第〇〇六〇話 クラサビ◆親衛隊員のネーミング
「さあ、じゃあみんなに名前を付けてあげよう」
主様はそう言われると、番号の大きい順に考えられた名前を読み上げる。すでに、名前は決められていたようだ。
9644 : クロス
9350 : クミコ
9071 : クレナイ
9011 : クレイ
9001 : クオレ
8888 : ヤヤ
8831 : ハヤミ
8750 : ハナコ
8450 : ヤスコ
8411 : ヤヨイ
8277 : ハツナ
8121 : ハイジ
8004 : ヤチヨ
8000 : ハッチ
7750 : ナナコ
7531 : ナゴミ
7373 : ナミ
7266 : ナズム
7231 : ナツミ
7050 : ナオコ
7031 : ナオミ
そして ──
0032 : ミツ
二十二体のウイプリー、全員に名前がついた。
「じゃあこれからクラサビの指示で、キミたち二十三人はボク、といってもラーゴの親衛隊として働いてほしい」
全員、笑顔でうなずく。ミツは除き、いままで劣等生のレッテルを外せたためしのない娘たちが、初めて認められたのだ。自分がそうだったように、生まれてこのかた感じたことのない、湧き上がる意欲がその身を包んでいるのだろう。
クラサビは念のため、面接官について説明した。王城内にいる次代魔王が、王国と人間支配のための画策に務めながら仮の姿とするオートマトンで、ラゴンと名乗っているなどだ。
うすうすわかった話だと思うけれど、自分たちが誓いを捧げた相手が跡継ぎ様の傀儡ではない。ご本人の意思そのものであると披露すると、『親衛隊員』たちから歓声の声が上がった。だれもが魔王ガレノスの跡継ぎが、こんな丁寧な性格とは、よもや思っていなかったようだ。
クロスと名付けられたばかりの、まだまだ少女と呼ばれる年頃に見える仲間から、一言驚きの感想が漏れる。
「じゃあクラサビの話って、本当だったのね」
「何よ、信じてなかったの?」
「また、慌て者のあなたのことだから、何かの間違いだったって言って来るだろうと思ったのよ」
聞くところによると、実は仲間はだれ一人、今日の面接が二世によるものだとは信じていなかった。イケメンのラゴンと座る自分を見て、ほとんどの者が見た目で騙されたのか、とかわいそうに思ったらしい。だからだれも、嫉妬心など覚えなかったと云う。
なんて失礼なやつらだ、とプチ腹立たしいものの、逆にエリートたちは約束を守っていなかったようだ。ある程度の情報を持つせいで、高位順位者たちは憎悪の嵐になった、ということかも知れない。
まあ結果オーライなので、自分の評価はさておき、ここはこれからの話に移すようスルーして、大人の余裕を見せてやる。
「だからみんなには、ラゴンさまの体内に溜めて持ってきた、魔力たっぷりの優良な血液を吸って、十分働けるようになってもらうわ」
クラサビがカマールの状態で、吸血できる量から考えて二十五人くらい。そのあたりまでなら、魔王城にいたころ近くの魔力まで、戻すことができるだろう。
(ミツには、全然足りないだろうけどね)
それは仕方がない。対人間比換算魔力で×二~三ずつくらいの血液しか、二十五人に分けられないのだ。オートマトンの肺に移せた血液は、時間の関係もあり魔力換算値で二百二十程度のはずである。しかも移してから随分なるのと、ラゴンの稼働に使ったため、もっと減っているかも知れない。
「ちびっこ組はいいとして、他のみんなは残ってる魔力とあわせ、半分くらいで我慢してほしいの。ミツには悪いんだけど、 ── 五分の一くらいで止めといてくれるかな?」
「十分よ」
( ── そんなことないよね。あたいなら、三割くらい溜めないと人の姿にもなれないもの。いや、五分の一と言うと十三? そんなにあったら、あたいのフル以上か ──)
六十八なんて魔力は雲の上の話で、そんな持ち主と会ったこともない自分には計り知れない。
オートマトンには、魔力たっぷりの血液を肺の位置にある容器に充てんしてあった。クラサビは、ラゴンの舌下につけた血管が一本だけ伸びているので、そこから各自割り当て分だけ吸い出すよう指示を行なう。
だがもちろん、それが主様本人の血であるとは、あえて公開しないでおいた。
吸血の説明が終わり、当面のエネルギー源となる血液配分を始めようとすると、だれともなく文句が出る。
「 ── その方法って、みんなの見ている前では、ちょっと恥ずかしいわね」
「そうよねぇ」
仮の姿とはいえ、決して自分が忠誠を誓った主様と、キスの形をとるのがいやというわけではない。しかも現在、城内の主様が、おそらく忙しくなったのだろう。どうやらラゴンは自律モードのようだ。
つまり人形相手とはいえ、どんな顔をしてイケメンと接吻するのか、仲間から見られることには抵抗がある。そういう気持ちに違いない。かくいう自分だって、『目をつぶって』とお願いした口だ。その意向を汲んで、血液配分は奥のベッドルームにおいて行なわれることになった。
クラサビは、ベッドルームに戻されたウイプリーたちに、失格と伝えてねぎらいの言葉を掛け、スーツケースへと戻ってもらう。すでにベッドルームに入ってきていたラゴンが、スーツケースの中へ声をかけた。
「せっかく来てもらって残念だったけど、ほかの仕事も大事だから、いざというときまで英気を養って備えておいてね」
もちろん気位の高いゼロナンバー以上が、それだけで納得するわけはない。だが優等生が落ち、はぐれ者ばかりが当選するテストだった、という結果は知っているはずだ。
山より高いプライドを持つ彼女らにとって、そんなものに自分を投じる価値はないと切り替えが利くだろう。クラサビはそのように思い直して、それ以上は考えないことにした。
「後で、このままエリートたちのいる緩衝地帯に運ぶからね」
一声かけるとクラサビはケースを閉めて抱え、親衛隊メンバーが並ぶ部屋に戻る。入れ替わりに9644 ── クロスが、ラゴンの待つベッドルームに入って行くのは、けっこう妬けてしまうが仕方ない。
きっと目の前で他の娘にも舌を絡ませている、ラゴンの姿を見るよりいいだろう。いや実際には、そんな淫らな行為に耽るわけではない。だが主様 ── の分身 ── から個別に血液の施しを受けるのは、ウイプリーにとって特別な意味を感じる時間だ。
(それはあたいだけじゃない。みんなだって、自分だけ ── という時間がほしいだろうしね)




