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第87話:こだわりへの共鳴

比布駅で楓たちを待っていたのは、彦根先生の「悪友」であり、

圧倒的なオーラを放つ「イケおじ」指導者・南條雅人先生でした。


ピカピカの外車に揺られ、向かった先は比布中央学校の音楽室。

そこで楓を待っていたのは、埃を被った一台の楽器との運命的な出会いでした。

道具への偏執的なまでのこだわりが、思わぬ共鳴を引き起こし、

物語はプロとの共演という、誰も予想しなかったステージへと加速します。



「南條雅人だ。彦根の悪友だよ。今日は遠いところよく来てくれたね」



 雅人先生が穏やかに、けれどどこか威厳のある笑顔で右手を差し出した。



 シュッとした細身の体躯に、整った顔立ち。いつも見慣れている、少しふくよかな彦根先生とは正反対の、いわゆる「イケおじ」だ。



「初めまして! フルートの春日葵です。今日はプロの音を学べるのを楽しみにしてきました!」



「副局長サックスの井上さつきです。よろしくお願いします!」



「葵とさつきだね。こちらこそよろしく」



「局長の竜胆楓です。コンクールの時は、お騒がせしました……」



 俺が恐縮しながら名乗ると、雅人先生は俺の手を強く握り返した。



「いやぁ、あのスネアの音は忘れられんよ。よし、練習も始まるし。これに乗ってくれ」



 雅人先生が指差したのは、駅のロータリーに停められたピカピカな外車だった。



「うわ、かっこいい……!」



 さっちゃんが声を上げ、ハルちゃんも圧倒されたように見上げている。俺も緊張しながら、いつもの癖で助手席に乗ろうと左側に回り込んだ。



「失礼します……っ」



 ドアノブに手をかけた瞬間、同じようにドアを開けようとした雅人先生と鉢合わせになった。



「おっと、竜胆。俺を差し置いて運転してくれるのか?」



 雅人先生がいたずらっぽく笑う。俺は顔が熱くなるのを感じて、慌てて手を引いた。



「す、すみません! つい……。左ハンドルだったんですね」



「楓、そんなに運転したかったのー?」



 後ろでさっちゃんがケラケラと笑い、ハルちゃんも呆れたように肩をすくめている。



「りん、焦りすぎ。……でも、素敵な車ですね」



「ははは! 彦根の言った通り、面白い奴だ。さあ、乗った乗った. 時間は限られてるからな」



 滑らかな加速でロータリーを滑り出した外車は、のどかな景色を抜けて数分もしないうちに、立派な校舎の前へと滑り込んだ。



 到着したのは『比布中央学校』。


挿絵(By みてみん)


 ここは小学一年生から中学三年生までが同じ学び舎で過ごす、町唯一の施設一体型小中一貫校。


 今は夏休みだが、普段ならグラウンドからは小学生たちの元気な声が響き、校舎からは中学生たちが吹く楽器の音がかすかに漏れ聞こえてくる。そんな、年齢の垣根を越えた独特の活気がある学校だ。



 音楽室のドアを開けると、そこには熱気と、どこか張り詰めた空気が漂っていた。



「雅人先生、お待ちしておりました!」



 真っ先に駆け寄ってきたのは、この学校の顧問を務める寺山先生だった。雅人先生という大先輩を前に、少し緊張した面持ちでテキパキと動いている。



「寺山先生、今日はよろしくお願いします。こっちは彦根の教え子の、不動高校のメンバーです」



「ああ、あの不動高校の! わざわざありがとうございます。中学生たちも刺激になると思います!」



 寺山先生は俺たちに丁寧に頭を下げてくれる。



「寺山先生、さつきと葵の二人は南條先生のところに頼むよ」



 雅人先生がそう言葉をかけると、寺山先生は深く頷き、南條先生が指導している部屋にハルちゃんたちを案内してくれた。



 俺は雅人先生に導かれ、パーカッションパートの隅へ向かう。


 そこで俺の目は、ある一点に釘付けになった。


 大太鼓の裏、壁際に追いやられたスタンド。そこにセットされたまま、真っ白に埃を被った銀色の太鼓があった。



(……ティンバレス。なんでこんな状態で……)



 明らかに長い間、誰の手にも触れられていない。けれど、放置された銀色のシェルは、窓から差し込む陽光を鈍く跳ね返していた。


 手入れをすれば、絶対に応えてくれる。直感的にそう確信した。



「どうした、竜胆。珍しいか?」



 雅人先生の声に我に返り、俺はスネアの前に立った。



「さて、竜胆。中学生のために、お前のこだわりの調整してみてくれ」



 まずは雅人先生に見守られながら、スネアの調整を始める。



「……屋外のステージですし、テンション高めにします。雅人先生、このシェルはスチールなので……リングミュートも幅の細いほうが……」



「……高校生がそんなセッティング考えたりしないだろ。変態め、最高だな」



「褒め言葉ですね!」



 雅人先生が、本当に嬉しそうに俺の肩を叩く。マニアックな会話を交わす俺たちの間には、確かな「音の共鳴」があった。



 すると、リハーサルを終えたプロの南條先生がこちらを振り返ってニヤリと笑った。



「今のスネアの音、いいね……。せっかくだし、今日の夏まつりのステージ、君たちも一緒に演奏してみないかい?」



「……えっ!?」



 俺と、練習していたハルちゃんたちの声が重なった。



 比布の空の下、プロの音に混じって演奏する。俺はもう一度、隅っこに置かれたティンバレスを盗み見た。


(アレを磨いて連れて行けば、面白いんじゃないかな……)



 予想外すぎる展開に、俺の心臓は激しく打ち鳴らされ始めていた。


最後までお読みいただきありがとうございます。


さて、本作は比布町長とのコラボ企画として執筆しております。

左ハンドルの罠にハマる楓でしたが、楽器へのこだわりでは雅人先生を脱帽させるほど。


【無謀な提案】

「比布町のPRを小説でさせてください!」という私の無謀な提案を、町長は快諾してくださいました。

……実はその時、比布町のことをまだ深くは知らなかったのですが、その魅力にどんどん引き込まれていくことになります。


「楓のこだわり、わかる!」「プロとの共演はどうなるの?」と感じていただけたら、

ぜひ【ブックマーク】や【感想】で応援をお願いします!

皆様の反応が、比布の空の下で響く音色をより鮮やかにしてくれます。


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