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第11話 支配者の共鳴

 翠雨(すいう)龍王(りゅうおう)を、不信の入り混じった眼差しで見つめた。その隣に立つ刀武(とうむ)へと視線を移し、彼らを見比べる。


「……なんだか、あいつらの方が親子に見えるな。同じ目をしてる」


 翠雨の独り言を余所に、会場へ重厚なエンジン音が近づいてきた。


「皇子! お迎えに上がりました!」

 

 現れたのは、場を圧するような巨大なリムジンだ。翠雨は驚きの声を上げている。

「あんなに立派な霊柩車があるんだな! でも、誰も死んでないのに不思議だっちゃ」

「……あれはリムジンだ。恥をかかせるな」

 刀武は引きつった顔で補足を入れた。会話を耳にしていた龍王の笑い声が聞こえてくる。


 車から降り立った皇帝家の使用人は、すぐさま(ゆう)永遠(えいえん)の元へ駆け寄った。

「影武者まで用意して屋敷を抜け出すなんて……!」

「……っ、あなたは誰? 僕ちんは、自由になりたいんだ! 申し訳ないけれど、この車には乗らないよ」


 拒絶する憂,永遠を置いて、使用人は龍王の元へ歩み寄り、深く頭を下げた。

「皇子が、お怪我を負わせるような真似を……申し訳ございませんでした」

「いえ……この件は表には出さないようにします。安心してください」


 龍王は完璧な笑顔で答えた後、使用人の耳元で密やかに何かを語りかけた。使用人の表情が曇り始める。

「……承知いたしました。その条件でお受けいたします」

 どうやら冷酷な取引が成立したようだ。


「嫌じゃーーー!!! 誰か、僕ちんを助けてーーー!!!」


 声がする方へ顔を向けると、憂,永遠がリムジンから新たに現れた使用人たちに羽交い締めにされていた。強引に取り押さえられている真っ最中だ。


「僕ちんはシンガーソングライターの憂,永遠だ! ほら、僕ちん最大のヒット曲【龍が降らした雨のあと。】を歌ってあげるから許してーーー!!!」


 彼は呼吸を整えながら解説を付け加えた。


「ちなみに、歌詞に出てくる金の龍は、僕ちんをいじめてきた【リュウ】っていう同級生をモデルにしているんだ。親友の為に雨を降らして死んだ龍の昔話……【金龍雨天(こんりゅううてん)神話(しんわ)】をモチーフにした楽曲になっているよーー!!! あっ、そうだ……金龍雨天神話の内容も話したほうがいいね」


 要約された物語が耳に流れ込んできた。


「【金龍雨天(こんりゅううてん)神話(しんわ)】……舞台は、干ばつの京都。皇帝に「雨を降らせれば居場所をやる」と命じられた孤独な少年は、沼で出会った金龍(こんりゅう)と親友になった。龍は少年の居場所を作るため、自らの命を賭して恵みの雨を降らせる。だが、その雨は自分勝手な人間達に罰を与えるべく干ばつを起こしていた龍王(りゅうおう)の怒りに触れ、金龍は無残に八つ裂きにされてしまう……少年は友情を求めていたのに金の龍は相談もせず突き進んで死んでしまったって訳……迷惑な話だよね」


 憂永遠が、声変わり後のガラガラな声で、【龍が降らした雨のあと。】の一節を歌い始める。

 今、目の前で【龍王】に成り代わっているリュウの弟……【龍厳(りゅうげん)】がプロデュースしたという、あの残酷な楽曲だ。 


♪〜「仲間にだけ優しい、それ以外はどうでもいい……その生き方は正しいのかな?

【 RYU. 】……君は本当に優しいの?」


 翠雨は悔しそうに拳を握りしめている。

 視線の先には、仮面のような笑みを崩さない龍王の姿があった。


「金の龍よ、永遠にさよなら__」


 歌い終えた憂,永遠は、縋り付くように叫んだ。


「歌詞は龍厳のアドバイスを参考にしたけれど、作曲は全て僕ちんが手掛けているんだ! ほら……龍厳も知らん顔しないでくれよ! いじめっ子を【金の龍】に例えて、恨みつらみを歌詞にして……曲紹介の時には、いじめの体験を細かく語れって、君が言ってくれたじゃないか!」


 実の兄をいじめっ子に仕立て上げ、社会的に抹消しようとした龍厳。彼が黎明翠(れいめいすい)の創り上げたこの世界で【将軍】という強力な役割に収まっている……あまりに出来すぎた配役に翠雨は恐ろしさを感じていた。


 【皇帝家のご子息】こと【憂,永遠】が、黒いリムジンへと押し込められていく。

 閉ざされた窓の向こうから、彼の悲痛な叫びだけが響いてきた。


「龍厳ーーー!!! 僕ちんたちは、親友だろーーー!?」

「……僕ちんたち? そこは僕たちで良いだろ」


 刀武はそう呟いたあと、咄嗟に自分の口を塞いだ。何食わぬ顔で傍らの龍王に声をかける。

「私の息子は、腹話術が得意でして……聞かなかったことにしてあげてください。皇帝家の人間をからかうなんてご法度だ」

「それはあなたでしょ」

 彼らはやはり気が合うようだ。呑気に笑い合っている。


 会場に居合わせた人々は、歴史の目撃者になってしまったと言わんばかりの、戦慄した形相を浮かべていた。



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