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第20話 君が好きだよ

 龍王(りゅうおう)の屋敷までは、あと数分という距離だ。翠雨(すいう)は「今のうち、聞いておかないと!」と呟き、急いで口を開いた。彼の肩掛けカバンからは、ロボ塚くんがひょっこりと顔を出している。


龍厳(りゅうげん)はどうやってこの世界に来たんだ? 春休み初日に、京都の天睛舞台(てんせいぶたい)を観に行ったきり行方不明になったってリュウからは聞いてるけど……」

「その通りだ。隠し扉を見つけて、スリルを満たすために階段を下りたら、謎の地下空間へ辿り着いた。どうやら溶怪会(ようかいかい)の施設だったらしい。気づいた時には、潜水艇に乗せられていたよ」

 翠雨は自分の記憶をなぞるように言葉を重ねていく。

「海底のブラックホールに呑み込まれなかったか? 最後に見えたのは、城の影と、金の龍神像……そうだろ?」

 龍厳は「あぁ……」と短く相槌を打った。翠雨は馬のたてがみを優しく撫でながら、さらに問いを重ねる。


「子供なのに天睛舞台が好きなんて、珍しいよな。左遷ヶ島(させがしま)にも一つだけ舞台が残ってるけど、みんな『渋すぎて興味が湧かない』って言ってるよ。何かきっかけがあったのか?」

 龍厳は背筋を伸ばし、淡々と語り始めた。

「兄が十歳、私が九歳の時に、拳闘団(けんとうだん)の幹部である叔父が人を殺した。その噂が広まってから、女子の態度が急変したんだ。その母親まで私を露骨に避けるようになった。それ以来、女性という存在が苦手になった……自分の加害は都合よく忘れるくせに、何かあればすぐ被害者として声を上げ、話を広めるから」

 龍厳は名残惜しむように馬の歩みを緩めた。まだ翠雨に話しておきたいことがあるようだ。


「私は騒がしい現実から逃げるように、人気のない天睛舞台へ通うようになった。そこで知ったんだ……性別という枠を超えて孤独に舞い続けた、【 黎明翠(れいめいすい) 】という存在を__」


 龍厳は寂しげな瞳で前を見つめた。


「__気付けば、見たこともない彼に強い執着心を抱くようになっていた。一生逢うことも叶わない、その中性的な美しさに……私は救いを求めていたんだろう」


 前方には巨大な屋敷の塀、遠くには槍を携えた門番たちの姿が見えていた。龍厳は門の死角、塀の影で手綱を引いた。自分が先に降りると、エスコートするように翠雨へ手を差し伸べた。


「天睛舞台で一人、感情を吐き出す日々を送っていたんだ……滑稽だろ? 笑ってくれよ」

「……目茶苦茶寂しい男だな。寂しいと言うより怪しい」


 翠雨はその手を取り、ふわりと馬から降りた。地面に足がついた瞬間、彼はどこか儚げな、けれど挑戦的な笑みを浮かべた。


「お前は、おれがお気に入りなんだな……でも、美しさはすぐ枯れる。そしたら皆、離れていくよ」


 翠雨は自分たちの存在に気が付いた門番の目を盗み、龍厳の耳元で悪戯っぽく囁いた。


「その時までよろしくな、孤独な将軍様……」


第六章【龍ノ宝物】は、5月1日に連載スタート予定です。イラストも制作中なので、楽しんでいただけたら嬉しいです。完結はやはり、6月中旬頃になりそうです。5月1日まで第五章の推敲を進めてまいります。

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