
「んっ・・・」
ばっ!
俺は目を覚まして飛び起きた、部屋の電気は消えてるが豆電球は点いてる・・・隣の布団を見ると昴の奴が呑気に寝てやがった。
時計を見ると夜中の3時だ。
首筋を触る・・・まだ絞められた感覚と襲った奴の香りが残ってるぜ。
襖に目を向けると・・・畜生っ!、ちょっとだけ開いてやがる!。
「おい昴!、起きろ!」
俺は隣に寝てる昴を揺すって起こそうとしたが起きねぇ!。
ぺちぺち!
「起きろって言ってるだろ!」
頬を張り倒しても起きねぇぞ、こいつどれだけ熟睡してんだよ!。
あまりに起きねぇから死んでんじゃないかと心配になって口元に手を当てると・・・。
「呼吸してるな・・・」
俺は起き上がって部屋の外に出た、廊下も薄気味悪いがこの部屋には居たくねぇし襖の向こうが怖過ぎる!。
向かった先は温泉の奥にある使用人休憩所・・・自販機の置いてある所だ。
所々に点いてる電球の明かりを頼りに誰も居ない屋敷の廊下を一人歩く・・・外はまだ雨が降ってるようで雨音がかすかに聞こえる。
・・・
・・・
数分歩いてようやく休憩所の近くに来た、廊下の向こうに灯ってる薄明かりがやけに頼もしい。
「・・・!」
休憩所に誰か居る、古めかしいテーブルが4つ並んでる一番奥にメイド服を着た誰かがパイプ椅子に座ってた。
俺が入っても後ろを向いたままだ、もしかして幽霊か・・・と思ったがテーブルには缶ビール、こちらに背を向けているからまだ俺に気付いてない。
「あの・・・」
ビールを飲む幽霊なんて居ないだろう、そう思って声をかけると驚いたのかメイドちゃんの肩がビクッと跳ねた。
振り向いた少女と目が合う・・・知らねぇ顔だな。
立ち上がってお辞儀をするメイドちゃんの前には食いかけの弁当・・・どうやら食事中だったようだ。
「し・・・失礼しましたぁ、何か御用でしょうかお客様」
歳は10代後半か20代前半、長い黒髪を下ろしてるから後ろ姿を見て一瞬幽霊に見えたが切れ長の目に薄い唇・・・可愛いというより美人な子だ。
「いや、眠れないから何か飲もうと思って・・・ここに来たら君が居た」
嘘をついた、俺と同年代でしかも初対面の子に幽霊が出て首を絞められたから怖くて逃げてきたなんて言える筈もねぇ!。
「そうなのですか・・・あ、私はすっごーく遅いお夕食をいただいておりまして!」
「夕食?、夜食じゃなくて?、あと三時間もすれば夜が明けるだろうに」
「あはは・・・うちのメイド長は人使いが荒くて」
メイドちゃんが首を少し傾げて苦笑すると頬に長い髪が垂れて顔に影を作る、雰囲気のある美女だから絵になってるが少し怖い、暗闇でいきなり出会ったら叫ぶ自信があるぞ!。
「確か桜陵って人だったよな」
「はいっ、メイド仲間からは鬼の桜陵と呼ばれておりましてー」
「ははっ・・・そうは見えねぇけどなぁ」
そんな会話を交わしながら俺は自販機に目を向ける・・・しまった、慌てて部屋を出たから財布を置いて来ちまった。
「・・・あ、いけね、財布忘れた」
「ふふーん、そんな慌て者のお客様に優しい私が奢ってあげましょう!」
メイドちゃんがニカッ!と笑いながら距離を詰めてきた、見た目と違ってこの子は社交的で明るい性格のようだ。
「え、いいの?」
「はいもちろんですっ、その代わりここでサボ・・・いえ、お弁当を食べていた事は内密に」
「今サボってたって言いかけたよな」
「気のせいですっ!」
ちゃりんっ
そう言って自販機に百円玉を投入するメイドちゃん・・・俺のすぐ横に来たから甘くていい香りがする、それに顔が近い!。
「さぁさぁ遠慮なくお好きなものをどうぞー・・・あ、この緑の炭酸はおすすめですよ!」
百円でどうしてそんなに偉そうにできるのかと呆れながら自販機を見た、怪しいイラストの書かれた炭酸飲料がある。
「ならそうしようか」
既に缶ビール3本開けたから今は酒って気分じゃない、俺は勧められた炭酸飲料を選んだ。
ぽちー
がこんっ
プシ・・・
ごっごっ・・・
勧められて飲んだ怪しい炭酸飲料は異様に甘かった!。
「げふっ!・・・えふっ!、何だこりゃ!」
「わーい、引っかかったぁ!、それは私たち使用人の間で超絶不味くて不評なやつなのですっ!」
そう言って貧相な胸の前で手を叩いて微笑むメイド・・・。
こいつ・・・見た目はクールビューティって感じなのにいい性格してんじゃねぇか!。
・・・
・・・
「じゃぁまたな、ジュースありがとよ」
「あはは・・・ではお休みなさいませお客様っ」
俺はそう言って休憩所を出た、結局この気さくなメイドちゃんと30分ほど話し込んじまった。
毎日雨が降って気が滅入る、メイド長に怒られた、押翼のおっさんは時々お菓子をくれる・・・主にメイドちゃんの愚痴や世間話だったが・・・。
おかげで色々と情報を仕入れる事ができたし部屋で体験した恐怖が随分と薄れた、それから猛烈に眠くなってきた。
「あ・・・名前聞いてねぇな」
弁当の残りを食いながら向こうが畳み掛けるように喋って俺が相槌をうつ・・・話も面白かった、だがお互い自己紹介もしていない。
半分以上残ったクソまずい炭酸飲料はメイドちゃんが処理してくれた、間接キスになるがそんなの気にしない性格なのだろう。
「ま、今度会った時にでも聞けばいいだろ」
秋間ちゃんは俺の好みのド真ん中で本命だ、戸内ちゃんは妹的な感じであのメイドちゃんは一緒にいて面白い友人枠か・・・何で俺は薄気味悪い屋敷でギャルゲーみたいな状況になってんだよ?。
・・・
・・・
「・・・っ!」
上機嫌で部屋に戻った俺は言葉を失った。
豆電球がついてるから部屋は薄明るいが・・・この部屋を出る前に何者かによって絞められた襖がまた少し開いてやがる!。
メイドちゃんとの楽しい会話で忘れてた恐怖がまた蘇る、身体はすっかり冷えちまって今はむしろ寒いくらいだ。
凄ぇ怖いが隣の様子が気になり過ぎて眠れねぇ!・・・俺は蛍光灯をつけ、勇気を出して隣の部屋に繋がる襖を開けた。
「うぉぉぉ!」
ぱたんっ!
俺は叫んで襖を閉めた!。
隣には何も無い筈だったのに部屋の隅にあの薄気味悪い人形が置いてあった!。
襖が勝手に閉まった時にちらりと見えた赤いものは人形の服だろう、だが普通に考えて人形が動いて襖を閉めるか?、ありえねぇ!。
「だっ・・・誰かの悪戯だ、俺を怖がらせようとしてるんだろ!」
そうだ、あの当主・・・俺が昴の恋人に相応しいか試してやがるんだ!、そうに違いねぇ!。
「こっ・・・怖くねぇからな!」
俺は布団に潜り込んで・・・疲れと猛烈な睡魔に襲われすぐに寝ちまったようだ。
・・・
・・・
朝目が覚めると昴が居なかった、布団を触ると暖かいから出て行ってまだそんなに時間が経ってないだろう。
しばらくすると昴が部屋に戻ってきた、便所に行ってたらしい・・・渡り廊下に斗織を襲った黒猫がまた出たようだ。
「使用人の人達が追い払ってくれるって」
そんな事を話しているうちに朝飯の時間になり秋間ちゃん達が膳を部屋に運んできて昴と一緒に食った、もちろん美味かったぜ!。
昴によると明日の夜に俺たちを歓迎する宴が開かれるようだ、邪魔神大明神を祀る神社にお参りしたあと何処かの家で宴会をするらしい。
正直面倒臭いが秋間ちゃんの話だと美味い料理や酒が振る舞われるそうだ。
食後に軽く動きたくなったから昴と一緒に屋敷の中を歩き回った。
もしかして夜明け前に話をしたメイドちゃんに会えるかと少し期待したが居なかった、一晩中起きてたようだから今頃は寝てるのかもしれねぇな。
「本当に腹立つくらいでかい屋敷だな」
「そうだねー」
昴もまだ屋敷の中で迷うようだ、俺達の部屋に戻ろうとしてるが辿り着けない、もちろん俺もクソ広い屋敷の間取りをまだ覚えられねぇ!。
「おっ、風呂のところに出たな、歩き回るのも飽きたし俺はちょっと入ってくる」
ここの温泉は村人にも開放されてるからタオルや石鹸も備え付けられていて有料で貸し出してもらえるようだ、俺や昴は客だからもちろん無料で使える。
俺は広い脱衣所に入り棚に置かれてるタオルと桶を持って朝風呂を楽しむ事にした。
・・・
・・・
「今日も退屈な1日だったな」
「そうだねー」
風呂から出て昼になり、昼飯を食った後は部屋で昴とまったりしてたら夜になった、もちろん昼飯や当主と一緒に食った晩飯も超美味かった!。
当主の話だと斗織の奴は無事に東京へ帰ったそうだ、特におかしな様子は無いみたいだから昨日電話で感じた違和感は気のせいだろう。
「・・・」
明日は昼から邪魔神神社に集まってその後は昴を歓迎する宴が開かれる事になっている。
またクソ長い石段を登るのか!・・・そう思ってたら遠回りにはなるが裏の山を大きく迂回して車が使える道があるらしい。
「使用人さんが神社まで車を出してくれるって」
布団に寝転んで雑誌を読んでいる昴が明日の段取りを尋ねた俺に答える。
「そうか、あの石段を登らなくてもいいなら問題ねぇな」
「うん、あれを登るのはキツいよね」
平然と会話する昴を眺めながら俺は憂鬱だ、また今夜襖が開くんじゃねぇだろうな・・・。
「なぁ、隣の部屋に人形があるだろ」
俺はさりげなく昴に話を振った。
「うん、あるね、いつの間に置いたのかな?」
昴も人形がある事は知ってたのか・・・。
「・・・」
「あ、もうこんな時間だ、当主様に呼ばれてるから行ってくるね」
そう言って立ち上がる昴に俺は恥を忍んで頼む。
「おい・・・」
「何?」
「あの人形をどこかに移して貰えるように頼めねぇか」
「そうだね、確かに気味が悪いし・・・当主様に言ってみるね」
「あぁ、頼む」
よし、これで今夜から安眠できるぞ!、部屋を出ていく昴を見送り俺も財布と雑誌を数冊持って立ち上がる。
「昴が戻って来るまで使用人の休憩所で時間潰すか・・・」
べ・・・別にこの部屋で一人きりが怖いわけじゃねぇからな!。
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