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第27話 地球へ

宇宙での戦いは終わった。

だが、地上での戦いが始まる——。


第十一章の始まりです。




射出から、しばらくの間、誰も喋らなかった。


モニターの中で、茜色がまだ広がっていた。


最初に口を開いたのは、イーサンだった。



「これで皆仲良く契約不履行で懲戒解雇、良くて民事、残りの余生は係争に忙しくなりそうだ」


誰も笑わなかった。でも──否定する者もいなかった。


「みんな、、、ごめん、、、」


私が言うと、マルコが即座に返した。


「ジャンヌアキ、気にやむ必要はない」


ジヒョンが静かに言った。


「AOIが、全ての状況をログとして残しているわ。オービタルリンクも私達に少しばかり手こずるんじゃない?」


ラヴィが身を乗り出した。


「ああッ! まだ希望があるのか! 不正な規程も世の中に開示すれば、、、」


エレナが静かに笑った。


「アキのラッキーセブンにベットして生き延びたかもね」


全員が、セブンを見た。壁にもたれたまま、損傷した外装で、静かにそこにいた。


「みんな、、、」


私はそれ以上、言葉が出なかった。


イーサンが立ち上がった。


「さあ、一旦戻るか、我らがホームに」


KAGUYAの声が入った。「アルバトロス号は引き続き火星向け資材の輸送任務を継続します。クルー各位は別船にて地球へ帰還。バックアップクルーとの引き継ぎを行ってください」


全員が顔を見合わせた。


「Andiamo──行こう、アキ」マルコが私の肩を叩いた。


私はもう一度、モニターを見た。茜色が、宇宙に広がっていた。アルバトロス号を、後にした。


帰還したその日から、私たちの戦いは形を変えた。


宇宙での戦いは終わった。でも──地上での戦いが始まった。


空港に降り立った瞬間から、カメラが待っていた。


OLSの広報は即座に声明を出した。「クルーによる重大な契約違反および業務妨害。最優先貨物の違法廃棄。損害は天文学的規模に及ぶ」。翌日の主要メディアは全て、私たちの顔写真と共にその声明を報じた。


世論は、真っ二つに割れた。


「英雄だ」という声と、「犯罪者だ」という声が、同じ熱量でぶつかり合った。SNSでは私の名前がトレンドに入り続けた。支持する人間も、罵倒する人間も、どちらも私の顔を使って自分の主張を広めた。


なるほど。宇宙では孤独だったが、地上では孤独にもなれないらしい。


OLSは即座に法的措置を取った。契約違反、業務妨害、財産損壊──訴状には長い罪名が並んでいた。地球統合政府も「宇宙資源管理条約違反」の可能性を示唆した。各国政府が声明を出した。国際的な圧力が、じわじわと私たちを囲んでいった。


弁護団は最初、小さかった。


最初の公聴会で、私は証言台に立った。


向こう側には、OLSの弁護団、政府代理人、国際宇宙機関の代表──何十人もの専門家が並んでいた。私は一人で立った。


OLS側の弁護人が、私の名前を読み上げた。


「証人──渡海・元従業員」


元従業員。


博士号を十年かけて取ったことも、量子重力理論の専門であることも、その呼称は、何も含んでいなかった。社員番号と、契約区分と、解雇通知。それで、十分だ、ということだった。


弁護側の主任弁護人が、立ち上がった。


「証人・渡海亜希子」


こちらは、名前を呼んだ。


肩書も、契約区分も、何もつけずに──ただ、名前だけを。


「なぜ業務命令に従わなかったのですか」


「SEEDは設計物の可能性がありました。誰かが作ったなら──誰かのものです。地球の軍が独占していいものではないと判断しました」


「その『誰か』とは」


「わかりません。でも──人類がまだ、これを扱える段階にないことは量子重力理論の専門家としてわかります」


法廷が、ざわめいた。


議員の一人が身を乗り出した。「あなたは、人類全体を代表して判断したと言うのですか。一企業職員が」


私は少し間を置いた。


「いいえ。全人類を代表して等、おこがましい考えはありません。


我々は、、──私は、ただ、あえて間違った判断を下す手伝いをして、逃げたくなかっただけです」


また、ざわめいた。今度は別の種類のざわめきだった。


公聴会の映像は、その日のうちに世界中に広まった。支持する声が、少しずつ大きくなっていった。


でも──圧力も、大きくなっていった。


ある夜、イーサンから通信が来た。


「アキ、折れるなよ」


それだけだった。


別の夜、ジヒョンから数式が送られてきた。メッセージはなかった。ただ──SEEDの観測データから導いた確率モデルだった。「知的文明が地球のみである確率:統計的に極めて低い」という結論が、最後の行に出ていた。


※ 参考資料として。判断はあなたに委ねる。


それだけだった。でも──その数式が、次の朝の法廷で、私の背骨になった。


(第28話へ続く)



© 2025–2026

Masaki Yamashiro. All rights reserved.

本作の内容(本文・設定・キャラクター・固有名詞・固有概念)の無断複製・転載・配布・二次利用を禁じます。




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