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湖のしるし  作者: REDFOREST


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五話 翅のきおく

森が見える。

REDFORESTから来た虫は、ルウの下へ向かう。

虫は、湿った土の香りを浴びながら進む。

枝葉の隙間から差し込む朝の光は淡く、空気は驚くほど澄んでいた。

湖が見える。

底の石影まで透けて見えるほど澄み切っている。

風が通り抜けると、湖面にさざ波が柔らかな朝の光を宿してきらめく。

苔は深く水を含み、とりどりの緑をひらいている。

きのこたちの傘は、しっとりと張りを増している。

獣が水を飲みに来る。毛並みに朝の光が滑る。

小さな虫が静かに横切った。

羽音はほとんど聞こえなかった。

風に乗るように、水辺に降り立つ。

苔の上を歩く。

翅を広げ、また閉じる。

湖面を覗き込む。

水の気配が、翅に触れる。

しばらく、そこにいた。

風が通り抜けるようにルウが現れた。

虫が一度だけ、その肩へ止まる。

虫の翅が、ごく僅かに震えた。

すると湖面の奥に、 薄い輪郭が浮かび上がる。

円のようにも、 文字のようにも見える「しるし」だった。

目を凝らさなければ見落とすほど淡い。

水の揺れとともに崩れ、 また繋がる。

その瞬間、虫の中で光が走った。

芽の呼吸。

角に残る淡い粒子。

花びらの層。

触れなかった手。

崩れる光。

飽和した湖面。

消えていくものと、残っていくもの。

一瞬だけ、見えた。

虫の震えが止まる。

湖面の「しるし」がゆっくり円を描くように、沈み始めた。

淡い線は水底へ溶け、 石と影の隙間へ消えていく。

次の瞬間には、 もう何も残っていない。

虫は湖の上を小さく旋回した。

何度か水面近くを飛び、 それから森の奥へ消えた。

ゆっくりと。

獣は水を飲んだ。

そのあとで、小さく身体を震わせた。

遠くで鳥が鳴いた。

枝から落ちた種が土へ沈み、 開いたばかりの花弁の上を、 朝露が滑り落ちる。

ルウは、湖を見る。

苔を見る。

きのこたちを見る。

獣は森の奥へ消えていく。

苔は水を巡らせる。

きのこたちは胞子を揺らす。

湖は静寂を纏う。

風が通り抜けた。

ルウの姿はなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

この物語『湖のしるし』は、ハンドメイドブランドREDFORESTの世界観をもとに書き下ろしたお話です。

物語に登場したモチーフや言葉は、実際にCreemaのREDFORESTショップにて、アクセサリーや書のポストカードとして仕立ててお届けしています。

作品の形になった『湖のしるし』の世界もあわせてお楽しみいただけたら嬉しいです。

◎ Creema(REDFOREST)へのアクセス方法

作者名(苑)をタップしてマイページを開き、プロフィール上部にある**Webサイト(Creema)**のリンクからお越しいただけます。

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