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中身はおっさん、仲居はムチムチ ―霧乃湯繁盛記―  作者: らび


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8/10

鳳凰館の刺客

 ライバル旅館「鳳凰館」は、温泉街で一番の、大旅館だった。


 その女主人・鳳条院蘭子は、この街の温泉組合を、実質、牛耳る女傑だった。長年、霧乃湯を見下し、いずれ潰れて、土地を安く買い叩くつもりでいた。だが、その霧乃湯が、一人の仲居のせいで、急に息を吹き返した。蘭子は、それが、我慢ならなかった。


 最初の一手は、引き抜きだった。


 ある日、鳳凰館の使いが、俺のところに来て、破格の条件を、提示した。給金は、今の三倍。個室あり。「こまちさん、うちに来なさい。霧乃湯なんて、沈む船よ」と。


 俺は、即答した。


 「断る」


 使いは、面食らった。「な、なぜ。条件は、こちらのほうが、遥かに上ですよ」


 「金の問題じゃねえ」俺は言った。「俺を、行き倒れのときに、拾ってくれたのは、霧乃湯の女将だ。飯を食わせて、寝床をくれた。恩ってのは、金より、重い。それが、わからねえ旅館には、行かねえ」


 中身は、義理堅い、昭和のおっさんだ。恩を、金で、天秤にかけたりは、しない。使いは、俺の、あまりにきっぱりとした態度に、すごすごと、帰っていった。


 だが、蘭子は、諦めなかった。引き抜きが駄目なら、潰す。次の手は、悪質だった。


 「霧乃湯の仲居は、客に、いかがわしいサービスをしている」――そんな、根も葉もない噂を、温泉街に、流し始めたのだ。混浴での際どいサービス。枕営業まがいの接客。事実無根だが、こまちの「色っぽい」評判が、その噂に、妙な信憑性を、与えてしまった。


 噂は、広がった。霧乃湯は「いかがわしい旅館」というレッテルを、貼られかけた。健全な家族客が、遠のき始めた。女将は、青ざめた。


 「こまちさん……どうしましょう。このままじゃ、うち、変な旅館だって……」


 俺は、その噂を聞いて、静かに、言った。


 「……なるほどな。汚い手を使いやがる。だが、こういうのの、対処法は、知ってる」


 中身は、長年、世間の裏表を見てきた、おっさんだ。こういう、悪意ある噂の、潰し方も、心得ていた。


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