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第〇〇七五話 ミツ◆極道の品格

 挿絵(By みてみん)

 お兄さん大好き宣言を行なったミツに、少し(あき)れたタオとの会話が途切れる。そこへいままで控えめにしか声を上げなかったラゴンが、打ち合わせにない発言をした。

「ところで・タオさん」

「なんだい?」

 話しにくいと思われるにもかかわらず、ラゴンがなおも語り続けるのを、ミツは興味津々(きょうみしんしん)に注視する。

「プラトー・シャールって・どんな・スポーツですか?」

「おう。さすがに、田舎者はしらねえか? 高原球技(プラトーシャール)ってえのは、皇国のほうから渡ってきた遊びでな‥‥」

 タオは、道具を出してきて説明した。しゃもじをまげたというか、スモーキングパイプを大きくしたようなものだ。


 それからしばらくは、高原球技(プラトーシャール)の説明会になった。初めはミツ同様、知らない様子で聞いていたラゴン。だが自分の記憶にある、── ゴルフと称したはずの ── 別のスポーツと、同じようなものだとわかったようで話は弾んで行く。

 ミツも興味津々(きょうみしんしん)のようなフリをしてみせたが、残念ながら女の子には、キャディという従者の役まわりしかないようだ。貴族が、年間通じて遊ぶ方法として、狩りの代わりに外国で考え出し、輸入されたものらしい。そのために(かね)をかけて、緩衝地帯(ボーダーズ)に至る道さえも整備されていた。

 そこで働いたということにすれば、タオが自分の組織の所属で身分証を発行できると云う話になった後、ラゴンが口を開く。

「やって・みたい。得意じゃ・ない・けど」

「やってみるかラゴン。いや実を言うと、高原球技(プラトーシャール)は四人で回るものじゃが ── 。今朝、(わし)以外に三人の貴族が集まるはずだったのに、突然一人欠員ができての。大事な客が来るので、出かけられなくなったそうじゃ。魔王の襲撃騒ぎが落ち着いたので、やっと高原球技(プラトーシャール)ができるようになった、と楽しみにされておったのじゃが ── 。おい、カミヤ! お前、やらずに済みそうじゃぞ」

「本当かい、タオさん。助かったぜ。知っての通り俺の球は、どこへ行くかわからねえんだ。草原エリア(ゲバラゾーネ)のほうに飛んで行ったら、俺一人芝球(シャール)を拾いに走らなきゃならねえなんて、とんでもねえからな」


 その事情を前もって千里眼(プレビジオニス)で読んでいたのか、ラゴンの提案はスムーズに通っていく。だがミツにはラゴンの意図するところを読めなかった。疑問に思っていると ──

{この身体(からだ)を動かして調整したいんだ。それともしかしたら、その最中とかでボクたちの力が必要になるかも知れない}

 ラゴンは、ベッドルームで長さが足りなかったという、アクシデントがあったことを言っているようだ。だが依然、『力が必要になる』理由は分からなかった。


「ルール・教えて・くれる?」

「もちろんじゃ! じゃ、じゃあ今日は男だけでやるつもりだったが、お嬢ちゃん。お(ぬし)は水と砂をぶら()げて、いっしょに回ってくれるか? 体験バイトの、キャディってことでじゃ。貴族ども、こんなかわいいキャディがいると知ったら、もう十ホールしたいと言い出すかも知れん。‥‥いやいや、今日はダメじゃだめじゃ。困ったお客が来るかも‥‥」 タオはちらっと二人を見る。表層意識を覗くと、心配したことが見えて驚くミツ。ラゴンと顔を見合わせるがすでに気づいていたようで、ようやくミツにも『必要になる』意味が解ったような気がした。「そう、来たら来たときのことじゃ‥‥」



 それからタオは、『(わし)もお主たちの年頃にはムチャをした』などと、昔話に花を咲かせる。ミツも話には聞いていたが、王国も先王の時代には、かなりごたごたも絶えなかったらしい。

 この時期、王都の治安は最悪で、衛士(えじ)のモラルも腐敗弱体化しており、街は自警団を作って外部からの野盗侵攻などに備えたと云う。

 タオは若いころその立ち上げを先導したり、(いち)の正常運営に力を割いたりしてきた王都の貢献者のようだ。横から話に入ってくるカミヤの言葉にも、それは十分感じられた。


 タオには北の共和国と唯一、公けに貿易が認められた王都の飛び地で、港の貿易に関して請け負ってきた仕事がある。危険な輸入品の積み降ろしや、外国からやってくる無法者に対し、侵入を防止する組織の構築だ。

 あわせて入国した諸国を回る多くの旅芸人と知り合い、国内の移動時に野盗やモンスターから守るなど、興行(こうぎょう)を支援してきたと語った。

 そんな仕事柄、モンスターからうまく逃げるとか、寄せ付けない技術はかかせない。そのうち腕を買われて、貴族や商人の都市間移動の守りに就いたことから、高原球技(プラトーシャール)の付き合いをするようになる。

 こうした上流階級との付き合いを活かして、緩衝地帯(ボーダーズ)の管理権を獲得。モンスター対応の難しさに、後継者のなかった開発者から譲り受けた高原球技(プラトーシャール)の経営にまで着手する。そんな多彩な実業家ぶりを披露してきたらしい。


「とは言っても、何しろ危ない仕事がけっこうあるからな。血の気の多いやつばかりが集まると、いろいろもめごとも起こったりするもんじゃ。それは仕方ない」

 体も張った用心棒的な仕事を受けるため、どうしても腕に自信を誇る人間を集める必要があった。だが街が平和になっていき、力がものを言う需要は減ってしまう。いつしかタオは、都市内で役人の嫌がる仕事の下請(したう)けにも手を広げたらしい。

 だがそんな汚れ仕事をしたがらず、血気に(はや)りやすい暴力的な者だけが派を作って、別の組織を作りあげる。それが本日、ラゴンたちを襲ってきた結社ユニトータという集団であると教えてくれた。

 彼らは独立してタオの組織に対抗し、同じような内容の仕事を請けて行こうと試みる。しかし長年世話になった昔馴染(むかしなじ)みと絶縁し、人気の悪い新参のユニトータに鞍替(くらが)えする顧客は少なかったらしい。

 そこでせめて王都から離れた港の仕事を独占せんと、国際マフィアの力を借り始め、以来犯罪専業集団への一途(いっと)をたどってきたようだ。


 タオは言う。

「道に外れた行ないをしちゃいけねぇ。(わし)たちはそれだけを思い、ご政道が大義を忘れかけた日にも、庶民を危険から守るような、まっとうな道をきわめてきたんだ」

 そんな話を交わすうち、鹿車は高原球技(プラトーシャール)場に到着した。

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