第〇〇六二話 千里眼持ちの面接の進め方
これから親衛隊選出の面接を控え、ラーゴは思う。
(─ クラサビはのりのりで、『うちの人』などと言っていたしな。イチャイチャ椅子の横くらい、座ってくれるだろう)
レオタードだと、そちらに『なんで?』 となるが、今の恰好ならそんな心配はないはずだ。エリートの反応を見る限り、それだけでもねじ曲がった根性が焙り出せるだろう。そんなことにも役立つクラサビは、これからも自分の近くにいてもらいたい。あまりに賢くて鋭いと、どんなことで見破られるかわからないという心配もあった。
そして、クラサビの下につけても、同族内で位階の低いクラサビに対する対抗心が大きすぎると、チームワークに問題が生じる。そういう点では、もともと番号の小さいものから選ぶ気などほとんどない。もっとも近くには、自分が血のある魔族という事実を知るクラサビにいてもらい、困った情報を隠させなければならないのだ。
それにクラサビは親しみやすいので、初めてできた屈託なくしゃべれる友だちのように気に入っている。上下関係とかわからないというか、気にならないふうだから、女友だちのようで付き合いやすい。
さて、引き継いだ記憶から、やった覚えがある気のする面接に入った。
対象者の能力は、今から自己アピールしようという、気が満々であることが功を奏して、表層意識を読むだけですべてわかる。
エリートが推薦してきた、クラサビの言う『推薦組』のほとんどが、対人間比魔力保持容積において文句の付けようもない。しかも知力、向上心、判断力などトータルの個体性能に優れていた。ウイプリーとして、そういうテストでも行なわれたのだろうか。
これをバランスよく、知力に長けたチームや攻撃力に秀でたチームなどに分ければ、およそ六人ずつの八チームに分類されるだろう。
これならほとんどだれを選んでも同じような、グループ分けが出来上がる。すべてを見てはいないが、違うのは見た目の方向性 ── エレガント、チャーミング、グラマー、コケティッシュ、スレンダー、セクシーといったところだ。エリートたちは、トカゲ相手になぜこんな選抜をしてきたのだろう?
たしかに一万も兵隊がいれば、個々の特殊能力よりも、平均的な能力が優等な者を集めるのが効率的かもしれない。いくさの兵であればそのほうが攻め易く、また守りよいかも知れないが、今作るのは二十人ほどの特殊部隊だ。
それにいつも、全員を飼育小屋に侍らしておく気はないし、適材適所に潜入したりして活躍してもらいたいと考えている。であればこそ、群としての優秀さよりも、個としての特異能力を重用したいのだ。多少の凸凹は、協力し合うことで埋めあってほしい。
チェックポイントは、人間に対する一般的な感情や仲間に対する意識、自分と波長が合うかといった点だ。なぜかこんな面接というものをやったらしき相続者の経験から、自信と安心感がわきあがってきた。
しかも、相手の会話テクニックやボキャブラリーには関係なく、うかんだ本心がすぐに見透かせる。スペックよりも性格で採用したいこちらからすると、断然有利な面接だと思えた。
「じゃあ、ナンバーの小さいほうから並んでちょうだい。一番から五番までの方、こちらへどうぞ」
案の定、クラサビをイチャイチャ椅子に座らせ、やや身体をもたせかけらせると反応がある。『驚き』『疑問』までは許容範囲内だが、『屈辱』も大きいものや、『敵対心』『粛正』『転覆』『地位奪取』などが浮かぶと、その時点で能力の如何にかかわらずダメとした。
クラサビによるとエリートから、魔王の二世によって行なわれる面接とは、大っぴらにバラしていないという。だが、どうやら彼女らは、裏で上からそうした情報を漏れ聞き、これに応じた対策を立てさせた受験者ばかりのようだ。
間違いなく、ラゴンを二世の変化した姿と信じている。だからクラサビのような、落ちこぼれが受ける寵愛を目の当たりにし、激しく反応してしまうようだった。
とにかく七十五人を、ざっと三分の一まで減らさないといけないのだから、後で揉めごとになる要素は、早々にカットしておきたい。
ラージナンバーと言われるクラサビに対しても、それほど露わな敵対心を見せなかったウイプリーたちは、一次チェックパスとした。クラサビに依頼して変身させ面接に入ってもらうと、まあ豪華な顔ぶれである。すぐ十人くらい並んでしまうが、こんなに世の中に美人はいるのかと驚くほどだ。
しかもクラサビもなかなか美人だとは思うものの、それをはるかにしのぐ完璧な美しさといえる。服装も装飾品も化粧も、それぞれの魅力にぴったりのものを身に着けていた。
それらは魔力によって、自分でコントロールできるとクラサビはいう。現在彼女らは欠乏気味の魔力を他の能力には向けず、ほとんどを見た目の調整のみに注ぎ込んできたらしい。つまり人間でいえば整形美女とか、化粧上手という類だ。みな同じ美形であれば、性格の良し悪しで選ばせてもらえばいいのだろう。
クラサビも、ここまでやるとは思ってなかったようにあきれていた。言外に自分の仲間はこれほどではないという牽制が読み取れたが、クラサビ級でも一般的には十分美人なのでそれ以上は必要ない。
(─ いや、こんな人並み外れた見かけじゃ、街も歩けないぞ)
面接の判定は、すこぶる簡単。人間に対する感情や戦闘に対するもの、仲間や弱者に対する気持ちが出てきそうな話をして、心に浮かんだことを読み取るだけだ。
たとえば命令と自分の身の安全確保、どちらかを選ばなければならないような、ケーススタディを行なう。すると口では『命令』をだれしも唱えるがその本性はそれぞれだった。
同じ身の安全を確保するのでも、仲間を踏み台にするような者はアウトを言い渡す。対人間比魔力保持容積や戦闘技能を尋ねる前に、転んだ子供が泣いていたらと質問しても動じず、弱者へ同情もない者はオミットだ。
その結果、クラサビの仲間という娘たちが並んで行くまでに、超絶美人軍団のほとんどが列に残れない。
(─ だいたい性格が見透かせる状態なので、どんなにきれいに作ってきても、本性が見えると無駄なんだよなぁ)
一方、クラサビグループとなる二十三人のほとんどは、秀でた攻撃能力のなさからか、クラサビ同様戦闘嫌いのようだ。口ごもりながら命令を重視しますと言いつつも、心では自分や仲間の消滅は避けたいという気持ちが、ありありと浮かぶ者ばかり。
一緒に並んだ推薦組の中には、ラージナンバーにあたる娘たちの面接回答を聞き、『軽蔑』『嘲弄』などの意識が漏れる者もあった。もちろん即刻退場いただく。
ひどいのは退場の際、とんでもない意識を見せた参加者もまざっていた。それは『あの間抜け女に媚びてまで、魔力を取り上げてきたのに失格かよ!』という内容で、裏には凄い競争や駆け引きがあるようだ。
別室から透視えないよう防いでおいたとはいえ、こんなことを続けると、戻った不合格者との情報交換が気になるところである。だがチェックしても、どうやらそういう対策はなされている様子はなかった。
どうも魔族なるものが、そんな助け合いはしないのか、どんどん同様の理由で失格して行く。あるいは先に落ちてくるのが順位高位者であるせいで、自分が不合格という判定にプライドが傷ついたためかも知れない。
(─ そういう魔族らしい常識も、記憶がとんじゃってるせいで分からないってツラいよね)
しかし、クラサビの仲間の娘たちは色とりどり、というかさまざまである。
最初の五十人 ── 数えていたので四十九しかいなかったはずだが ── いわゆる推薦組は一律クラサビより二、三歳上に見える年格好の、高身長で完璧なプロポーションばかりだった。
だがこの娘たちは、基本の対人間比魔力保持容積にかなりの制限があるようで、推薦組に比べ同年代にみえる娘でも身長が低い。身長だけでなく、年齢 ── といっても同じなのだろうから、見かけ年齢と呼ぶべきか ── もいろいろのようである。
成長はしないので、体を維持するための魔力消費は、子供の体型のほうが少なくてすむからだろうか。なんと赤ん坊までいた。
それら魔力に自信のない者ばかりで、あまり役に立たない生来固有能力を持ち寄り、片寄せあって生き残ってきたらしい。
生まれてすぐ、安定生活を求めてきた自分に重ね合わせ、同類相憐れんでしまう。そんな同情や、協力の気持ちを持っているというのは、この娘たちの長所だと思えた。
これは自分が備える、相続者の記憶に根付いたものに違いない。あるいは戦争が嫌いなヘタレばかりの環境に、生きた経験を引き継いでいるからではないだろうか。
とは言っても、例外はどんなところにも必ずあるもので、それはクラサビの仲間でも変わらない。特に5460番と6341番の二人は好戦的、あるいは人間に敵対心が大きいイレギュラーと判断し、申し訳ないが退場いただく。クラサビも想定の範囲だったらしく、とくに抵抗はないようだ。
こうして二十一人の親衛隊メンバーがほぼ決定したとき、一匹のカマールが少し開いた窓の、カーテンを押しのけて飛び込んできた。
「す、すいません ── 。場所がわからなくって‥‥」




