第〇〇八一話 ミツ◆進行に気遣うチートプレイ
ほんの一瞬ミツが物思いにふけって気を抜いたとき、タオの二打目が五十ヤドほど向こうの雑木林につっこんだ。雑草が生い茂ったところで、入った場所はかなり深い。
「アーッ、やっちまった」
「わたし、探してきます」
ミツは走って雑木林に入り、すぐにタオの芝球を発見した。正確には雑木林の中でも、タオの打った芝球は見失ってはいない。しかしそのあたりには、八つ以上の芝球が転がる。タオが今まで使っていたのはすぐに特定できたが、残りも同じようにしか見えない芝球だ。それをそのまま伝えていいものか思案し、ミツは八つとも抱えて持って来てしまった。後からついてきたタオが見とがめて大声で叫ぶ。
「ミツ、それは動かしちゃダメなんじゃー」
「あー、かまわんじゃないか。どうせそんな中から打てはせん。タオ、一点払ってここから打てばいい」
キントリイ卿がそう言い、ミツはタオに謝って雑木林の中で、芝球がどのあたりにあったかを伝えた。タオは納得して、林の外から打ちなおすようだ。他の芝球はどうしようか尋ねると、ミツが持って行ってほしいと言われてさらに荷物が増える。ウイプリーの腕力からは大した重いものではないが、芝球七個はかさばるので、目土袋に放り込みまた歩き出した。
「しかし芝球探しがうまいのう、ミツは。それだけでも、優秀なキャディじゃ」
「はい、田舎では鳥の卵、探すの得意でしたから!」
もちろん、作り話である。魔族は農業や牧畜、 ── つまり養鶏などはしないのだ。だからユーダに頼まれて、野鳥の巣に卵を取りに行ったことはあった。そのとき南国の田舎では、飛ばない鳥が飼育され、これに卵を産ませたり、鶏肉を食べたりすると教えてもらったものである。この北国でやっているのかどうかわからないが、そんな知識でもなければ、こんな作り話も出てはこなかっただろう。
「旗まで、五十五ヤドです」
本当は五十六ヤドと半分少々あるのだが、そこは五単位や十単位でよいとラゴンに指示されたため、アバウトに言っておく。その程度ならウイプリー本来の十里眼と、勘でも十分対応可能だ。
次の三打目がけた外れの速度を維持したまま、五十ヤドほど向こうの狙区画の上を越える。さらに向こうにある林に突っ込んで行こうとして、ゼントセン卿が叫び声をあげた。
「アーッ!」
たしかその向こうへ飛ぶと、モンスターのいる草原エリアまで転がって行きそうだ。ミツはとっさに、林の表面が覆える結界を張った。芝球は枝に引っかかったかのように、勢いを失ってそのまま下へ転がる。ついでに着地寸前に、サイキックでこちらへ飛ばしてみた。
枝に引っかかって落ち、木の根っこに当たって戻った感じをうまく出せ、そのまま旗の立つ狙区画近くまで転がって来る芝球。
「ナイスじゃ」
「いやー、自分ながら狙ったようですな」
「まぐれじゃまぐれ」
最後まで、狙区画に乗っていなかったのはラゴンだった。残り四十ヤドほどのところを、慎重に打つ。そのとき、ミツは気がついた。打とうとする瞬間、ヤヤが力を発動させたのが解る。きっとラゴンだけが、スローな時間の中で動いているということだ。そして振りかぶって振り下ろすまでに、シャフトとロフトが本のページをめくるようなスピードで、パラパラと変わっていった。
(なぜ打ってる最中に変えるの?)
他の三人は振りかぶる前に距離と方向を確認し、振り上げる直前にはそれらを固定する。しかしラゴンのそれは、目まぐるしく動いているのだ。芝球に打撃匙が当たったと思うと、きれいな放物線を描いて狙穴に向かって飛んで行く。
『かつーん』
高い音が響くと、いったん狙穴に入った芝球が、飛び出してきた。
「おおーっ!」
三人が同時に、似たような声を上げる。すごいという感嘆と残念な気持ちが、入り混じった微妙な声だ。
「惜しかったのぉ、あまりに勢いが良すぎて跳ね返ったようじゃ」
「いやあ、あんなにナイスなアプローチだったのに、悔しいだろう。だがラゴン、きみは筋がいいんじゃないかな」
「ありゃあ、狙穴の底板が悪かったな。すまん」
いろいろな声を掛けられ、ラゴンは頭をかいて笑っている。
(あれは主様がはった結界)
ミツは芝球が狙穴に入る前、その上に張られた結界にあたって、跳ね返したのを百里眼で見ていた。なぜそんなことをしたのかわからないが、ラゴンの思った通りに動いたというのは間違いない。それぞれの芝球が狙穴の近くに転がったため、また狙区画が簡単だったらしく、そのコースはすぐに終わった。
ミツはラゴンの、アプローチショットに疑問を持つ。けっこう正確になって来たラゴンの打球が、せっかく四十ヤドのアプローチに成功し、狙穴に飛び込んだのだ。だが ── おそらくラゴンの張った結界で ── 狙穴インせずはじき出されてしまった。
次のスタートへ歩くとき、今の仕業に対してラゴンに問うと ──
{実はズルをやったらそのまま思い通りのところへ飛んだので、あわてて入らないようにしたんだ}
── と返ってきた。
{ズルですか?}
{前に千里眼には、未来のモノの動きが予測できる力が、あるらしいって聞いていた。それで打撃匙を振り下ろし始めてから、芝球の移動軌跡を確認すれば、どこに落ちるかわかるんだよ。そのとき少しずつロフトや長さを変更すれば、思ったところに落とすことができるんだ。これは計算じゃなくて、本当の未来なのさ}
それは『予知』ではない『予測』にすぎないものの、現状を自分が変えることで、変化した未来も見えるらしい。だから打撃匙を振り下ろしながら、一番いいところに落ちるまで、調整を続けているのだそうだ。
{すごい ──}
{でもそんなことしてたら打つのがどんどん遅くなるから、構えて振り下ろすまでに一番いい処に近づけて行くんだ。その時間をヤヤに稼いでもらっていたわけ。まあいうと、全部ズルでしょ}
そういう経験があるのかと聞くと、とくにないように言いながら、心に『みんゴル』というワードが浮かんだのが見えた。しかし、それが何を意味しているのかまでは分からない。ただこの練習も、なにかあったときに活用するための、訓練と考えてやっているようだ。
{でも、すごいことができるんですね。それじゃわたしも、ズルしちゃいました}
何の話かと聞かれたので、ゼントセン卿がオーバーした芝球を止めたと伝えておく。すると今日は早めに帰してあげたいから、進行が遅れないよう、助けるほうがいい、とお許しをいただけた。
千里眼の能力がないミツには、ただの勘に過ぎないとはいえ、たしかにだんだんと不穏な暗雲がかかり始めているようだ。自然、ズルといわれたミツの手助けにも余念がない。
池ポチャしかけたトップ球は、水切り石のようにはね、陸に上がって行く。砲台狙区画を狙ってオーバーし、狙際砂風呂に落ちたとキントレイが頭を抱えた芝球も、登るとなんとかエッジで止まっていた。しかもコースを重ねるにつれて、タオたちがそれぞれの腕やクセで、次に打ちやすい場所が密にも分かってくる。もし高く舞い上がった芝球が、上空でやや不自然にコースを変えるのに気付いても、風のせいだと思ってもらえると有り難い。
そうする間も、いままでだれにも見つけられずに捨て置かれてきた、ラゴンはロストと呼ぶ芝球がどんどんたまって来た。ついに狙穴が五回目ともなると、発見しすぎて持ちきれなくなる。その後コースがそういう形なのだろう。うまく最初の建物に戻ってきて、早めの昼食となった。
「いやあ、きょうは調子がいいよ」
「芝球が一つも、無くならんしな。ミツのおかげじゃ」
「できれば、ずっと働いてくれんかな。客が増えると思うんじゃが」
この評価にはボールの発見だけではなく、細かいサイキックや結界で気持ちよく回れたごまかしが加わっているに違いない。それは今回、貴族たちの御身安全のためでもあるから、勘弁してもらおう。サイキックは別にして、この程度の仕事で身分証がもらえるなら、親衛隊のみんなも交代で働かせればどうだろうか。
そんなふうにミツは考えた。
ラゴンはおなかがすいていないから、後でいただくと言って遠慮したが、ミツも着座して五人で昼食となる。パンで野菜や鶏肉を挟んだ主食と、つぶしたイモに味付けしたおかずが中心の王国定番ランチを、手早くたいらげたらまた出発だ。
「これ・左打ちもできる?」
タオにラゴンが尋ねた。
「できるが、今それで全然問題ないじゃろう。もしかして、ラゴンは左利きなのか?」
ラゴンは左右両方の打ち方を試すことで、身体のバランスを正そうとしているのだ。それ以外の調整は背の高さ、手の長さ、足の長さ、身体の厚み、胸の有り無しなどについて、ほぼ修正は終わったらしい。
そのころ種族間感応通信で、クラサビから全員に連絡が入る。もしラーゴに連絡したければ、ナオコ経由で精神感応通信が、ウイプリー全員に使えるようになったというお知らせだった。ただしルールがないので、この告知は今のところ親衛隊に限られているらしい。
ラーゴにできるとは、すなわち一緒にいるラゴンにも可能、という意味であろうか。ミツはラゴンに了解を取り、試しに種族間感応通信での交信もやってみる。もちろん、ミツとしては勝手知ったる同族通信で、ナオコにつながるラーゴへつなげた。
{これでも話せるのですね}
{うん、今そうできるようになったんだよ。でもボクのほうからは繋げないので、必要があったり合図を送ったりしたときは、みんなから繋いできてほしいんだ}
ラゴンから見られているミツは、うなずいて了解する。ちなみに複数人が同時に繋いできた場合にラーゴが発信すると、つながった全員がラーゴの声を聴いてしまうらしかった。




