四話 めぐる朝
暁のころか黎明のころか、芽の呼吸が、ゆっくりになる。
内側の光が、薄れていく。
外へ出ているのか、出し切ったのか、分からない。
朝の光が差し込むのか、夜の気配が消えるのか、分からない。
東雲のころか曙のころか、透明になっていく。
茎から。
光の層から。
芽は、透明ですらなくなっていく。
濃藍はゆっくりと溶けていく。
太陽が顔を出す直前の、透明な時間。
妖精たちは、水辺を漂っている。
羽は元の大きさへ戻っていた。
羽ばたきは軽い。
湖は澄んでいる。
底の石影が見える。
空気は巡り、風は抜ける。
精霊は、風とも影ともつかない輪郭で、湖の上をなぞるように滑る。
風と入れ替わるように輪郭が消えた。
妖精たちは、きのこたちから傘のかけらを受け取ると、それを大切に抱える。
羽が小さく震え、帰る場所へと散っていった。
風が水面を撫でると、湖は目を覚ます。
霧がまだ水面に触れている時間、光はまだ輪郭を持たず、影だけがゆっくりと形を持ちはじめる。
そのほとりに、きのこたちや苔がある。
森のものたちは知っている。
だから、委ねる。
ルウが、湖底からそっと水面へ上がってくる。
湖を見る。
きのこたちを見る。
苔を見る。
獣を見る。
獣が歩く。
毛並みは艶やかで、朝の光を柔らかく撫で返していた。
苔の前で頭を垂れる。
植物の繊維が断ち切られる微かな音が響く。
獣の顎がゆっくりと動き、緑が咀嚼されていく。
角を揺らし、獣はまた次のひと口のために、静かに首を傾げた。
苔はそれを、いつものように見ている。
何も言わず、水を相棒に、とりどりの緑は艶を帯び、朝露を抱えたまま、揺らめかせる。
きのこたちは、柔らかな傘を揺らしながら、胞子を空気に溶かしていく。
昨夜より少しだけ張りを増したひだと傘は、しっとりと艶やかだ。
獣は森の奥へ消えていく。
苔は水を巡らせる。
きのこたちは胞子を揺らす。
湖は静寂を纏う。
影は元の場所へ戻り、光は朝に成り代わっている。
ルウはそのほとりから、湖底資料室を見る。
手を伸ばしかけて、やめた。
湖底資料室の入り口は、このほとりにもある。
風が通り抜けた。
湖は、また眠りにつく。




