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第14話 月夜の路地裏

 桜並木を抜け、薄暗い路地裏へと足を踏み入れる。壁際や段ボールの上には、ホームレスらしき男たちが俯きがちに座り込んでいた。リュウは翠雨(すいう)を自分の方へと引き寄せ、耳元で囁く。

「大丈夫だ、彼らは何もしてこない……ただ、人に頼るのが下手で、ここに流れ着いただけだ」

 空には満月と一番星が大きく輝いている。リュウの瞳には現実世界にいた時よりも、強い光が宿っているように見えた。


「すみません、これと……これを」

 リュウは、路地裏で商売を営む老人から、セットアップの和服と、小さな犬用の洋服を購入した。翠雨が老人に会釈をすると、老人は忠告をくれた。

「今日は左京職(さきょうしき)の官人が河原地区に潜入しとるらしい……気をつけろよ。こんな場所を歩いとる人間に真っ当な奴はおらん。隠すもんは、しっかり隠せ」


 翠雨は歩を進めながら、リュウに問いかける。

「左京職ってなんだ? 左遷ヶ島(させがしま)にいる、おれの友達にも左京(さきょう)って奴と左近(さこん)って奴がいるんだよ」

「左京職は、今で言う警察組織のようなものだ。この世界では、左京家が都の治安維持を担う民間警察のトップ、左近家が皇帝直属の警察部隊の頭……どちらも俺たちにとっては気をつけたほうが良い存在だよ」


 路地裏の一角、人目を忍んで翠雨は桃色の着物から、今買った和服へと着替えた。鈍い翠色をしており、派手さはないが美しいデザインをしている。目立つ桃色の衣装は畳んでカバンへと押し込んだ。

「リュウ、こんなにお金を使って大丈夫だったのか? お前こそ、新しい服を買うべきなのに……」

「肉の解体をするアルバイトで稼いだ。また働けばいい」

 リュウのパーカーには返り血のような跡が付着していた。彼は優しく微笑むと、翠雨の肩掛けカバンを軽く叩いた。


「翠雨を守ってくれてありがとう。大丈夫だ、出ておいで」

 カバンの隙間から、ロボ塚くんがひょこっと顔を出した。リュウはロボ塚くんの瞳に溜まった泥を自分のパーカーの袖で拭い取ると、翠雨に犬用の洋服を手渡した。

「丸洗いは難しそうだからな。汚れてもいいように服を買ってみた……()()()も、気に入ってくれるといいんだが」

()()()だよ」

 翠雨は、思わず吹き出した。

「リュウ、ありがとう」


 二人がかりでロボ塚くんに洋服を着せる。翠雨は引きつった表情で呟いた。

「ピチピチだ……エアロビの人みたいになっちゃったよ」

 しかし、当のロボ塚くんはご機嫌な様子で、肩掛けカバンの定位置に戻っていった。

『ぽ〜ぅ、忍ポポポゥ♪』


 路地裏の出口が近づいてくる。翠雨は背伸びをして、隣を歩くリュウの顔を覗き込んだ。

「どうして、リュウとあの『龍王』を見間違えたんだろうな……全然違うのに。リュウは一匹狼だけど、あいつは群れを引き連れてた。そこも正反対だ」

「群れ? 龍王護衛隊のことか。どんな奴らだった?」

「めちゃくちゃ偉そうだし、凄く怖かったよ! おれが龍王に抱きついた後、おれの首元に全員で一斉に刀を突きつけてきたんだ」

「護衛出来てへんやん。抱きつかれるまで放置した挙げ句、後から刀を出す……対応が遅すぎるって」

 リュウは立ち止まると、おかしそうに笑い出した。

「もし翠雨が刺客だったら、龍王は死んでいたよ。その仕事ぶりで、よく偉そうに振る舞えたな」

「そういえばそうだ、なんで気づかなかったんだろう。人のことを馬鹿にしてたけど、あいつらも充分アホだっちゃ」

 二人は顔を見合わせて笑い合った。


 翠雨は髪型を三つ編みに結び直すと、リュウから手渡されたお揃いの変装メガネを掛けた。

「リュウ、お前なんで二つも同じメガネを持ってるんだよ」

「メガネを掛けているのに、メガネを無くしたと勘違いして、今朝同じ物を買ってしまったんだ」

「……基本、抜けとるよなぁ」

 まるで、お忍びカップルのような身なりだ。


「翠雨、ここを抜ければまた人混みだ。心の準備が出来てから進もう」


 雑踏の灯りが目の奥を突く。

 翠雨は、リュウの手を握り返した。



 

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