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第〇〇五八話 クラサビ◆面接会場の劣等生と優等生

 面接が始まって十数分、ずっと様子を横から見ているクラサビは、呆気に取られてしまっていた。ゼロナンバーは魔力が多いだけではない。頭もよく向上心があって魔族(ディアボロス)として攻撃力も高度、しかも適応力も高かった。


 中には異常な攻撃力だけで、高位ナンバーを獲得した ── なんていうアンバランスな例外もいる。とはいえもちろん、そんな者は選抜されてこない。

 ほとんどは対人間比魔力保持容積(キャパシティ)もそれなりで、知力、向上心、判断力など、トータルの個体性能が優れた個体(モノ)。とくに自分や、仲間たちと比べてそう思われた。そんな優等生にどんな攻撃魔法が使えるかなど、一言もしゃべる(いとま)も与えず、主様はどんどんアウトにして行く。

(主様と同じソファの隣で、ラージナンバーのあたいなんかが座っているのを見たときの反応。つまり劣等者や目下の者が受ける寵愛に怒りを覚え、軽蔑や(ねた)みの、いわゆる悪意むき出しにする気位の高いやつ。そういうのはカマールのまま、待機室のベッドルームに返してしまうんだ)

 これにパスすると、クラサビの力を使って一時的に人間の姿に変える。ここでも変身させてもらって、謝辞の一つも出ない者は、あっという間もなく退場だ。


 一般的にウイプリーはだれでも、魔力さえあればどんな姿にも買われるはずだが、仲間には自力ではできない機能不全な例外もいる。だから何の役にも立たないと思ってきた能力とはいえ、役立っているなら誇らしい。

(─ そうだ、針の長いっていうのも、お役に立てたんだった)

 外皮の分厚いモンスターの血を吸う、それくらいしか役に立たなかった特徴だ。自分が一度道をつけた後は、吸いだしやすくなったと喜ばれはする。しかし魔王軍(ディアポロリウム)の中で、自分の評価を上げるのにほとんど役立たなかった。そんな特徴しかないことを、クラサビはこれまで恥ずかしく思ってきたのだ。

 最初は超優等生がずらっと並ぶと、さながら世界の美人コンテストの雰囲気さえ漂う。どこのお姫様よと思うやつや、水着かよという露出系のコスチュームのやつもいた。かき集めた魔力でしつらえたのだろう、もはやなりふりかまっているとは思えない。女の武器の、大安売りである。

 ちなみにクラサビのレオタードは、出兵前に、宴会のコンパニオン仕事で着ていたままのものだ。出兵時に与えられた、上半身を覆う軽装の革鎧(かわよろい)は、用意した魔族(ディアボロス)が魔力を消失したとき消えてしまった。


 クラサビは思う。

(そういう手があったんだ。苦労して、あたいの服を買う必要はなかったかな)

 一方、主様は『王都に暮らしてたら、人間ってどう見える?』とか、『王都でこんな子供を見たんだけど ── 』など、親衛隊とは関連なさそうな質問をした。そして反応が感じられたら、答えは聞くまでもなく、ベッドルームに戻す。主様は自分の(かん)(さわ)る感情を察知して、どんどん外していると思えた。クラサビは、主様が求める親衛隊員の基準を、おぼろげながら感じる。

 自分(クラサビ)と仲良く仕事ができそうか。仲間を大事にし、調和が重視でき、決まりも守れるか。ほかの知性体なら持っている情というものを認め、命ある者の大事さが理解可能か。相手の身になって考えられるか。他人の親切に感謝できるか。使命より、まず自分の安全をはかろうとするか。好戦的でないか? 弱い者をいたわる気持ちがあるか。他人の悲しい・(つら)い気持ちに共感し、喜びを共有できるか。清潔な環境を好み、ものを大事にするか。

(主様の心の中において、それぞれの項目にレートがあるようだけれど、自分は主様の評価で何番目くらいになるのかしら?)

 しかしなかなか、ここまで魔族(ディアボロス)らしくない要素を並べられては、優等生が残れる余地などないだろう。ゼロナンバー以上は、魔族(ディアボロス)としての能力重視で優先づけられているのだ。

 エリートが選んだ推薦者は、0500番までの五十体。その後、自分と心安い六千番以降の()たちの順序が回ってきた。ここまでが、国際的S級いい女のファッションショーだとしよう。対してここからは田舎の祭りででも開催された、B級カワイ子ちゃんの品評会かも知れない。

 だれが見ても、パーフェクトビューティーというポジションを狙った長身の、八頭身美形のゼロナンバー。比べると一定以下の魔力しか持たないラージナンバーは、クラサビも含め小柄が多かった。中には、少女や幼女もいる。


 しかもそれらの本質は魔族(ディアボロス)、あるいはウイプリーとしての能力に、一定値を満たしていないとされる者たち。つまるところ、対人間比魔力保持容積(キャパシティ)とその他いくつかのウイプリー標準の特殊能力において、偏りの大きい落ちこぼれだ。

 ほとんどが自分に自信がないため、腰抜けだの軟弱だのと嘲られてきた()たち。中でも一芸に秀でた()が集い、助け合ってなんとか生き残ろうとしたのがこの仲間といえるだろう。いわば弱い者同士、助け合い傷を嘗めあって生存してきた仲間だ。

 今なぜか主様が探す人材には、ほとんどの仲間が外れていない自信があった。あっという間に、次々と自分の仲間である、ウイプリー基準で劣等生のレッテルを貼られた()たちと、入れ替わって行く。優等生最後に思えた0081が消え、残すところ自分の仲間たち二十一人だけとなっていた。そんな彼女たちに、なお質疑を行なう主様の言葉端(ことばはし)から、感じられるのは満足感に違いない。

 これで、面接はめでたく終焉(しゅうえん)を迎えるのだ ── とクラサビは思った。



 そのときバタバタバタと、らしくない羽音がひびきわたる。そして一匹のウイプリー ── カマールが、カーテンを閉めていた窓から、分厚い布をも押しのけて飛び込んできた。

「す、すいません ── 。場所がわからなくって‥‥」

 そう言えばエリートから、推薦者と言ってきた数は五十体、いままで面接したのは四十九体だ。

「あなたはええと‥‥」

「遅れてすいません、0032番です」

(まあ、なんて超トップクラスの()がこんなタイミングで ──)

 副隊長レベルのさほど能力もない娘や、やや控えめな娘までアウトになったのだ。今頃飛び込んで来たところで、あなたのような優等生には浮かぶ瀬もない。いままで主様の選考基準を、横に並んでさんざん見てきた自分には、哀れとさえ思えてくる。

(しかも今入ってきたとき、あたいを見咎めてびっくりしたよね)

 きっとこんなやつがなんで主様の横に、って思ったのだろうと、直感するクラサビ。カマールの表情は読みにくいけれど、主様はそんなウイプリーを一人も列に並べなかった。

「いいよ、入れてあげて」

(え? なんで?)

 自分を見咎め、それでも面接の列に入れるなんて初めてだ。主様もさすがに数を見すぎて見落としたのかと思ったが、能力主義で戦闘狂な優位種など、どうせ結末は見えている。


 実は自分の仲間と言っても、中には人間を虫けらのように見る、好戦的な()もいた。すでにそういう()すら(ふるい)にかかってきたのだ。残りの劣等ウイプリーは、主様好みの平和主義というより戦闘嫌いで、人間の情などにすら理解があって惚れっぽい。考えようによっては享楽主義(きょうらくしゅぎ)でヘタレなウイプリーが、二十一体しか残されていなかった。

「もうそろそろ、終わってたんだけどね」

「す、すいません。わたしドンくさくって、えと、えと、うっかり場所をまちがえちゃったみたいで‥‥」

(あぁもうこりゃだめだわ、まともな言い訳もできない)

 そう思いながら0032を人の姿に変える。そして現れた姿や顔を見てひどく驚かされた。

「あなたー」

 ひどくやつれた様子だが、間違いなく自分の見知った顔だ。きっと、この娘も忘れてはいまい。

(でもあたいの記憶とは番号が違うわ。決して、詐称してるわけではないと思うけど ──)

 挿絵(By みてみん)


 いやその前に、この出で立ちはなんだ。

 優等生グループの衣装は貴族の娘が集まるドレスのショーか、王国にも昔はあったと聞く、高級娼館の飾り窓に立つ衣装。いや、そこまでとは言わないまでも、みんなそれなりにきめ、きちんとお化粧だってしてきた。

 自分の仲間でさえ、服は一張羅(いっちょうら)を張り込み、見た目第一でやっている。枯渇しかかった魔力をつぎ込み、化粧道具も手に入らない中、一度は人間に変身して身ぎれいにしてきたのだ。

 しかしこの娘ときたら ──

(いったい、何を考えているの!)

「めずらしいスタイルだね」

「あ、あ ── すいません、ちゃんとしてくればよかったんですけど、すいません。そういうもんだって知らなくって!」

(だめだ ── 終わったわ)

 0032は、人間の奴隷が着るよりもややこぎれいだけれど、色褪(いろあ)せた農作業着。()かしもしていない長い黒髪に、ましてや薄汚れたスッピンである。普通ウイプリーは美女しかいないはずだ。変身して顔でも洗ってくれば、黒髪黒目(プレナニグロ)で暗い感じの出で立ちでも少しはましだろうに。

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