第14話 頂を目指して……
「私も確信を持って言えるよ……ここは、黎明翠の描いた物語の世界だ」
龍王は巧みな手綱捌きで馬の歩みを緩めることなく、丘の頂を目指して進んでいく。「屋敷へ行く前に寄りたい場所がある」とのことだ。自身を決して見失わない彼は更に話を続けた。
「憂永遠と同じで、君もこの世界に飲まれやすい性質なんだね。血は争えない、ということか」
翠雨は咄嗟に身を乗り出し、背後の彼を振り返った。
「あいつとおれのどこが似てるって言うんだよ。それに『血は争えない』なんて、身内同士で使う言葉だろ」
龍王の楽しげな笑い声が、翠雨の耳元を掠める。
「左遷ヶ島の王階家は、千年前、時の皇帝家に誕生した【麒麟王】の子孫だ。区別撤廃を謳って周囲の反感を買い、島流しにされた悲劇の皇子……対して憂永遠は、この本土で脈々と続いてきた旧皇帝家の末裔……」
丘の頂に辿り着くと、彼は短く手綱を引き、馬を止めた。「龍ノ國」の全景が一望できる場所だ。
「安全な場所から甘い平和を願っているところが、君たちはよく似ている」
龍王は先に馬から降りると翠雨へと手を差し伸べた。翠雨は一瞬躊躇したが、その手を頼りに地に足をつけた。
遠くの河原地区からは、生活の煙が細く天へと昇っている。その煙が、都を彩る桜並木の美しさを邪魔することはなかった。
二つの絵を無理やり繋ぎ合わせたような、余りにも残酷な光景だ。
左隣の龍王は【区別地区】とも呼ばれる、【芸能の街・河原地区】を見おろしながら語り始めた。
「区別撤廃条例を作ったのも麒麟王だ。彼は音楽に長けていて、忌み嫌われていた河原地区を、華やかな芸能の街へと作り替えた。あの地域を孤立させていた壁まで、取り壊してしまったんだ」
彼は退屈そうに話を続ける。
「だが、その改革のせいで都の治安は悪化……特権を奪われた貴人は今でも麒麟王を恨んでいるよ。彼らにとっては『余計なことをした大罪人』だから」
翠雨は思考を切り替えるように瞬きをした。昼間から煌々と灯る、河原地区のネオンを眺め、呟く。
「でも、おれは麒麟王のした事が全て間違いだとは思いたくない……河原地区からは、奏王さんみたいな大スターも生まれた。あの人は人間性も優れている。生まれた環境のせいで区別されたり、夢を持てなかったり……そんなのは可笑しいと思う」
その瞳には焦りの色が見える。龍王は意味深に語り始めた。
「【奏王】、変わった芸名だよな……どうして、名前に【王】が付くと思う?」
足元に咲いた野花が不安げに揺れた。龍王の淡々とした声が駆け抜けていく。
「彼は河原地区の生まれではないらしい。薬学に優れていて、弱者の森に出入りしている姿を見かけたという者もいる……何処かの創始者とソックリじゃないか?」




