第17話 ブリーフィング
セブンが見せた、二秒のためらい。そして全体会議が始まる——。第16話の続きです。
データの整理をしていた時、セブンが入ってきた。
定期的な船内点検の一環だった。何も特別なことはない。セブンは解析室のシステムチェックを始めた。
「異常は?」と私は言った。モニターから目を離さずに。
一拍。
「異常ありません。」とセブンが答えた。
私はモニターから目を上げた。
セブンがシステムチェックを続けている。銀色の外装。ヒューマノイド型の躯体。何も変わったことはなかった。
でも──さっきの「異常ありません。」という返答が、コンマ一秒だけ、遅かった気がした。
気のせいかもしれない。
私はモニターに視線を戻した。
でも頭の片隅に、そのコンマ一秒が、引っかかったまま残った。
──KAGUYA も、さっき、止まっていた。
あれは何だったんだろう。
機械が、結論を出すことを、ためらった、あの二秒。
考えるな、と、自分に言い聞かせた。
まだ、何も、わかっていない。
六時間後のブリーフィングは、重かった。
私がデータをまとめて発表した。三つの仮説──真空相転移核、高次元接続体、宇宙インフラ。いずれも既存の物理学では説明がつかないこと。エネルギー密度が通常物質では存在不可能な領域であること。
マルコが最初に口を開いた。
「Spettacolo......」手が自然に広がっていた。「火星の話じゃないな、アキ。地球全体の話だ」
「理論上はね」
「理論上、恒星級のエネルギーが手の届く場所にある」マルコは少し笑った。でもその笑い方は、いつもの陽気さとは少し違った。「なんか怖いな」
エレナが腕を組んだ。
「まず確認したいんだけど──乗組員への生体影響は?
さっきの船外活動中、何か異常は感じなかった?」
「低周波の振動と、心拍が引っ張られる感覚があった」と私は答えた。「認知のズレも少し」
「スーツのログを全員分確認したいわ。あと、このエネルギー規模が安定していない場合──」
「わかってる」とイーサンが言った。
ラヴィは、ずっと黙っていた。
「ラヴィ」と私は言った。
「......タイタンは、もうこのデータ持ってるんだろ」ラヴィはゆっくりと言った。「俺たちが解析してる間に」
沈黙。
誰も否定しなかった。
「Che palle......」マルコがぼそっと言った。手で顔を覆った。
「だよな」ラヴィは小さく笑った。その笑い方が、怖かった。「だよな」
ジヒョンが静かに言った。
「タイタンはもうデータを持ってる。でも──回収したものをどう使うかは、まだ決まってない」
全員が、ジヒョンを見た。
「私たちが見たものを、私たちがどう報告するか。それだけは、まだ私たちにある」
誰も、すぐには答えなかった。
でもその言葉は、ブリーフィングルームの空気の中に、静かに、残った。
(第18話へ続く)
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