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第88話:夢を叶える町と、謎の解説おじさん

比布の夏空の下、不思議な縁に導かれた三人の新しい一日が始まります。

思わぬ場所での出会いや、語られる町の秘密。

そして、目の前に広がる未知のステージ。

「不器用」な彼らの音が、この温かい町でどう響き始めるのか。

静かに幕が上がるその瞬間を、どうぞ見届けてください。


 楽器の運搬を終えた頃には、

 比布の夏空は抜けるような青さに染まっていた。

 

 本番までの束の間のお昼休み。

 俺たちは楽器ケースの重みから解放され、

 会場の少し開けた場所で一息ついていた。



 ふとした疑問が、俺の口からこぼれ落ちる。



「なあ……。なんでプロの南條先生みたいな人が、

 わざわざこの町のステージに来てくれるんだろうな」



「確かに。都響のトップ奏者っていったら、

 普通は大きなホールでのリサイタルがメインだよね。


 プロがわざわざ中学生の隣で吹いてくれるなんて、

 考えられないほど贅沢なことだよ」



 ハルちゃんが感心したように、

 遠くのステージを見つめた。



「よっぽど比布町が好きなのかな?」



 さっちゃんが首を傾げたその時、

 横からひょいと穏やかな声が掛かった。



「それはね、『君の夢プロジェクト』っていう、

 この町の素敵な企画があるからんだよ」



 振り返ると、そこには薄いブルーの半袖のシャツの 穏やかな笑みを浮かべた男性が立っていた。


 いかにも「近所の物知りなおじさん」といった

 親しみやすい風貌だ。


挿絵(By みてみん)


「君の夢……プロジェクト?」



「そう。町の中学生の部活動から毎年夢を公募して、

 それを町が全力で叶えようっていう企画なんだ。


 今回のは、『プロの音楽家に直接教わりたい、

 一緒に音を出したい』っていう中学生たちの願い。

 それが、こうして形になったわけさ」



「町が、夢を叶えてくれるんですか……?」



 さっちゃんが目を丸くして驚く。



「素敵ですね……。

 自分たちのやりたいことを応援してくれる人がいるって、

 すごく勇気が湧くことだと思うから」



「おじさん、ずいぶん詳しいんですね。

 もしかして、比布の役場の方ですか?」



 ハルちゃんが尋ねると、

 おじさんは「まあね」と茶目っ気たっぷりに笑った。



「比布町はたくさん、魅力が詰まっているよ。

 スキー場に、温浴施設の遊湯ぴっぷ、そして……お花もね。


 君たち、この町の『町の花』を知っているかい?

 スイセンだよ。

 春になれば鮮やかな黄色が町中を埋め尽くすんだ。


 突哨山とっしょうざんには、

 日本最大級のカタクリの群生地もある。


 厳しい冬を越えて一斉に咲き誇るあの薄紫の絨毯は……

 誰に頼まれたわけでもなく、ひたむきに咲く、比布の誇りだよ」



おじさんの語り口は熱を帯びていて、

比布への愛が言葉の端々から溢れ出している。



「比布のイチゴも同じさ。

 厳しい冬でも栽培できるように工夫してね。

 ……そうだ、君たちは上川農業試験場を知っているかい?」



おじさんの問いに、

俺は記憶を辿りながら答えた。



「上川農業試験場……比布町にあるんですよね。

 確か、昔うちが米農家をやってた頃、

 あそこで『きらら397』が作られたって聞いたことがあります」



「お、よく知っているね。

 それは永山にあった頃だね。


 比布へ移転してきてから、さらに大きな夢が叶ったんだよ。

 ……君も『ゆめぴりか』は知っているだろう?」



 おじさんがハルちゃんに問いかける。



「ゆめぴりか! 知ってます、

 私の家でも毎日食べてるお米です!」



「実はね、その全国ブランドの『ゆめぴりか』こそが、

 ここ比布の試験場で生まれたんだよ」



「えぇっ、そうなの!?

 ウチ、知らずに毎日食べてた……!

 比布で生まれたお米だったんだね」



さっちゃんの驚きに、

おじさんは「ははは、その通りだ。美味しいだろう?」と

愉快そうに笑った。



「遊湯ぴっぷのお風呂にお花、それに最高のお米……。

比布町、何度でもまた来たいです!」



ハルちゃんが身を乗り出すと、

おじさんはふと腕時計に目を落として腰を上げた。



「さて、そろそろお腹も空いたろう。

お昼なら、駅前にある『Calmiss Cafeカーミスカフェ』がおすすめだよ。


ここの豆腐ハンバーグは絶品なんだ。

特に、生姜の効いたきのこの餡が絶妙でね」



「豆腐ハンバーグ……美味しそう。

 ありがとうございます、おじさん!」



おじさんは「いい演奏を期待してるよ」と

軽やかに手を振って去っていった。



入れ替わるように、雅人先生がこちらへ歩いてくる。



「おーい、竜胆。さっきまで村中町長と何を話してたんだ?」



「……えっ? 今の人が……町長さん?」



俺たちが絶句して振り返ると、

先ほどのおじさん――村中町長が、

遠くから親しげに、それでいて少し誇らしげに

こちらに再び手を振っていた。



「ええええっ!?

 あんなに普通に町を歩いてるんですか!

!?」



「ははは、比布の町長は気さくな人だろう。

 さあ、町長直々のレコメンドだ。

 しっかり食べて本番に備えよう」



     



 案内されたカフェは、

 木の温もりが心地よいお洒落な空間だった。


 クールビューティな女性店主が、料理を運んできてくれる。



「お待たせしました。豆腐ハンバーグです」



運ばれてきた一皿からは、生姜の爽やかな香りが立ち上った。

たっぷりのきのこが入った餡が、ふっくらとしたハンバーグを包み込んでいる。



「……んっ! 美味しい!

 生姜が効いてて、意外とさっぱり食べられるね」



ハルちゃんが嬉しそうに頬張る。

隣でさっちゃんも、付け合わせのサラダを愛おしそうに見つめていた。



「見て、このドレッシング。すごく鮮やかなオレンジ色……」



「保存料も着色料も使っていない、

 素材本来の色なんですよ」



店主が補足してくれる。


一口食べると、人参の凝縮された甘みが口いっぱいに広がり、

野菜そのものを食べているような濃厚な味わいだった。


比布の町の優しさをそのまま形にしたような、温かいランチタイム。


町長が誇るこの町が持つ素晴らしさを噛み締めながら、

俺たちは最後の一口まで大切に味わった。



「さあ、あとは彦根が自慢する実力を

 口先だけではなく、ド派手に証明してみせろ」


なんだか祭りの神みたいな事言いながら、背中を後押ししてくれる雅人先生。


エネルギーを充填した俺たちは、

いよいよ熱狂の夏まつりステージへと向かう。


最後までお読みいただきありがとうございます。


さて、本作は比布町長とのコラボ企画として執筆しております。

今回登場した「君の夢プロジェクト」や、ゆめぴりか誕生のエピソード、そして「Calmiss Cafe」の美味しいランチ……これらはすべて、町長様との対話や現地取材で出会った、比布町が誇る本物の魅力です。


【繋がる点と点】

調べていくうちに「君の夢プロジェクト」で都響の奏者が来ていると知りました。

「この方……? ひょっとして、私の恩人の弟さんでは?」

そんな予感を抱きながら、この比布町編を書き進めていきました。


「比布町に行ってみたい!」「豆腐ハンバーグ食べたい!」と感じていただけたら、

ぜひ【ブックマーク】や【感想】で応援をお願いします!

皆様のリアクションが、物語をさらに豊かに彩る力になります。


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