第9話 彼らは腐れ縁
護衛隊はクビ宣告を受けた後も、龍王への忠誠心を持ち続けていた。
話を聞き入れてもらえず困っていると、龍王が短く指示を出した。
「刺客の拘束を解いてくれ……私はそれでも構わない。最後の命令だ」
護衛隊が刺客の元から離れる。地面に這いつくばったまま謝罪を続ける彼に、翠雨は顔を寄せ語りかけた。
「おれのことを覚えているか? 左遷ヶ島処刑場で一度会っているはずだ」
返事はないが、自分自身の体験を述べる。
「地下帝国にある溶怪会研究所の前に、お前のハンカチと、おれの親友の抜け毛が落ちているのを見かけた。親友は、永伝寺の大穴に落ちて地下帝国へ辿り着いたらしい。だから、お前も処刑場のどこかで同じように穴に落ちて、その後、研究所へ連れて行かれたんじゃないか? お前が親友と同じルートを辿ってきたことくらい予想がつく。きっと転生寺リンネの作戦に巻き込まれて、そのまま潜水艇に乗せられたはずだ」
翠雨はこれ以上ないほど、声を潜めた。
「京都の海底で金の龍神像と城の影を見た後、ブラックホールに吸い込まれなかったか? お前は絶対に憂,永遠だっちゃ……自分のことを俺なんて言うなよ」
諭すように話を繋いだ。翠雨の真っすぐな声が会場に響き渡る。
「お前の一人称は……『僕ちん』だっちゃ!!! 無理して普通になろうとしなくてもいい、僕ちんのままで良いんだよ」
その瞬間、龍王を暗殺しようとした刺客……憂,永遠の表情が劇的に変わった。
「ぼ……僕ちん」
伏していた彼はすぐさま上体を起こし、翠雨と視線を合わせた。ボロ布のような着物を纏いながらも行儀よく正座している。
「き、君は、僕ちんの命の恩人……前髪ピラピラくん!」
「命の恩人にあだ名をつけるな……確かにおれはあの時、坊主頭に前髪だけ生えた髪型だったけど」
「ごめんね……前髪チロチロくん」
「人の話を聞けよ」
翠雨はひどく呆れている。
「今度、僕ちんのブロマイドをあげるから許してね、口の部分を指で擦ると、そこから白い息みたいに煙が出てくるんだ、ニンニクの匂いがする、ちょっとだけ臭い煙」
「いらないって……お前、本当はメンタル強いだろ。なんでそんな物を作ることになったんだ」
「僕ちんの親友がプロデュースしてくれたんだ。本当に仲が良くて、彼だけが僕ちんをニックネームで呼んでくれる。【温室育ち】……ってね」
「それは多分友達じゃないっちゃ……その親友を今ここに連れてこい、おれがひっぱたいてやるから……おれはなんで、こんなヤツの味方になりかけているんだ」
憂,永遠は涙を潤ませながら話を続けた。
「また君に会えるなんて夢にも思っていなかったよ。名前を聞き忘れたことをずっと後悔していたんだ……ピンク色の他に、好きなものはある? お礼がしたくてさ」
「馬鹿、これは衣装だっちゃ! ピンク色はおれの趣味じゃないよ……んぐっ」
刀武が珍しく慌てた様子で、背後から翠雨の口を塞いだ。
「失礼いたしました」
雲の隙間から太陽の光が差し込む。
刀武は翠雨の耳元で冷たく囁いた。
「この御方は、皇帝家のご子息だ。面識があるからと言って、その馴れ馴れしい態度は不敬だぞ」
観客たちも皆、頭を下げている。翠雨は身を乗り出して叫んだ。
「気絶させたお父さんに言われたくないっちゃ!!!」




