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ゆるキモトカゲは分相応な夢を見る~ファンタジーな異世界は思い込みと勘違いでできたミステリー~ 1  作者: 哀岬 ふうか(Hoooka Aisaki)
第四章 思い違い篇 弐日目の夜間作業 後編
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第〇〇四二話 消滅する魔族(なかま)を救うため

「ああ、それはボクも賛成だよ。ボクはこのまま、ここでゆっくりしてたいもの」

「エーッ、‥‥そ、そうなの?」 9037の声が変わった。「だったら、嬉しいわ。あたい、よく尽くすタイプだって言われるの。そんな主様にだったら、魂から仕えちゃうわよ。だって嫌じゃない、殺ったりやられたりって殺伐としててさぁ」

「そうだ。平和がいいよね。ボクも9037さんの考え方、好きだよ」

「エーッ! でしょう! そうよねぇ! あたい好かれるもの、ホントは。ユーダもいい子だって言ってくれてたし。ウイプリーはたぶらかすほうが偉い、とかいうやつもいるけどさあ。あたいは好きな相手を、大切にするのがいいの」


 元気のない蚊のくせに、言うことだけしっかりなのは、屋上で会ったやつとそっくりだ。まあ、蚊に好きになられても、尽くされても困るので、だんだん話が弾んできたと判断し、いよいよ核心にせまる。

「で、ロノウエって大智者に会いたいと思うんだ、知恵を貸してもらいたいことがあってね。どこにいるかわかるかなぁ?」

「ウーン、あたいが知ってる情報では、まだ見つからないみたいよ。あたいたちは離れていても、ウイプリー同士の『種族間感応通信(ウィップライン)で、お互いに連絡が取りあえるんだ。見張り中も、さっき言った二十人とは暇だからよく連絡を取り合ってたけど、あたいたちまで回ってくる中に、そういう話はないみたい」

「そうかぁ」


 行方不明の支配者とやらが見つかり次第、もう探さないでいいという命令などが来るらしい。つまりまだ発見されてはいないのだろう。しかしなるほど、か弱い虫同士のテレパシーってありそうな気がした。

「けっこうな数で探しているんだけど、これだけ連絡が取れないってことは、消滅しちゃったんじゃないのかなぁって‥‥」

「え、そうなの?」

「い、いやいや、9352が言ってたのよ。あたいじゃないからね。ハァー。でも、どうするの? ロノウエさまに会って、やっぱぁ、王国再興を目指すのが筋よねぇ」

 ずいぶん疲れが戻ってきたのか、いささか怠惰そうな言い方になってきている。

「違うよ、実は知り合いのお兄さんが倒れててね、どうしたら治るか知らないかなぁって相談したいんだ」

「知り合いって、ここでの ── もしかすると人間?」

「うん」

「たかが人間を助けたいの? ロノウエさまが相談に乗るかしら? でも ── 主様のお知り合いじゃねぇ。絶対服従の縛りもあるし‥‥」


 自分こそ『たかが蚊』であり、聖泉(ホリフォンズ)で駆除されるくせに、言うことだけは偉そうだ。まあ屋上のやつなどは、話し方までどことなく気取って傲慢なふうだったから、こいつのしゃべり方ならまだましなのだが。

「でも、見つからないとしょうがないね。どこにもいないんでしょう?」

「すぐ見つかるわよ、主様が探せって言えば。今は、力もないし、(つぶ)されたら封滅(いのち)にかかわるから避けてるけど。いざとなったら封滅(いのち)を懸けて、何人かヒトの血を吸えば ──」

「いや、ごめん、封滅(いのち)までかけなくていいから ──」

 たとえ蚊、いやカマールではなくてウイプリーだったか。その程度の存在でも、こんなにコミュニケーションが取れるということは、友だちも家族もいるだろう。命を懸けてまで、探す必要はない。


「主様って、優しい方なのね。ぜぇ‥‥。ぜぇ‥‥」

「ど、どうしたの?」

 先ほどから、最初にもまして元気がないと思っていたが、元気どころか、病気でも患ったかのようにさえ思える。

「ぜぇ‥‥そ、それが、やっぱりダメみたいね。ここって‥‥聖域じゃん。あたいたちウイプリーも、結局は魔族(ディアボロス)だからね。‥‥机とかに染み込んでいる聖泉(ホリフォンズ)の忌避で、少しずつ、あたいの体が(むしば)まれてるのに、気が付かなかったわ。しかも、あたいたちの残存魔力じゃ、この忌避に、対抗できない。だから、あたいたちみたいな、役立たずの捨て駒を、見張りにさせたんだわ。あの野郎‥‥」

(─ なんだって! 魔族(ディアボロス)? ウイプリーは、魔族(ディアボロス)?)


「だ、大丈夫? どうしよう!」

 魔族(ディアボロス)ということはさておいて、まずは結界(オービチェ)を張り、机と隔離する。

「だ、だめよ、もう。どうしようも、ないわ。聖なる、忌避に、侵されたら、所詮、実態を持たない、魔族(ディアボロス)は、消えてしまうのよ。ありがとう‥‥、結界(オービチェ)を、張ってくれたのね。少しは楽だけど、もう‥‥どうしようも、‥‥ないわ」

 苦しい息の下から、魔族(ディアボロス)のカマールは声を絞り出しているが、今にも危なそうだ。

「薬とか、なにかないの?」

「お恐れ、ながら魔王、様ならほんの、少し魔力を、魔脈(ディアポラダー)、から分けて、もらえるなら、バリバリにも、なれるところだけど、無いもんね。ましてや、この姿、じゃ、たくさん魔力が、含まれた、血を吸いでもしない、限り、生き延びる、ことは、できないわ」

「人の血は? 冷血獣(ヘテロサム)なら、小屋にいるけど‥‥」

「たいした、魔力は、持たないと、おもう、けど ── これじゃ、もう、そこまで、飛ぶ力もないわ。あきら‥‥め‥‥て ──」

 いよいよ、こと切れそうである。どうすればいい? 自分の無知でこの蚊 ── 魔族(ディアボロス)だが、それ ── を殺してしまうのか?


(─ いや、魔族(ディアボロス)だからってあきらめられない。自分だって、同じ仲間(ディアボロス)なんだ!)

 そんな思考が魔族(ディアボロス)本来のあり方なのか、あるいは別の世界を生きた記憶の残滓(ざんし)なのかはわからない。ただ魔族(ディアボロス)とはいえ力無く消えかけている虫に、そうせずにはいられなかった。

「ちょっと待って! がんばってて!」

 自分の体は(うろこ)に覆われていて、おそらくだが、もう息も絶え絶えの蚊の針では、刺さりもしないだろう。しかもこの首輪をつけたままなら、自分は冷たい冷血獣(ヘテロサム)だ。そう考えたラーゴは、とっさに自分と9037の周りに結界(オービチェ)を張り、首輪を外す。同時に自分の中に、熱いものが湧き上がってくるのを感じた。

(─ これの正体が、こいつの言う、魔力を含んだ血であってくれ!)

 まだ自分は生まれたばかりで、祈る神を持たない身だ。しかしもしこの世界に神様がいるなら、だれでもいいから自分の目の前で消えかけている、小さな蚊の命をつないでいてくれと願う。


「な、にを‥‥してるの。無駄よ、‥‥上級、‥‥魔族(ディアボロス)には、‥‥血が、‥‥流れ、て、‥‥いない ──」

 マンガであれば、『ガーン』と頭の上に文字が出そうな9037の言葉ながら、血のたぎりに似たものは感じていた。もうこれにかけるしかないとラーゴは決断する。いつもは隠している右前足の指から爪を伸ばし、自分の口の中、もっとも柔らかそうな内あごの下のほうを刺した。

(─ 痛ぇ!)

 生まれて初めての感覚、痛みだ。とはいえ、便利な記憶にはあるので何ということはない。そして口の中で、少し塩辛いものが感じられた後、結界(オービチェ)ごと9037を口に含み、舌の下に追いやって結界(オービチェ)を解く。

 どうか、魔族(ディアボロス)の神様がうっかり、間違えて自分には血を流してくれていますように、と祈りながら。




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