第〇〇八三話 ミツ◆襲い来る暗黒街の無法集団
午後にはミツも、キャディ仕事にずいぶん慣れ、狙区画のライン読みも始めた。ミツのライン読みには、先ほど聞いたハツナの能力を借りる。プレーヤーには、だいたいこうと思った場所に向かって打たせ、外れたらハツナに時間を戻してもらい、その分修正して再挑戦だ。ミツは何度もやっているが、実際のかかった時間は短縮され、ゲームのスピードは上がっていった。昼食時に別の袋ももらっておいたので、ロスト集めにも余念がない。九番目が終わったときには、集めた芝球が五十個を越していた。
ラゴンも、マーガレッタという人間が授けてくれた体術が功を奏したようで、左打ちをすぐにマスターできる。左右とも長さの調整や体を動かす際の違和感がほぼ無くなったようだ。その後、おそらくラゴンの自律に任せたようで、ラーゴの意識はここにないのが感じられた。もしも緊急事態を察知したときは、早めに自分が呼び出したほうがいいかも知れない。
こうして無事十ホールを回って、ミツも貴族の二人といろいろ情報交換もできたと思う。無口ながらラゴンも、まあまあ気に入られているようだ。
「ラゴン、今度うちの領地でもぜひやらないか。来てくれたら歓迎するよ」
「いや、最初はどうなることかと思ったが、最後の三回くらいはわしよりいい感じで終わったよの。また手合わせ願いたいところじゃ」
再度、初めの屋敷でお酒を飲みながら盛り上がった。もちろん未成年ぽいラゴンは、遠慮して果実水をいただいている。
「ラゴン、貴族の係累にはなりたくないか?」
「こりゃ、ユジュフ男爵、ラゴンとミツにはその話は禁止じゃと申しただろう」
「いや、私の侍妾と言ってるわけではないぞ。うちの係累のだれかにミツが嫁いでくれたら、私の経営している高原球技場をまかせてもいいと‥‥」
「すいません。わたし、まだそんな‥‥」
どうお断りすればいいのだろう。困ってしまったが、タオは横から『大事な預かりものだ』とか口をはさみ、なんとかうやむやにしてくれた。タオによれば、王都の女性なら成人を迎えると、ほどなく結婚の手続きに入るのが当たり前。目立つ少女は成人前にも婚約の声がかかり、適齢期を過ぎて売れ残りはしないものだと云う。自然男のほうから見れば、いい女は早く見つけて手を打たないといけないようだ。そういった話を切り出したタオも、田舎では成人とかにかかわらず結婚手続きになるはずだが ── と言い始めて言葉に詰まる。貴族の二人も、微妙な面持ちでその話はかき消えた。今までは、おそらくミツのバランスの悪い見た目でそうならなかった、と見られたのだろう。ゼントセン卿の心を読むと、『たしかにこの娘がいくら美人でも、顔は父親に似た黒目黒髪の子が、生まれたらどうしようもないな』。などと、軽々に結婚を口にしたことは後悔していた。
ちなみに経営が貴族といっても、運営はタオの組織によってまかなわれるものらしい。ゼントセン卿は、ミツに自分が回るときのキャディをしてほしいだけではないだろうか。
「今日は、本当にたくさんロストを見つけてもらったな。キャディ仕事の給金とは別に、ご褒美としてこの芝球を持って帰ってくれ」
ざっと三十個、かなりきれいなものばかりを選んである。それを目土袋に使うための新品の袋に入れ、タオがプレゼントしてくれた。聞けば、そこそこの魔法道具程度に高価なものらしいと知り、大事にいただいて膝の上に置く。
しかしどこで使えるというのだろうと、ミツは首をひねらざるをえない。高原球技のできる人口は国内でも限られているようだし、高原球技場も多くはないだろう。希少価値から高価に見えても、買ってくれる人も希少であり、相手を探すのに苦労しそうな代物ではないのだろうか。
そうこう言っているうち、そろそろお別れの時間となった。貴族の二つの鹿車を、高原球技場で働く者が総出でお見送りをする。モンスターの見張りと高原球技場全域の整備に加え、掃除や事務所建物に全部で十名ほどの人間がいるようだ。しかし雑用をするには、無用に屈強なものばかりをそろえすぎているというのは言い過ぎではない。
もちろんタオも送り出す側なので、自然と王都へ帰る足のないラゴンとミツも見送った。そしてみんなで、元の建物に戻る。
貴族たちが行ってしまった途端、タオたちの様子は険しさを増しているようだ。その様子から、高原球技場の周りに百里眼を走らせて状況を把握した後ラゴンの状態も確認し、緊急連絡をラーゴに送るミツ。
{主様、そろそろお時間のようですが ──}
「さあカミヤ、ラゴンたちを早く、街まで連れて帰ってやるんだ。ついでに王都に入ったら、身分証の発行をしてやってくれ」
「タオさん、俺はここを離れるわけにはいかねえよ。だれか他の者に、言いつけてくれねえか」
玄関口で二人がもめているところへ、ラゴンが割り込んで口を開いた。おそらくラーゴが、こちらに意識を向けたのだろう。
「ボクは・大丈夫。ミツも」
「いや、ここは今から危ねえんじゃ。素人さんに、ケガさせるわけにはいかねぇ。今のうちに帰ってくれ。カミヤが嫌がってるんで、だれか他の者に‥‥」
そういっているとき、一人の若い従業員が走りこんでくる。
「駄目だ、カミヤさん。すっかり囲まれてる」
「なにい! しっかり見張っとけと‥‥」
すると、門の向こうから人影が幾つか見えた。それと同時に、数人が高い壁を飛び越えてくる。門から続々と入ってくる人数もあわせると、四十人にも上るかと思われた。中には、宿に乱入してきたモモハデたち悪漢も隠し持ってきた、魔法銃とかいう飛び道具を持つ者も何人かいるようだ。そうでなくとも、それぞれが長剣、槍、大斧のような、殺傷能力の高い武器を装備している。
「またぞろぞろと、湧いて出やがったな!」
カミヤがはいて捨てるように叫ぶと、敵側の先頭に立った男が言った。
「これでもシンジケートのほうの主力は、ほとんど手伝いがなかったんだぜ。しかし昨日死人まで出てるってえのに、集めたのはこの程度かよ」
タオはどこに隠していたのか、鋭い短剣を抜いて身構える。他の者たちも、タオの周りに獲物を持って集まってきた。カミヤも、長めの鉄棒を構えている。タオはラゴンとミツに、目配せしながら叫んだ。
「逃げろ、お主らを巻き込むわけにはいかん!」
果敢に立ち向かおうとするカミヤ、タオそして十人たらずの手下だが、圧倒的に人数の少ないのは否めない。ラゴンはタオににっこりと微笑み、いままでと打って変わったように流暢に言いはなった。
「いやですよ、タオさん。ちゃんと身分証をもらえるまでは」




