女たちの湯
問題は、男客だけでは、なかった。
霧乃湯には、俺のほかにも、数人の、パートの仲居がいた。全員、女だ。そして、彼女たちの、俺を見る目が、日ごとに、複雑になっていった。
理由は、わかる。俺のせいで、客が増えて、忙しくなった。それは、良いことのはずだが――客の多くが、俺目当て。俺ばかりが、チヤホヤされ、指名される。彼女たちの中に、面白くない感情が、芽生えるのは、当然だった。
ある日、女湯の脱衣所で、俺は、その空気に、直面した。
パートの仲居たちが、休憩時間に、着替えていた。俺も、汗を流そうと、脱衣所に入った。俺が、無造作に、浴衣を脱ぐと――その、あまりに規格外の裸体に、女の仲居たちですら、言葉を失った。
「……こまちさんって、その、すごい、身体、よね……」
「うっ、なんだ、じろじろ見て。俺の身体に、何か、ついてるか」
俺は、中身がおっさんだから、女に裸を見られても、平気だった。むしろ、堂々と、仁王立ちである。その物怖じしない態度が、また、貫禄となって、仲居たちを、気圧した。
一人の、ベテランの仲居が、意を決したように、言った。
「こまちさん。あなた、お客さんに、色目、使ってるでしょう。だから、あんなに、指名が」
俺は、きょとんとした。
「色目? 使ってねえよ。俺は、ただ、普通に、仕事してるだけだ。……つーか、あんたら、俺が客取りすぎて、面白くねえんだろ。わかるよ、その気持ち」
俺は、あっさり、彼女たちの本音を、言い当てた。そして、続けた。
「なら、こうしようぜ。客の指名、俺に集中してるぶん、その客の追加注文とか、宴会の売上は、みんなで、山分けだ。俺一人が稼いでも、意味ねえ。旅館全体が、儲かりゃ、いいんだろ。女将にも、そう言っとく」
仲居たちが、ぽかんとした。
中身はおっさん、それも、長年、現場で揉まれてきた人間だ。職場の、女同士の、嫉妬やいがみ合いの、面倒くささは、嫌というほど知っている。だから、感情でなく、実利で、話をまとめる。「みんなで儲かる仕組み」を、さっと、提案した。
ベテラン仲居は、毒気を抜かれた顔で、それから、ふっと、笑った。
「……あなた、綺麗な顔して、変な人ね。でも……嫌いじゃ、ないわ」
こうして、俺は、女の職場の、厄介な空気すら、おっさんの処世術で、乗り越えた。色気で客を呼び、実利で仲間をまとめる。我ながら、変な仲居に、なったものだ。




