表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/85

第7話 友達の契り

 騒然とする場内を貫くように、龍王(りゅうおう)の声が響いた。

刀武(とうむ)さん、剣武(けんむ)さん……助かりました。感謝しています」

「いえ……」

 刀武は深く頭を下げると、隣で立ち尽くす翠雨(すいう)の首根っこを掴んで強引に曲げた。共に礼を捧げている。


 龍王はようやく刺客を取り押さえた護衛隊に対しても、穏やかな笑顔を向けた。

「今までよく仕えてくれた。だが、君たちの役目は今この時を以て終わった。どうか、自由に生きてくれ」

 有無を言わせぬ決別だ。彼は面を被ったままの翠雨へ、優しげな眼差しを移す。


「……顔を見せてくれないか?」

「……っ、今は、嫌だ」


 翠雨の抵抗に会場がざわめき出す。すかさず刀武が横から手を伸ばし、その面を外してみせた。


 露わになった白い頬には、一筋の涙が伝っていた。翠雨は消え入るような声で呟く。


「おれの周りは、みんなすぐ死んじゃうんだ。また、何も言わずいなくなってしまうと思った……せめて訳を残してから、消えてほしいのに」

 彼は誤魔化すように笑った。

「殺されかけた奴に、言う事じゃないか……理不尽に命を狙われたんだもんな。お前は別に、死に急いだ訳じゃない」


 春風が返事をするように、哀しげな音をあげる。龍王は目が乾いたのか、一度だけ感情の読めない瞬きをした。

 見下したような目つきで、長い前髪をかきあげるだけだ。返事は無かった。


 やがて龍王は翠雨の細い手を取り、正面から彼を見据えた。

 中性的で可愛らしい顔立ち、透き通った声に青みがかった大きな瞳……

 それは、翠雨が生まれ育った左遷ヶ島の人々が、彼に対して口にした言葉、そのものだった。


「君はきっと……芸能界の頂点に君臨するべき人物だ」


 龍王の言葉と共に、桜の花びらが天から降り注いだ。まるで新しい時代の幕開けを祝うように、二人の直ぐ側を吹き抜けていく。


 龍王は翠雨の手を引いたまま客席を振り返り、高らかに宣言した。


「【伊賀(いが)刀武劇団(とうむげきだん)】を全面的に支援することに決めた。皆も、彼らの門出を共に見守ってほしい」


 その瞬間、会場は大歓声に包まれた。

 舞台袖では劇団員たちが手を取り合って狂喜し、奏王もまた、腕の中のロボ塚くんと楽しげにハイタッチを交わしている。

 

 降り注ぐ桜吹雪の中、刀武だけが刺客を封じ込めた自身の右手に目を落としていた。何かを噛み締めるように拳を握り、すぐ顔を上げる。


 翠雨は衣装の裾で、流れる涙を乱暴に拭っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ