第7話 友達の契り
騒然とする場内を貫くように、龍王の声が響いた。
「刀武さん、剣武さん……助かりました。感謝しています」
「いえ……」
刀武は深く頭を下げると、隣で立ち尽くす翠雨の首根っこを掴んで強引に曲げた。共に礼を捧げている。
龍王はようやく刺客を取り押さえた護衛隊に対しても、穏やかな笑顔を向けた。
「今までよく仕えてくれた。だが、君たちの役目は今この時を以て終わった。どうか、自由に生きてくれ」
有無を言わせぬ決別だ。彼は面を被ったままの翠雨へ、優しげな眼差しを移す。
「……顔を見せてくれないか?」
「……っ、今は、嫌だ」
翠雨の抵抗に会場がざわめき出す。すかさず刀武が横から手を伸ばし、その面を外してみせた。
露わになった白い頬には、一筋の涙が伝っていた。翠雨は消え入るような声で呟く。
「おれの周りは、みんなすぐ死んじゃうんだ。また、何も言わずいなくなってしまうと思った……せめて訳を残してから、消えてほしいのに」
彼は誤魔化すように笑った。
「殺されかけた奴に、言う事じゃないか……理不尽に命を狙われたんだもんな。お前は別に、死に急いだ訳じゃない」
春風が返事をするように、哀しげな音をあげる。龍王は目が乾いたのか、一度だけ感情の読めない瞬きをした。
見下したような目つきで、長い前髪をかきあげるだけだ。返事は無かった。
やがて龍王は翠雨の細い手を取り、正面から彼を見据えた。
中性的で可愛らしい顔立ち、透き通った声に青みがかった大きな瞳……
それは、翠雨が生まれ育った左遷ヶ島の人々が、彼に対して口にした言葉、そのものだった。
「君はきっと……芸能界の頂点に君臨するべき人物だ」
龍王の言葉と共に、桜の花びらが天から降り注いだ。まるで新しい時代の幕開けを祝うように、二人の直ぐ側を吹き抜けていく。
龍王は翠雨の手を引いたまま客席を振り返り、高らかに宣言した。
「【伊賀の刀武劇団】を全面的に支援することに決めた。皆も、彼らの門出を共に見守ってほしい」
その瞬間、会場は大歓声に包まれた。
舞台袖では劇団員たちが手を取り合って狂喜し、奏王もまた、腕の中のロボ塚くんと楽しげにハイタッチを交わしている。
降り注ぐ桜吹雪の中、刀武だけが刺客を封じ込めた自身の右手に目を落としていた。何かを噛み締めるように拳を握り、すぐ顔を上げる。
翠雨は衣装の裾で、流れる涙を乱暴に拭っていた。




