宴会の主役
繁盛してくると、大口の宴会も、入るようになった。
その夜は、地元の建設会社の、二十人の宴会。景気のいい、荒っぽい男たちだった。酒が進むほど、座は乱れ、下品な冗談が飛び交い、仲居に絡む客も出てきた。
案の定、酔った一人が、俺の手を、掴んだ。
「なあ、こまちちゃん。こっち来て、酌しろよ。もっと、近くで、な」
ぐいと、引き寄せられる。だが――俺は、動じなかった。掴まれた手を、逆に、がっちりと握り返し、にやりと笑った。
「おう、酌してほしいのか。いいぜ。だが、その前に」
俺は、その男の腕を、掴んだまま、ひょいと、立ち上がらせた。中身の、トラック運転手の腕力で。そして、酔って足元のおぼつかない男を、肩に、ひょいと担ぎ上げた。米俵でも担ぐみたいに、軽々と。
「あんた、飲みすぎだ。ちょっと、涼んでこい」
俺は、二十人の宴会客が唖然と見守る中、酔客を担いで、露天風呂の脇まで運び、そこの椅子に、どさっと下ろした。その、力強くも、しなやかな身のこなし。担がれた男は、間近に感じる、こまちの、柔らかな身体と、いい匂いに、酔いも吹き飛んで、真っ赤になっていた。
宴会場に、戻る。
二十人の男たちが、俺を見る目が、変わっていた。恐れと、憧れと、欲望の、入り混じった目。「あの仲居、色っぽいのに、力持ちで、姉御肌」。その、あまりに強烈なギャップに、荒っぽい男たちですら、すっかり、骨抜きに、されていた。
「こ、こまち姉さん! 俺たちにも、酌してくれ!」
「姉さんって呼ばせてくれ!」
いつの間にか、俺は「こまち姉さん」と、慕われていた。宴会は、大盛況。売上は、過去最高を、更新した。
俺は、それを、こう受け止めた。
「なんだ、絡んできた客も、結局は、いい奴らだったな。担いでやったら、懐いてきやがった。……単純な連中だ」
俺は、自分が、色気と貫禄の、凶悪なコンボで、二十人の男を、一晩で、ファンに変えたことに、まるで、気づいていなかった。ただ、面倒な酔客を、力ずくで、黙らせただけ、のつもりだった。
女将は、その夜の売上を見て、また、泣いた。そして、こう、呟いた。
「こまちさんが来てから、うち、別の旅館みたい……」
だが、その繁盛を、苦々しく見ている者が、いた。ライバル旅館「鳳凰館」。その女主人が、ついに、動き出そうとしていた。霧乃湯の、快進撃を、止めるために。




